第5話 ドラゴン少女も求婚中
大陸最強の生物として名高いドラゴン。
そのドラゴンは今、半裸の純白少女となり私に抱きついていた。
しかも私のことを結婚相手とのたまったのである。デジャヴか?
「ちょっと待てい!」
私は叫びながらドラゴン少女を引き離……せない! 力強っ!
「ラティーナ、どうしたの?」
「急に結婚相手って何なのよ! 私何かした!?」
ドラゴン少女は抑揚の少ない声色で答える。
「あんな大胆なことして、ラティーナ、いけず」
大胆なこと? 何もしてないが?
いや待て、ウルの時もそうだった。知らず知らずのうちに魔族的な求婚行為をして、相手が勘違いするパターン。
「わ、私は何をやらかしたの……?」
「私の角に全身で抱きつくなんて、求婚以外にないでしょ?」
「そ、そこかーー!!」
なるほどね、名前の次は角か!
って、いやいや……
「そんなことで求婚になるの!? 判定ガバじゃない!?」
「ドラゴンは背後を取られた時点で恥とする。格上と見なす。その上、求婚行為までされたら敗者の私が従うのは当然」
「なんか私があんたと結婚したがってるように聞こえるけど」
「違うの?」
「違うが!?」
私が強く否定するとドラゴン少女はしゅんと顔を下げた。可愛いなこいつ。
お互いしばらく黙っていると、頭にタンコブを作ったウルが短刀を抜いて走ってきた。
「ご主人から離れろなのです!」
「む」
ドラゴン少女はウルの刀を角で受け、そのまま頭を振ってウルの手から短刀を引き剥がした。
「ラティーナ、この子だれ?」
「この子はウルよ。私の仲間」
「婚約者なのです!」
「は?」
ドラゴン少女の顔が曇る。
いや〜……厄介なことになる予感がするぅ〜……。
「ラティーナ、もう浮気?」
「今んとこ独り身の私に浮気もクソもあるかい! ……いいから、こんな外で無駄話してないで家の中に入りましょ」
ドラゴン少女もウルも首を縦に振って頷いた。
室内でもドラゴン少女は半裸のままで、ふかふかのソファに腰を下ろした。その際ひらひらスカートの中が見えそうになり、サッと目線を逸らす。
「ラティーナのすけべ」
「何の話かしら?」
流石ドラゴンの動体視力ね。別に私だって見たくて見たわけじゃないんだからね!
「で、アンタ名前は?」
「メルト」
「メルトね。どうして私たちに『出ていって』と言い続けていたの?」
ここ誓いの丘は遥か昔から人間たちは立ち寄らないようにしていた。
きっとその理由はメルトにあるのだろう。
メルトは相変わらず抑揚の少ない声色で答える。
「ここは私の聖地。魔力を全回復できる唯一のパワースポット」
「……ここに立ち入った人間や魔族はどうしてたの?」
「全力で脅した」
なるほど、ここに立ち入ってはいけないと言い伝えられた理由が分かったわ。やっぱりメルトが原因だったわけね。
私たちの会話を面白くなさそうに聞いている少女がメルトを睨んでいる。もちろんウルのことだ。
「……ラティーナ、躾のなってない犬が睨んでくる」
「誰が犬ですか! ウルは誇り高い灰狼族なのです!」
「お手」
「ワン! ……じゃないのです!」
すごい、犬猿の仲に見えるメルトにもちゃんとお手をした! 抗えない本能ってやつ?
「ぷっ、面白い犬。新婚生活のペットにいいね、ラティーナ」
「え、いや……」
「ふざけるなです!! ご主人はウルと結婚するのです!」
「犬と人間は結婚しない」
ドラゴンともしませんが……
その後、メルトが龍の姿になって巣に帰るまで不毛な言い争いは続いた。
「はぁ、疲れた……」
世界最強の生物と戦い、勝手に結婚されて……疲れないわけがないでしょうが。
「ご主人、お疲れ様なのです。料理はウルがやるですよ」
「ありがと〜。ウル優しい」
褒めるとウルは分かりやすく上機嫌に尻尾を振った。犬だ。メルトの指摘通りめっちゃ犬だ。
大型の冷蔵庫を開けたウルが「あれ?」と呟いた。
「どうしたの?」
「ご主人、お肉がもう無いのです」
「あー……」
心当たりはある。だって1人で生活する予定だったのにウルが来て、そこから肉尽くしだったもの。そりゃ最初の買い出し分は無くなるわよ。
「そうよね〜、まさかウルと共同生活を送ることになるとは思ってなかったし、色々足りないものが出てくるわよね」
それは今後生活していく上で必ずぶつかる壁だった。私の胸にぶつかった記憶はないですって? よし、貴様はメルトに潰されろ☆
「ウル、今日はお肉は我慢してちょうだい。その代わり明日、王都に買い出しに行きましょう」
「王都ということは……人間の巣に行くですか!?」
「人間の巣……魔族的にはそうなるのね」
「人間の巣は殺し屋ばかりで危ないと言い聞かせられているのです……」
ウルはプルプルと体を震わせていた。
「凄まじい偏向報道ね! 大丈夫よ、ウルは尻尾を体に巻いて耳はフードで隠せば魔族とはバレないわ」
たぶん。まぁもしバレても私が聖女パワーでなんとかしてみせる。
まさかこんなに早く王都に足を運ぶことになるとはね。
厄介なやつ、主にクソ勇者関連の人間に見つからないといいけれど。
◆
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