人気Vチューバーへ恋のアドバイスをするとなぜか翌日似たことが起きる件

ニセ梶原康弘

プロローグ 「特別ライブ配信。視聴者は僕だけ」

 まさか……と思いながら指定された動画サイトのURLにアクセスする。

 いつも観ている動画サイトだけど、そこは視聴者を限定出来る特別コンテンツだった。

 だけど見慣れたVtuberアイドル「泥沼レン」がいつものようにそこにいて、「おーい」と両手を振って僕を迎えてくれた。


「ケンティくん……来てくれたんだね」


 背景はいつものバーチャルのラジオ放送ブースじゃなく、レトロチックなカフェだった。窓辺から差し込む光が薄暗い部屋で微笑む彼女を静かに照らしている。


『レンのお願いだからね。重大放送っていうし、こりゃ緊急事態だと思って』


 コメント入力で書き込むとレンは「う、うん」と、うなずいた。


 どうしたんだろう、いつも落ち着きなく笑ったり泣いたりで喜怒哀楽の激しいレンが今日は言葉も少なげだった。ただいつも以上に緊張している。

 血走ったギョロ目の大きな瞳。アホ毛が何本も自己主張しているハーフツインテール。ちょっとでも顔を整えたらもっと可愛いのにといつも思う残念系の、だけどそのままでも充分可愛いバーチャル美少女が僕におどおどして笑いかける。


「ケンティくん、あ、あのね……いつもレンのダメダメな恋を応援してくれてありがとう」

『今さら改まってそんなこと言うのやめてくれよ。それじゃまるでお別れみたいじゃん』


 お別れ、と聞いてレンの肩がビクンと撥ねた。こりゃ絶対何かあったな。


『まさか、動画配信を卒業しますなんて言い出すつもりじゃないよね』

「ば、場合によれば、そうなっちゃうかも……」

『は?』


 冗談のつもりかも知れないが聞き捨てならん。僕は『おい、フザけんな!』と、コメントから凄んだ。


『チャンネル登録者数、いま何人だと思ってる? 一〇万人だぞ!』

「知ってる」

『レンの恋を応援してる一〇万人をいきなりおッり出して『卒業します』はないだろ。一〇万人がアンチに豹変したらどーすんだよ!』

「そ、そうだけど……それくらい重大なの!」


 うっ、コイツ逆ギレみたいに開き直りやがった!

 しかし、そこまで重大というからにはよほどの緊急時事態だ。レンがずっと片思いしていた彼、「王子さま」にいよいよ告白する決心をしたのか。それとも最近現れたライバルの女の子に彼を取られてしまったか、たぶんどっちかだ!

 僕は固唾を呑んだ。


『一体何があったの?』

「うん……」


 聞いて欲しいことがある、といって僕らを呼び出したもののレンはなかなか言い出さない。口ごもって、こちらをチラチラ見ている。ファンの僕に告白する訳でもあるまいに、何をもじもじしてんだ。

 イラついた僕だったが、その時なんか「あれ?」と、違和感を感じた。

 こんな時、僕と一緒にツッコんだり励ましたりする大勢の視聴者が一向に参加して来ないのだ。この緊急事態に。


『他の人、来ないね』

「……来ないよ」


 え?


「この配信はケンティくん限定なの」


 僕がビックリしていると、レンは真剣な目で「ケンティくん」と、画面のこちら側を見つめてきた。凄く思い詰めた目をしてる。


「ケンティくんは……前に『レンの恋を絶対叶えてあげたい』って言ってくれたよね」

『うん、言ったけど』

「その言葉に偽りはない? ホントにホント?」

『ないよ。ホントにホント』

「……」


 この娘がひとり相撲な恋で、ずっとささいなことで泣いたり喜んだり、落ち込んだり怒り狂ったりしてきたのをずっと見てきた。なんとか気持ちが伝わって二人が恋人同士になって欲しいと、僕はずっと思っている。

 そんな僕に「驚かないで聞いてね」と前置きすると、レンは妙なことを言い出した。


「実はね、ケンティくんはレンの恋を叶えることが出来るんだ」

「は? 何の冗談だよ』

「冗談じゃないよ! 嘘みたいだけど、私も最近知ったの。本当に本当なの!」

『……』


 そんなこと急に言われてもにわかに信じられるはずがない。僕は呆気にとられた。


『だって、僕はレンの中の人がどんな女の子か、本当の名前だって知らないよ。好きな男の子が誰かも。通ってる高校だって』

「……」


 レンは、それには応えずに、大きな瞳を瞬かせて僕をじっと見つめながらもう一度聞いた。


「泥沼レンの、一生に一度のお願いです。か、叶えてください……」

『……』

「お願いです。うんと言って下さい……言ってくれたら……こ、怖いけど、ぜんぶ話すから」

『……』

「お願いします……お願いします……」



 声が震えている。画面の向こうで握りしめた手もブルブル震えていた。

 どういうことなのか、事情はサッパリわからない。

 だけど、真剣なんだと知った僕は彼女には見えない画面のこちら側で「わかった」と、うなずいた。


 泥沼レン。


 不格好で泥臭いけど、だけどひたむきな片想いをしているVtuber。

 実は、僕は彼女に恋をしている。一生懸命恋をしている様子がとてもかわいくて、こんなにも想われてる「王子さま」がすごく羨ましかった。

 彼女が好きな人と結ばれたら僕は失恋する訳だけど、むしろそれでいいって思っていた。

 彼女の恋が叶うなら、僕は何でもしてあげたかった。まぁ、生命を取られるなんてことはないだろう。


『いいよ』

「……!」

『僕は何をすればいい?』


 レンは驚いた顔でしばらく画面越しに僕を見つめていたかと思うと唇を震わせ……ふいに画面が切り替わった。

 バーチャル空間じゃなく、花柄をあしらった白い壁が見える。

 これは……Vtuber泥沼レンの「中の人」の部屋だ! 初めて見……


 あれ? どこかで見覚えがあるような……


 そして、おどおどしながら「こんにちは」と、懸命に微笑みかける女の子の姿を見たとき、僕は「君は……!」と驚きの声をあげた。


 だって、その娘は……

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