5-3 きっかけ
『こうして、トールくんとノラちゃんはサーカス団を作る決断をするんです。メンバー集めをしたり、サーカス会場になる巨大テントを建てたり、演目を考えたり、練習したり……。エンドロールのイラストでしかその様子は見られないですが……でも、良いですよねぇ』
エンドロールが流れる中、ルナは頬に手を当ててうっとりとした表情を浮かべる。
ノラルートは戦闘がないため当然ボスも存在しない。
選択肢のみで進んでいくため、ノラルートをやっていると「あれ、これってRPGだっけ?」とついつい思ってしまうことだろう。
でも『リベルナ』はあくまで主人公のトールが生きる理由を探すゲームだ。ノラルートも確かな一つの答えであり、テーマ的にも心に刺さるプレイヤーは多い。
『私はこうしてYouTubeで配信をしたり、声優を目指したりしていますけど。私も楽しませる側の人間になりたい! って最初に思ったきっかけがこのノラちゃんルートだったんです。「リベルナ」が私にとって大切なゲームになったのも、ノラちゃんルートがあったからでした。……先輩方、楽しんでくれましたかね、私の実況』
エンドロールが終わるや否や、ルナはムーン先輩達に問いかける。
たくさんの拍手と、「楽しかったよ」「もちろんだよ」という温かい声。望が「ノラちゃんと出会えたからルナちゃんがいるんだね」とコメントすると、ルナは笑顔で反応してくれた。
『そうなんですよ。ノラちゃんがいたから、私はこんなにも楽しい日々を送っているんですよ。……えっ、大袈裟ですか? でも仕方ないじゃないですかー。私、知っちゃったんですもん。皆に楽しいって言ってもらえることが、どれだけ幸せなことか』
胸の前で両手をぎゅっとして、ルナは改めて「ありがとうございます」と囁く。
すると――何故だろう。
急にコメント欄が「おめでとう」の文字で埋め尽くされてしまった。
実況が完結したからだろうかと思ったが、それにしては「やったああああ」だの「この瞬間を待ってたんだ……」だの、コメントの熱量が高すぎる。
『へぇっ? ちょ、ちょっと待ってください。もしかしてそういうことですか……?』
素っ頓狂な声を上げながら、ルナは思い切り瞳をきょろきょろとさせる。ゲーム画面とは別のものを確認しているのが丸わかりだ。
「マドカ」
「……わかってる。僕も今……確認したから」
かくいう望も今の今まですっかり忘れていた。
だって仕方がないではないか。大事なエンドロールの最中だったのだ。ストーリーの余韻に浸りながらルナとともに感想を伝え合う特別な時間だった。一旦『隠れた名作再生プロジェクト』のことが頭から離れてしまうのは、むしろ当然のことと言っても良いのではないだろうか。
『あ……』
ごくごく小さなルナの声が耳に届く。
たった今、彼女も見たのだろう。『ルナと旅するリベルナ日記』の初回の再生数を。
『い……一万再生、突破してます……! 私、あ……というよりも皆さんのおかげで……それで、あのっ』
てんやわんやになりながらも、ルナは確かに言った。
一万再生突破、と。
夢に見た目標達成。これでライブリリィにルナ達の想いを届けることができる。確実に移植やリメイクをする訳ではないが、それでも大きな一歩になった。
「もっと自分を誇れば良いのにな」
「それは……うん、本当にそうだと思う。ルナちゃんの実況は本当に楽しそうだったし……『リベルナ』への想いもたくさん感じたから」
「初見の俺にも楽しさが伝わったんだ。それって凄いことだと思うんだよな。……それで言うと、マドカの動画編集も良かったけどな」
玲汰の言葉に対して、望は反射的に「そんなことないよ」と言いそうになる。
でもすぐに違うと思った。今だけは謙遜したくはない。胸を張って「そうでしょう?」と言いたい。
この数ヶ月、望はたくさん頑張ってきた。
頑張ったおかげで玲汰や愛未という仲間ができて、自分のやりたいことにも気付けて、加奈枝に想いを伝えたことで一気に道が開かれた。
作品への愛と、ほんの少しの勇気と、ビックリするような偶然と。
それらが混ざりに混ざり合ったからこそ、一つの目標に辿り着くことができたのだ。
『正直……難しいんじゃないかっていう瞬間もありましたよ。だって……どう考えてもライブリリィは「音のカントール」が最有力候補じゃないですか。「リベルナ」は陰に隠れまくりで、新人VTuberである私の再生数が一番多いっていう前代未聞の状況で……。めちゃくちゃプレッシャーがあった中で配信をしていた訳ですよ』
感謝の言葉とともに、ルナは本音を零す。
誰か一人でも有名配信者の味方がいたら、ルナはもっと気楽に配信ができたのかも知れない。だけど苦しみや悲しみを経験してきたからこそ出せた情熱があって、彼女の配信を見守る視聴者達の一体感ができたのだ。
ファンアートや切り抜き動画もだんだんと増えていって、ムーン先輩がその投稿を拡散して……。
皆が皆、絶対に一万再生を突破させるぞという思いに溢れていた。
『先輩方がいてくれたから、私は全力で楽しみながら「リベルナ」の配信をすることができました。本当にありがとうございますっ』
きっと、ルナは明るい声で言い放っているつもりなのだろう。
しかし望は気付いてしまった。微かに震える声に、鼻を
喜びの涙というものは、どうしてこうも刺激を与えてくるのだろう。
隣には玲汰がいるというのに目頭が熱くなってきてしまって、望は慌てて俯いた。
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