第五章 旅の終わりと僕らの未来
5-1 【リベルナ】ルナと旅するリベルナ日記 ラストページ【本屋ルナ】
七月二十三日。
夏休みに突入し、『隠れた名作再生プロジェクト』終了まで残り一週間ちょっとに迫った今日。望はとてつもない緊張感に包まれていた。
一つは配信版の再生数で、目標である一万再生まで残り百を切っていること。
もう一つは『ルナと旅するリベルナ日記』の最終回がこれから配信されること。
そして最後の一つは、
「悪いなマドカ。せっかくのお泊りイベントなのに、胡桃沢じゃなくて俺で」
館花玲汰が望の部屋にいるということだ。しかも泊まりで。
理由は最終回の配信を一緒に見届けるためだ。配信は午後八時から始まるため、きっと終わる頃には夜中になってしまうだろう。だから着替えや歯磨きセットまで持参して宿見家にやってきたという訳だ。
「いや、うん……。大丈夫、だよ……相手が胡桃沢さんだったらもっと慎重になるから。こんな無茶苦茶が許されるのは玲汰くんくらい……だと思う」
「何だ、本当は嫌だったのか」
「い、いやぁ? 全然そんなことはないっていうか、むしろ嬉しい……けど」
「ふっ、だろうな」
玲汰は何故か得意げに笑う。
だろうなって何だよと思ったが、いちいち突っ込んでいたら彼の思う
さり気なく壁かけ時計を確認してから、望は配信の待機画面をPCに表示させる。
ちなみに、望も玲汰もすでに入浴を済ませていた。望はグレーのスウェット、玲汰は紺色の
「玲汰くん。その椅子、座って良いから」
白とライトブラウンを基調とした清潔感のある部屋。
だけど誰かを招くことは想定していないため、椅子という椅子はゲーミングチェアくらいしかなかった。
「ん、俺はベッドの上に座るから問題ないぞ」
「いや……そっちの方が落ち着かないから」
「あぁそうか。なるほど、つまりマドカは……」
「ここで胡桃沢さんの名前を出すのはなしだからね?」
「…………バレたか」
再び「ふっ」と笑ってから、玲汰は大人しく望のゲーミングチェアに腰かける。望もベッドの上に座り、その瞬間を待った。
【リベルナ】ルナと旅するリベルナ日記 ラストページ【本屋ルナ】
午後八時。予定通り本屋ルナの配信が始まった。
同接はすでに百を超えている。まるで本屋ルナの初配信の時のような盛り上がりだ。普段はアーカイブやマドカの編集した動画版で観ている人達も「最終回はリアタイで見届けたい」と思ってくれる人が多いようで、温かいコメントで溢れている。
『先輩方、こんばんはです! 今回は告知していた通り、「リベルナ」配信の最終回をお届けしたいと思っている……の、ですがっ! な、何ですかこのコメントの勢いは! 私、早くも泣いちゃいそうですよ~!』
ルナは普段より声のトーンを上げながら両手を全力で振る。「泣くのはまだ早いよ」などのコメントを読み上げてから、心を一旦落ち着かせるように深呼吸をする。
『正直なことを言うと、初回配信の再生数も気になるところではあるのですが……。今日は大事な最終回ですから。最後まで目一杯楽しみながらプレイしていきたいと思います。先輩方、よろしくお願いしますね?』
ルナが小首を傾げながら訊ねると、「はーい」のコメントや挙手の絵文字で溢れる。うんうんと満足げに頷いてから、ルナは今日の配信の流れを説明した。
早速ゲーム本編を進める――訳ではなく、まずはおまけパートを見るところから今回の配信は始まる。
つまりは主人公の幼馴染、リリアナルートを見るということだ。一度ゲームをクリアしてからリリアナルートを見るのも一つの手だが、それだと最終的にリリアナルートの印象が強くなってしまうかも知れない。
ルナにとってのメインルートは確かに存在していて、ラストを締めくくるのはやっぱり自分の本当に進みたい道が良い。というのがルナの考えらしい。
『おまけのリリアナルートを見てから本編のエンディングへ、というのが今回の流れになります。……ということで、早速少し古いデータをロードしていきますね?』
最新のセーブデータは残り一つの異世界に旅立つ直前のものだ。
その異世界こそがルナの行きたいルートらしく、最後の異世界を巡ってからそのままエンディングへ向かう予定だった。
新しい世界観に浸る前に、ルナはちょっとだけ懐かしい記憶を呼び起こす。
これはトールにとって大切な幼馴染、リリアナとの話だ。
故郷に帰ってきて、トールの記憶が戻って、リリアナと再会して、そして――。
『元いた世界で再び暮らして、リリアナちゃんとともに生きていくか。また別の世界へと旅立って、自分の生きる理由を見つけに行くのか。……何度見ても震える選択肢ですよね。でも今回はこっちを選びますっ』
えいやっ、とルナはリリアナと暮らす道を選ぶ。
リリアナはもちろん嬉しそうに笑う……訳ではなかった。何故か困ったような眉をハの字にして、まっすぐトールを見つめてくる。
「本当に後悔はない? 大丈夫?」
という言葉とともに、もう一度同じ選択肢が現れる。リリアナは心の優しい女の子だ。だからこそプレイヤーの心を揺さぶってくる。
『しかも今回は時間制限付きなんですよ。十秒間のうちにどちらかを選ばないと、リリアナちゃんの方から言ってくるんです。「わかったよ、行っておいで」って。ほんっとうにリリアナちゃんらしい演出で鳥肌が立っちゃうんです、が! 今回はこちらを選ぶと決めているのでっ』
言って、ルナはリリアナルートへ進むための道を選択する。
するとリリアナの表情が一変した。幼い頃、彼女は転ぶ度にわんわんと泣くような子供で、今の表情はその頃の泣き顔にそっくりなのだ。
溢れる涙を隠さず、何度も「嬉しい」と零すリリアナ。
瞬間、トールは気付く。リリアナはただの幼馴染ではなく、もっと大切で、守りたいと心から思う相手なのだと。
この世界は決して平和になった訳ではない。
人間を襲う魔物は山ほどいて、リリアナは魔物と戦う者のための宿屋を営んでいた。リリアナからは一緒に働かないかと提案されるが、トールは首を横に振る。
トールは戦う決意をした。守りたい人を守るために。両親の仇を討つために。
それが、トールにとっての生きる理由だった。
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