3-8 僅かな光でも

「良かった」


 すると、愛未がぼそりと呟く。

 美以子と望と視線を合わせると、愛未は小さく頷いた。


「ボク以外にも味方がいて嬉しいよ。ボクもボクなりに頑張ってみる。……やりたいこと、たった今思い付いたんだ」


 言って、愛未は得意げに口元をつり上げてみせる。


 三門愛未、モデルとしても活躍する大学四年生。

 朝の情報番組にも出演経験のあるような有名人で、ふと我に返ると「何なんだこの状況は」と思いそうになる。


 だけどそんな彼女だって『リベルナ』な好きなだけの一人の女性だ。

 悔しいという感情に包まれて、それでも前を向こうと決意した同志だ。


「それって、また私……本屋ルナと対談するってことですか?」

「それももちろん良いんだけどね。二人とも、ボクの趣味がコスプレだってことは知ってる?」

「あ……」


 そういえばそうだった、と言わんばかりに望は美以子と顔を見合わせる。

 以前に愛未と対談した時は『リベルナ』の話しかしなかったが、美以子も望も当然のように愛未のSNSをチェックしていた。『リベルナ』のことやモデルの仕事関係の話題に混ざって、時折コスプレの画像が上がっていたのは望も認識していたことだ。


「ボクは『リベルナ』のコスプレで盛り上げようと思うんだ」

「わぁ、良いですねぇそれ。どのキャラクターをやるんですか?」

「それはまだ内緒。でも、絶対にプロジェクト終了までには間に合わせるから」


 愛未は口元に人差し指を当て、ウインクをしてみせる。

 コスプレ界隈のことはよく知らないけれど、『リベルナ』のコスプレをしたことがある人はごく少数なのは望にもわかることだった。

 たまにコスプレイベントの画像がタイムラインに流れてくることがあるが、有名アニメやゲームのキャラクターに偏っている印象だ。確か「カントールシリーズ」は見かけたことがあったような覚えがある。

 やはりライブリリィの顔は「カントールシリーズ」であることは揺るがない事実だ。


 でも、


「…………三門さんのコスプレなら、凄く注目を浴びると思います」


 望は素直な本音を零す。

 すると何故だろう。愛未はどこか気まずそうな笑みを浮かべた。


「あー……。知名度的な意味でボクに期待してるならごめんね。ボクは、まぁ……バラエティ番組とかに出ると『誰?』って書かれることが多いから。結局ボクはファッション業界の人間でしかないからさ」

「……あぁ、そうか。そういう意味で捉えられちゃたか……。普通にコスプレの技術のことを言ったんだけどな」


 思わず独り言が漏れ出る。

 目を見てはっきり言えたら良いのだが、現実とはなかなか上手くいかないものだ。


「えっ、と……。彼っていっつもこういう感じなの?」

「はい。本人が言うには無意識みたいで……」


 ――ん?


「わざとでもわざとじゃなくても、どっちにしろ人たらしだね」

「マドカくんは素直で良い子なんです。だから時々恥ずかしくて……」


 ――おかしい。

 二人から非難の目を向けられているような気がする。しかもどうしてか、愛未の頬が心なしか赤らんでいるようにも見えた。


「でもボクはこういうの大好物だから、何か進捗あったら教えてね」

「み、三門さん……?」

「あとボクのことは気軽に愛未って呼んでよ。ファンの子達からはカドマナって呼ばれてるんだけど、二人からは普通に下の名前で呼んで欲しくて。だって大切な仲間でしょ?」


 戸惑う美以子をスルーしながら、愛未はまたウインクを放ってみせる。

 何だろう。愛未は玲汰に似たものを感じる。

 ラブコメ的空気になった時に「眼福」発言をした彼と同じような感覚だ。こちらまで恥ずかしさが伝染してしまうからやめて欲しい。


「大切な仲間……」


 だけど愛未のこの発言は純粋に嬉しかった。

 思わず呟くと、愛未が遠慮なく顔を覗き込んでくる。


「ボクじゃ頼りなかった?」

「そんなこと、言わないでください。……ありがとうございます。ええと……愛未さん」


 今度は頑張って目を合わせてから、望は頭を下げる。


「ん、良かった。一緒にあらがおうね。ルナちゃん、マドカくん」


 ――一緒に抗おう。


 その言葉の中に、いったいどれだけの負けられない気持ちが込められているのだろう。

 自分達はただ、好きなゲームの移植・リメイクを目指しているだけなのに。傍から見たら「何をそんなに必死になっているの?」と思われてしまうことをしているかも知れないのに。


 一緒になって前を向いてくれる人がいる。

 現実を考えるとほんの僅かな光でしかないが、望にとっては確かな力になっていた。

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