2-9 一人の味方と大切な友達

「頑張れって思った。心の底から。……それくらい俺にとっては衝撃で、夢中になれるものだと思ったんだ」


 さらりと言い放ち、玲汰は「いい加減食べるか」と両手を合わせる。

 望も同じように手を合わせてパスタを口に運んだ。濃厚だけどピリ辛で癖になるような味だ。やはり玲汰は料理上手である。


「狭かったな、本当に」

「え……っと。それは、僕の部屋がって……こと?」

「んな訳ないことくらいお前にもわかるだろ。だいたい過去形で話してるんだから察することはできるだろ。……俺の視野がってことだよ」

「…………そっか」


 ベッドに、勉強机に、テレビに、ゲーム機に、ゲームソフトや漫画などが雑多に並べられた本棚に、二人分のクリームパスタが何とか乗っているテーブル。

 確かに望の部屋は狭いが、清潔感は意識している。白とライトブラウンを基調とした部屋は明るい印象があって、根暗な自分には似合わないと常々思っていた。

 でも、今はちょっとだけ違う。


「ありがとう」

「何で宿見がお礼を言うんだよ。今は俺の番だろ」

「でも、ほら……何ていうか。自分が好きなもの好きになってくれるっていうのは…………やっぱり、嬉しいものだから」


 ぱっと心に灯がともる。

 こんな経験は初めてだった。ネット上で誰かに好きなものを布教することはあるが、こうして面と向かって「夢中になれるもの」と言われるのは嬉しい以外の何ものでもない。


「そ、それで……どうだった? 『ルナと旅するリベルナ日記』、観てくれたってことだよね?」

「あぁ、観たぞ。配信されてた三回分と、宿見が編集した動画版三つ。あとは本屋ルナの初配信と、雑談配信もいくつか観たな。あれはラジオ感覚で聴くのにちょうど良いんだ」

「めちゃくちゃ観てる……」


 ぼそりと本音が漏れる。

 それくらい驚きだった。望としては『リベルナ』配信だけ観てくれれば満足だったのに、マドカが編集した動画も観てくれて、しかも他の本屋ルナの配信も普通に観ているなんて。


「驚いたか。俺はもう完全にムーン先輩だぞ」


 言って、玲汰は自慢げに笑う。

 確かに驚きだ。まさかクラスメイトの口から「ムーン先輩」というワードを聞く日がくるなんて思わなかったから。


「それで、『リベルナ』配信の感想だが…………良かったぞ。初見に優しいゆっくりとした進み具合で、ムービーシーンは黙っているのも助かったな。あと……あれだ。BGMを聴くためにわざわざ立ち止まるのが微笑ましかったな。満足そうに目を細める本屋ルナの姿も印象的だった。VTuberっていうのは動きでも反応が見られるのが良いな」

「…………」

「どうした。何か変なことを言ったか」

「いや……本当にちゃんと観てくれたんだなって思って」


 望と美以子は最初、玲汰に「意見が欲しい」と言った。

 だから詳しく感想を述べてくれているのかも知れないが、それにしたって熱量が凄いのだ。ストーリーもわくわくするし、魅力的なキャラクターばかりだし、音楽も良い。少々べた褒めしすぎな気もするが、玲汰からは気を遣っているようなオーラを一ミリも感じなかった。

 純粋な彼の気持ちであり、だからこそ安堵感を覚える。


「宿見の……いや、ここはマドカって言うべきか。マドカの編集も良かったぞ。ストーリーもわかりやすかったし、配信の方を観たくなるような絶妙な編集だったな」

「ちょっと、その……褒めすぎだと、思うけど」

「何だ。お前らはリメイクとか移植を目指してるんだろ。だったらもっと胸を張れ。自由な生き方を知らなかった俺がここまで言ってるんだ。これは凄いことだぞ」

「あ……自分で言っちゃうんだね……」


 小さく漏らしながら、望は笑う。


 面白いって思った。

 嬉しいって思った。


 だけどそれ以上に、胸の内側から熱くなっていくのを感じる。


「それに……何よりもあれだな。俺もやりたいと思ったよ、『リベルナ』」


 もしかしたら、これが一番聞きたかったセリフだったのかも知れない。

 胸の中の炎が大きくなっていく。


「館花くん」

「ん? 俺はマドカって呼んだはずだが」

「う、意外と面倒臭いな……」


 独り言が漏れる。無意識というより、半分以上はわざとなのかも知れない。


「……れ、玲汰くん。良い結果が出るように頑張るから。……応援して欲しい」

「ああ、もちろんだ。何か力になれることがあったら言ってくれ。友達として支えることくらいならできるから」

「…………うん、ありがとう」


 視線が交わる。


 一人の味方と、大切な友達ができた瞬間だった。

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