2-7 偶然の連続
塔屋の上に三人で座り、弁当を広げる。
今日のメインのおかずはアスパラベーコンだ。珍しく母親に頼まず自分で作ってきた。もしかしたら料理上手な玲汰に対抗したかったのかも知れない。
「……凄い。ハンバーグだ」
玲汰の弁当箱を覗き、望は素直な本音を漏らした。
小さめのハンバーグが三つ並んでいる。冷凍食品でよく見かけるサイズ感だが、玲汰のことだから冷凍食品という訳ではないのだろう。
「別に今朝作った訳じゃないぞ。作り置きだ」
「それでもハンバーグって、その……手間だと思うし。僕なんかアスパラベーコン作るだけでバタバタしちゃったから。ハンバーグを弁当に入れようっていうだけで凄い……と思う、けど」
「うんうん。館花くんもマドカくんも凄いよ~。私は料理ってあんまりしないからさ」
美以子は照れ笑いを浮かべ、買ったばかりのパンを取り出す。
あんぱんときなこの揚げパン。どちらも甘い系のパンだ。
「やっぱり緑茶に合うのに甘いパンだよねぇ。特に小豆とお茶の相性は抜群だよ」
言って、美以子はあんぱんを一口食べてから水筒の緑茶を啜る。
何故だろう。水筒のはずなのに美以子が持つと湯呑みに見える。ほうっと幸せそうな息を吐く美以子の姿を見ていると、こっちまでほっこりとした気分になってしまった。
「それで、俺に頼みって何だ?」
しかし、玲汰の言葉で気が引き締まるのを感じた。
これは単なる不思議な組み合わせの食事会ではない。望と美以子にとって重要で、玲汰にとっても大きなきっかけになるかも知れない頼みごとだ。
望は美以子とアイコンタクトを取る。
美以子がすぐさま力強く頷いてくれて、望は内心ほっとした。いったい何から話したら良いのかと望も悩んでいたのだ。
「まずは……そうだなぁ。館花くんはVTuberって知ってるかな?」
「あー、そうだな。ちゃんと観たことはないが、何となくはわかるぞ」
「あっ、なら良かった。実は私、本屋ルナって名前でVTuberをしてるんだけどね……」
こうして、美以子はスマートフォンで本屋ルナのチャンネルを見せながら説明をし始める。
玲汰は「そうなのか」「設定も凝ってるんだな」「表情も豊かだ」と、思った以上に興味津々の様子だった。今までちゃんとVTuberに触れたことがなかったなら当然の反応とも言えるのかも知れない。望も初めて知った時は興奮したものだ。
「胡桃沢はどうしてVTuberをやろうと思ったんだ。やっぱりゲームが好きだからか?」
「んー、それもあるけど一番は声優になりたいからかなぁ。演技の練習にもなるかなって思ったんだよね」
「……なるほどな。話し方一つでこんなにも雰囲気が変わるものなんだな」
玲汰は感心したように頷いている。
初配信の時に「将来の夢は声優」と言っていたが、ルナだけではなく美以子自身も声優になるのが夢らしい。
「そっか。じゃあ誕生日もルナちゃんと同じなのかな……」
独り言が漏れる。
美以子はふふっと笑みを零し、すぐに頷いてみせた。
「そうだよ~。年齢はルナちゃんの方が二つ下だけど、誕生日は一緒なの。九月二十日。……もうその頃にはプロジェクトの結果が出てるんだよねぇ」
天を仰ぎながら、美以子は小さく漏らす。
九月二十日。望は三月生まれだからだいぶ近く感じる。だけど確かに、その頃には『隠れた名作再生プロジェクト』の応募期間は終わり、結果が出始めている頃だろう。案外プロジェクトの三ヶ月間というのは一瞬で過ぎていくものなのかも知れない。
「プロジェクトって何だ?」
玲汰がクエスチョンマークを向けてくる。
そうだ。今はまだ本屋ルナの話をしただけで、玲汰は『隠れた名作再生プロジェクト』のことを知らない。というよりも「プロジェクト」とワードではっとしない時点で、やはり玲汰はゲーム業界について詳しくないのだと気付いた。
「館花くん、『隠れた名作再生プロジェクト』って知ってる?」
「いや、聞いたこともないな。それは動画配信に関係があるのか?」
「うん、そうなんだよ~。実はね……」
それから美以子は『隠れた名作再生プロジェクト』の説明を始めた。
美以子はVTuber・本屋ルナとして活動していて、そんな中思い出のゲームの移植・リメイクを目指すプロジェクトが始まって、美以子には大好きなゲーム――『リベルナ』があって。そして、隣には同じく『リベルナ』が好きな望がいる。
「僕と胡桃沢さんは、その……つい最近、同じゲームが好きなんだって気付いたんだ。しかも、僕は元々本屋ルナのことを応援していて……。そんな時にプロジェクトが発表されて、僕も協力することになった…………って感じなんだけど」
改めて説明すると、本当に偶然の連続なのだと感じる。
きっと、秋葉原で美以子と出会ってなかったとしても、迷いなくルナのことを応援しただろう。でも動画の編集を担当するまでには至らなかったかも知れないし、こうして直接顔を合わせてプロジェクトの話をすることもなかった。
複数の偶然が重なったからこそ、今の関係性が存在するのだ。
「なるほど。それでお前らは付き合い始めたのか」
そう、こうして望は美以子と恋人同士になって……。
「いやいやいやいや何言ってるの館花くんっ?」
思い切り声が裏返る。
今日イチの大きな声が出てしまった。
「どうした」
「いや、あの……どうした、じゃなくて……」
「胡桃沢が挑戦するプロジェクトに、宿見が付き合ってるって話だろ?」
「…………」
紛らわしい。紛らわしいったらありゃしない。
という反応を望は一瞬しようとした。しかし玲汰の表情がどこか得意げなことに気が付く。もしかしたら彼は二人を――特に望をからかっているだけなのかも知れない。
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