第二章 ルナと旅するリベルナ日記

2-1 【リベルナ】ルナと旅するリベルナ日記 一ページ目【本屋ルナ】

【リベルナ】ルナと旅するリベルナ日記 一ページ目【本屋ルナ】


 五月二日、午後八時。

 ついに旅のページがめくられた。


 記念すべき一回目の配信であり、大事なプロローグでもある。

 配信が始まる三十分前、美以子から電話がかかってきた。本屋ルナとして喋っている時はあんなにも堂々としている美以子だが、今日は昨日の初配信よりも緊張しているらしい。


「だ……大丈夫。気を付ける部分はネタバレくらいだと、思うから。……うん。楽しいって気持ちが伝わる配信になれば良いんじゃないかな」


 言いながら、何を偉そうにと思った。だけど美以子は笑顔で受け止めてくれて、そして――今に至る。



『先輩方、こんばんはです! 初めましての人は初めまして、昨日振りの人は今日もよろしくお願います。本屋ルナですっ』



 まだ二回目の配信だというのに堂々としていて、本屋ルナという敬語で後輩なキャラクター性もブレていない。さっきまで緊張していたのが嘘のようだ。


『ということで、今回は本屋ルナにとって初めてのゲーム実況になります。私にとって特別で、大切で、大好きな作品、「リベルナ」です。皆さん拍手! わー、ぱちぱちぱち』


 自分で擬音を口にしながら拍手をし、コメントも絵文字で埋め尽くされる。

 そのままオープニング映像が流れ始め、ルナは「一旦黙って観ましょう」と囁く。


 ゲーム実況のスタイルは様々なものがあるが、ルナはオープニングなどのムービーシーンは黙っているタイプらしい。

 望にとっては見慣れたオープニングではあるが、初見の人も多いはず。何となくの世界観を知るには重要な部分であり、望は心の中で拍手をした。


『やー、何度見ても最高のオープニングですねっ。作画も良いし……そう! 幻想的なメロディが癖になるんですよねぇ』


 オープニングが終わるや否や、ルナはうんうんと満足げに頷く。

 気持ちはよくわかるし、初見の人の反応も上々だ。


『このままゲームスタート……といきたいところですが、正直「リベルナ」とは何ぞや? と思っている人も多いと思います。なので、さらっと説明をさせていただきますね?』


 タイトル画面の状態でルナは語り始める。


 今から十五年前に発売されたロールプレイングゲーム、『リベルナ』。

 開発は株式会社ライブリリィ。代表作はロールプレイングゲームの「カントールシリーズ」と、リズムゲームの「リズムアイランドシリーズ」。特に「カントールシリーズ」はライブリリィの看板になっている。歌をフィーチャーしたゲームで、音楽ライブも定期的に行っているためライブきっかけのファンも多いのだ。


『やっぱり先輩方もカントールシリーズの印象が強い感じですよね。わっかります! あのシリーズは音楽が神がかってますから。私も大好きなゲームです。……ですがっ』


 くわっと目を見開くルナ。


『「リベルナ」だって名作なんですよ! 仲間にできるキャラクターが百人以上いて、全員個性的で、まるでファンタジー世界を旅するような世界観がほんっとうに魅力的で……っ』


 わかる。わかるわかる。

 望は全力で首を縦に振っていた。ちょっとクラクラしてくるくらいだ。


『でも現実はあまり知られていない隠れた名作です。思い当たる原因はいくつかあります。クリスマス商戦で発売されたのに某有名RPGと発売日が被ってしまったとか……あ、いや、主な原因これですね。そりゃあ皆有名RPGやりますよ。あれは世代関係なく人気なんですから』


 ははは、とルナは乾いた笑みを零す。

 望の父親も同じことを言っていたが、やはり『リベルナ』がマイナーな理由はそこにあるのだろう。周りで『リベルナ』をプレイしていたのは自分だけだった、と寂しそうに話していた父親の顔が思い浮かぶ。


「…………」


 だけど今、自分達の目の前には『隠れた名作再生プロジェクト』がある。

 確かに昔は寂しい思いをしたし、今だって寂しい。

 でも――自分達にはその寂しさを拭うチャンスが巡ってきたのだ。


「『だったら今、チャンスを掴み取るしかないよね』っと。…………ちょっと恥ずかしいセリフだったかな」


 コメントを送信してから、望は一人微妙な表情になる。

 しかし、ルナは望のコメントに目ざとく反応してくれた。「そうですよね、今が人生最大のチャンスなんです!」とドヤ顔を浮かべる。


『ということなので、そろそろ始めましょうか。この世界の楽しさを伝えるために。最初のページをめくりましょう!』


 言いながら、ルナは「ニューゲーム」を選択する。

 こうして『ルナと旅するリベルナ日記』が幕を開けた。



 ある日、主人公の少年は月で目を覚ます。


 少年は記憶をなくしていた。

 主人公のデフォルト名は「トール」だが、自分の名前すら思い出せない少年は「月の少年」として過ごすことになる。


『主人公は褐色男子なんですよ。それに右目の眼帯も特徴的と言うか……。刺さる人にはめちゃくちゃ刺さるキャラクターですよね! 噂では、主人公のビジュアルに惹かれて「リベルナ」を始めた女性も多いとか何とか。……え、私ですか? 私はどちらかと言うと可愛い女の子のキャラクターが好きなんですよー。私はノラちゃんっていう子が推しなので、名前を覚えておくと良いかもですね…………あっ』


 ゆらゆらと楽しげに身体を揺らしながらルナは語る。

 しかし何かに気付いたように動きを止めた。


『どうしよう……楽しすぎていちいち語ってしまいますね……。せめてプロローグが終わるまではテンポアップしていきますね?』


 気にしなくて良いのにと望としては思ってしまうが、初回なのを考えると確かにテンポ感は大事なのかも知れない。「はーい」「了解」などの言葉がコメント欄に流れるのを確認すると、ルナは小さく頷いた。

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