1-5 僕達の挑戦
「マドカくん」
「…………は、はい」
「マドカくんって切り抜き師なんだよねぇ?」
――ん? と、一瞬だけ思った。
確かに望は切り抜き師だ。応援している配信者の動画を編集して、ショート動画としてYouTubeやSNSに投稿している。
動画の編集は好きだ。
面白いシーンだったり、ゲームのシナリオに対して想いが溢れるシーンだったり。自分の好きな場面を気軽に知ってもらえるのは嬉しいことだから。
「『隠れた名作再生プロジェクト』ってさ、生配信を編集した動画も大丈夫みたいなんだよね。生配信の初回と、それを編集した動画の一回目、どっちも対象になるみたい」
「……そうみたい、だね。それに……再生時間の短い動画版をきっかけにして、生配信を観に来てくれる……っていうのも、きっとあると思う」
「そうだよねぇ」
ちらり、と試すような視線をこちらに向けてくる美以子。
言いたいことはすぐにわかった。……というよりも、望の心はすでにざわざわし始めている。
期待だったり、希望だったり、今までの自分では考えられないようなキラキラとした何かが胸の真ん中に灯っていた。
「ねぇ、マドカくん」
ドキリと鼓動が跳ねる。
心臓がいくつあっても足りないとはよく言うが、今日はまさしくその言葉を体現している日だろう。
クラスメイトと会話するだけで緊張してしまう望にとって、中古ショップで美以子と出会ってからの展開は目まぐるしすぎるものだった。ちょっと待って、と何度思ったかわからない。とっくの昔にキャパオーバーだ。
でも、望は確かに気付いている。
高鳴る鼓動の要因は緊張だけではなくて、どうしようもないわくわく感だということに。
「私に……本屋ルナに、協力してくれないかな。あなたの力が必要なの」
言いながら、美以子は手を差し伸べてくる。
頭の中には先ほど望が放った「移植とか、リメイクとか……一緒に叶えよう」という言葉が同時に再生された。
そっか、と望は思う。
自分は決して一人で突っ走っている訳ではなかったのだ。
美以子も同じ気持ちで望の力を頼ってくれた。ただのリスナーとしてだけではなく、切り抜き師としての「マドカ」の技術を買ってくれたのだ。
「…………ありがとう」
ぎこちなく美以子の小さな手を取りながら、望はぼそぼそとお礼の言葉を口にする。
「いやいやぁ、ありがとうはこっちのセリフだよ。マドカくんを味方につけることができたのは、私にとっても大きなことだから」
「胡桃沢さんは、その……僕の編集した切り抜き動画を観て……?」
「もちろんだよ~。字幕とかSEとかBGMとか、凄いなぁって思ってたもん。それに、マドカくんって絵も上手だよね。ファンアートだったり、切り抜き動画に組み込むためにわざわざイラストを用意したり……。本当に素敵だなぁって思うよ」
「…………」
ビックリした。まさか美以子が自分のことをここまで把握してくれているとは思わなかったのだ。
思わず唖然としてしまうと、美以子は楽しげにふふっと笑う。
「言ったでしょ、あなたの力が必要だって」
美以子は前のめりになって望の瞳を覗き込んでくる。
望には嘘偽りないまっすぐな瞳に見えた。
「そうか。応援するだけじゃなくて、僕も協力できるんだ……『リベルナ』のために」
「……それは独り言かな?」
「あ、いや……うん…………嬉しくて、つい」
望は頭を掻く振りをして顔を隠す。
単純に嬉しくて声に出てしまった。大好きなゲームが現行機でプレイできるようになるかも知れなくて、でも望は配信者じゃないから応援することしかできない――という訳ではないのだ。『リベルナ』が好きな同志とともに、一つの夢を追うことができる。自分だって好きなもののために頑張ることができる。
その事実が嬉しくてたまらない。
「えっと。……つまりは、本屋ルナの『リベルナ』の配信を僕が編集して、一回の動画を三十分くらいにすればいいってことだよ……ね?」
「そうそう、そんな感じだよ。多分だけど、一回の配信で二~三時間くらいやると思うから。マドカくんには『リベルナ』の魅力やストーリーが伝わるように編集して欲しいって感じなんだけど……」
どうかな? と恐る恐る見つめてくる美以子。
ほとんどショート動画しか作ったことがない望にとって、簡単には頷けない内容だ。要するに配信の内容をぎゅっとまとめる必要がある訳で、ただただ面白いシーンを集めれば良い訳ではない。初見の人に『リベルナ』というゲームそのものに興味を持ってもらえるような動画にしなくてはいけなくて、考えれば考えるほどにハードルは高く感じた。
「わかったよ。……やってみる」
だけど望はしっかりと首を縦に振っていた。
大変なことなのはわかっている。だけど今は、「難しそうだけど」という弱気な言葉を付け足す気にはなれなかった。『リベルナ』はただでさえ知名度の低いゲームだ。あまりマイナスな言葉を口にしてはいけない気がして、望は精一杯胸を張った。
「マドカくん、顔」
「…………え?」
「強張っちゃってるよ。……大丈夫。一緒に叶えようって言ってくれたのはマドカくんなんだよ。私もいるし、他にもたくさん引っ張ってくれる人達はいるから。ね?」
囁き、頬杖を付いたまま小首を傾げる。
あざとく感じるくらいに可愛くて、望の視線は宙を彷徨う。肝心な時に格好が付かなくて恥ずかしいが、こればっかりは仕方がないと思うのだ。
「……可愛い……」
「おうぇ……?」
「あぁいや何でもないっていうか何も言ってないから、うん……。と、とにかく!」
慌てて誤魔化し、美以子の真似をして前のめりになる。
思った以上に顔が近くなってしまった。長いまつ毛に、ふんわりと薫る柑橘系の香り。『隠れた名作再生プロジェクト』ばかりに意識が向いて忘れそうになるが、自分は今クラスメイトの女子と二人きりなのだった。
「よろしく、ルナちゃん。……一緒に頑張ろう」
恥ずかしくてたまらないし、やっぱり鼓動もうるさい。
だけど何とか堪えて言い放つと、美以子は優しく頷いてくれた。
たった今、大好きなゲームのための時間が動き始める。
これは、本屋ルナと、マドカと、たくさんの人を巻き込んだ挑戦だ。
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