第2話 余寒
高校二年生、三学期の終業式。
家を出て、今日初めての太陽の陽をあびる。
頬を撫でる風はまだ冷たくて、春の訪れは一向に近づく気配はない。
いつものように祖母と祖父の車の送迎で最寄り駅へ向かった。
祖父がいつもハンドルを握って、祖母は助手席で祖父の話し相手。私は後部座席で直接スマホのスピーカーから音楽を大音量で流す。
窓越しに流れる、春の匂いを欠いた、ひなびた景色をぼんやりと眺めていた。
いつもの光景。
老後になっても私の祖父母は喧嘩が耐えない。仲がいいのか悪いのか、分別がつかないくらいのどうでもいい喧嘩ばかり。
私の幼い頃は、『これは喧嘩じゃなくてレクリエーションだ』と言って喧嘩を誤魔化されてた。
喧嘩する内容が尽きないほど、きっと誰よりもお互いを見ている。
そう思うと、喧嘩ばかりなのにここまで続いてきた事実にも納得できた。
祖父の荒らげた声で、耳に入る軽快な優しい音が一気に別の音に置き換わり、耳から脳に刺さる。
これもまた、いつもの光景。
この日、いつもと違うのは終業式という節目の括りがあるかだけだった。
私にとっては何ら変わりない日常。
あの日、付けなくて後悔したマフラーをそっと口元まで引き寄せた。
首と顔を柔らかく包み、まるで自分を守るように巻いていた。
ファッションなのか、執着なのか、自分でも分からないようになっていた。
全日制に比べ、卒業式などの華やかな風物詩のようなイベントもない。いつも通り学校に通い、放課後はアルバイト、そんな日々を繰り返した。
代わり映えのない、私なりの日常。
カレンダーをゆっくりなぞるように高校二年生の春休みに入った。
まだ、春の来る気配はない。
でも、その余寒の中に、小さな予感だけがそっと雪に埋もれ、芽を出していた。
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