『俺のママになってくれ』と懇願して数々の冒険者パーティーを追放され続けた俺、ついに女神を見つける。あと、俺を追放したクズパーティーは粛清な!

立沢るうど

第一話……女神降臨

「てめぇ、いい加減にしろ! キモいんだよ!」

「うっ……!」


 午後、ダンジョンに向かう準備をしていた一室で、パーティーリーダーの『バイスン』から横っ腹に蹴りを入れられ、俺は倒れ込んだ。


「トリプルAランク確実と言われている俺様のパーティーには、お前みたいな変態がいてもらっちゃあ困るんだよ!」

「お、俺の改善提案があったから、お前達『トップオブトップ』がAランクに上がれたんだろ……!」


「んなわけねぇだろ! なに捏造してるんだよ!」

「くっ……! た、頼む……『ムリエ』……。ママに……俺のママになってくれ……。このままだと俺は……死んでしまう……」

「バイスン、コイツ早く追い出してよ。マジでキモすぎ」


「あ、あんなに仲が良かったじゃないか俺達……。どうして……」

「はぁ? 何、勘違いしてんの? ただ新入りのお守りしてただけでしょ? 私はバイスン一筋なんだけど」

「『神代かみしろレツ』。早くこの部屋から、いや、学園から出て、ママのおっぱいでもしゃぶってろよ!

 おっと、お前には母親がいないんだったな。まぁ、いてもロクでもない女だろうが。ガッハッハッハ!」


 体格の良いバイスンの豪快な笑いに合わせ、周囲の連中も大笑いしていた。

 しかし、俺はその嘲笑を気にも留めずに立ち上がり、懇願を続けた。


「ここが最後の希望だったんだ……。頼む……ムリエ……。限界なんだ……おっぱいを吸わせてくれ……」

「事ある毎に、おっぱいおっぱいって……。どう考えても異常者だろ! 早く行けよ、ノロマ!」


 十六歳の女子とは思えないムリエの容赦ない啖呵と蹴りによって、ついに俺は部屋から追い出された。


「う……うぅ……」


 かくして、俺は『セントマリー学園』を後にし、ヨロヨロとあてもなく彷徨うことになった。



 どのぐらい時間が経ったのだろうか。

 俺はもう歩けず、どこかも分からない道端にうつ伏せになっていた。


 このまま死ぬのだろうか。

 ママさえ見つかれば、こんなことにはならなかったのに。


 いや……。『ママ』が特別だったんだ……。『あんなママ』は他にいないんだ……。

 もういい……。どうなってもいい……。


 ママ……。今、会いに行くから……。



「……だ……大丈夫⁉️」


 すると、誰かが俺に声をかけた。

 もう死なせてほしいのに……。


「ちょ、ちょっと待って、『ミレイ』! ソイツ、例の変態だよ!」

「でも……放って置けないよ!」

「もしかしたら、倒れてるのは演技で、ドサクサに紛れてエッチなことしてくるかも!」


 俺を見つけたのは、女子三人らしい。

 ミレイという名前から察するに、『竜胆りんどうミレイ』のパーティーか……。

 俺は彼女達を一方的に知っていたが、彼女達も俺を知っていたのか。まぁ、悪い噂のようだが……。


 しかし、この三人なら……。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!


 ミレイの腕に優しく抱かれた俺が、彼女達に目を向けようとした時、全く別の複数の足音が聞こえた。


「おやぁ? セントマリー学園の生徒さん? こんな所で会うなんて奇遇だなぁ。いや、運命だこりゃぁ!」

「な、なんだよ、お前達」


 怪しい輩に対して、彼女達の内の一人、『鳥雲とりぐもナツ』が戸惑いながらも言葉を返した。

 ショートカットで男勝りな性格の彼女らしい態度だが、この場合は危険だ。


「なんだよって、失礼な女だなぁ。やっぱり、クズ生徒の集まりなんだな。とりあえず、俺達と来てもらおうか」

「はぁ⁉️ 何言ってんだよ。一般人が私達に勝てるわけないだろ……って、なんだよそれ」


 カチャッという音と共に、男は何かを手にしたようだ。


「これ? これはね、こういうふうに使うんだよ♪」


 パァン!


「ぐああああぁぁぁぁ!」


 俺の右ふくらはぎを何かが貫通し、激痛が走った。

 あれは……『拳銃』!


「神代くん!」

「だ、大丈夫だ……。おかげで意識がハッキリしてきた……」

「おやおや、女の前だからって強がってまぁ」

「な、なんなんだよそれ! 『スキル』か⁉️ 『スキル』なのか⁉️ 学園の卒業生なのか⁉️」


 彼女達は知らない。あれが拳銃と呼ばれるものだと。

 いや、彼女達だけではない。この世界のほとんどの人間が知らないモノだ。


 『向こうの世界』ほど武器の開発技術が発達していないこの世界では……。


 それをヤツは持っている。


 しかし、ナツの言うことも半分当たっている。アレは実物ではない。男のスキルによって具現化されたものだ。


「…………。こうなったら……」


 すでに諦めていた俺が、なぜその判断をしたのか分からない。

 しかし俺は、ただただ最後の力と言葉を振り絞っていた。


「ミレイ……! 俺のママになってくれ……! 頼む……! おっぱいを吸わせてくれ……!」

「ええええ⁉️」

「お前、バカなのか⁉️」

「こんな時に何言ってるの!」


 彼女達のもう一人、『留萌るもいスイ』の言葉は間違っている。秀才と言われているが、それでも間違うことは普通にある。


 こんな時『だからこそ』、俺は言ったのだ。


「ミレイ、死にたいのか! お前の身体がめちゃくちゃにされてもいいのか!」

「あっはっはっは! 君、『こっち側』の人間だったのか! それとも、冥土の土産かな?」


 男が笑うと、仲間の輩連中も笑い出した。


「そ、そんなことより、脚の血を止めないと……。魔法を……念のために救急車も……」

「そんなことより、おっぱいだ! 早くしろ! 俺が死ぬ前に早く……! 頼むから……!」

「はーあ……名言も聞けたことだし、茶番は終わりだ。おい、女どもを連れて行け」

「はっ!」


 俺の意識が途絶えかけ、ミレイの腕からずり落ちそうになると、連中はナツとスイの腕を掴み、彼女達を攫い始めた。


「や、やめろ!」

「離して!」

「ナッちゃん! スーちゃん!」

「ミレイ……お前の友達がどうなってもいいのか……! おっぱいを……おっぱいをくれぇ! 俺の……『女神』になってくれええええ!」


 その瞬間、ミレイがビクッと震えたような気がした。


「君、最後まで面白いこと言うなぁ。個人的には生かしておきたいけど、まぁ無理だね。せめて、一発で脳天をぶち抜いてやるよ」


 そして、リーダーの男が俺達に歩み寄ろうとしたその時。


「か、神代くんが……死んじゃう……。も、もうどうなっても……知らない!」


 これほど懇願した俺が言うのもなんだが、彼女の言葉をにわかには信じられなかった。


 しかしその直後、彼女は制服と下着を一気にたくし上げ、豊満な左乳房とその先端を俺の口にあてがった。



 ああ、ついに……。俺は、ついに『女神』を見つけたんだ……。


 『ミレイママ』、ありがとう。


 思いっ切り吸わせてもらうよ。この世界で一番美しく、尊い、君のおっぱいを。



 そして、『二人だけの時間』が訪れた。


「ん……あ……か、神代くん……。そんなに激しく……吸ったら……あぁ……恥ずかし……あ……あれ……? なんか……みんな止まってる……」

「ふぅぅぅぅ……助かったぁ……。ありがとう、ミレイ。でも、時間がない。ナツとスイを学園まで運ぶぞ! おっぱいはそのまま放り出しておいてくれ。いつでも吸えるように」


 周囲の時間が停止している中、俺は立ち上がって、男達に掴まれていたナツとスイの腕を解放し、まずはナツを背負った。


「女子が人を背負うのは無理だろうから、少しずつ引き摺っておいてくれ。大丈夫、思っているよりも力は必要ないはずだ」

「ま、待って神代くん! どういうこと⁉️ 脚は⁉️ あんなに血が出てた脚はどうしたの⁉️ ズボンも!」


「おっぱいを吸って全部治ったんだよ! いいから早く! あと四分三十秒しかないぞ!」

「ええええ⁉️」


 どうやら、ここは学園から全然離れていない場所だったらしく、二人を正門まで運んでも残り一分の猶予があった。


「じゃあ、ちょっと後処理をしてくる。ここにいてくれ。おっぱいはもう戻していい」

「え、うん……」


 ミレイのきょとんとした顔を他所に、俺は急いで現場に戻ると、男の拳銃を持った右腕を曲げ、さらに銃口を男の少し開いた口の中に向け、引き金を引いた。


 そして、再度その場から急いで立ち去り、俺が丁度正門に着いた頃に時間切れ。

 時が動き出した。


 パァン……。


 微かな破裂音が、いくつか隔たれた障害物を越えて聞こえてきて、無事、当面の問題解決に至ったことが分かった。


「ミレイ、約束してくれ。さっきまでのことは誰にも何も言わないこと。恥ずかしいとか恐ろしいとか、そういう問題じゃなく。君の、君達の将来に関わることだ。大丈夫、すぐに話すから。俺に付いてきてくれ」

「う、うん……」

「ちょっと待てよ!」


 俺達が学園内に向かおうとした時、動けるようになったナツが引き止めてきた。


「『学園一の変態』が、なんでミレイと気安く話してるんだよ!」

「ミレイ、ダメだよ。危険人物に近づいちゃ。ほら、こっちに来て!」

「え……? あ、あの……」

「学園長から呼び出されてるんだよ、俺とミレイは。心配なら、お前達も一緒に来いよ。ただし、学園長室の前までだけどな」


「本当なのかよ? 怪しいな」

「そもそも、一緒にいること自体が変な噂になっちゃうでしょ!」

「……」

「じゃあ、離れていいから。ただし、ミレイとは余計な会話をするなよ。これからするのは大事な話だから」


「……。どうする?」

「本当に学園長に呼ばれていたとしたら行くしかないけど……」

「私もなんで呼ばれてるのか分からないけど……。行ってみたら分かるよ!」

「その通り。流石、学園一の美少女パーティー、『リトルヴィーナス』のリーダーだ」


「おだてりゃいいってもんじゃないぞ?」

「私達のパーティー名を知ってるってことは、私達のランクも知ってるんでしょ?」

「ははは……。その相談も学園長にできたらいいなぁ……」

「その必要はない。『Dランク』の落ちこぼれ美少女パーティーを、この俺が『レジェンドランク』に引き上げるから」


『…………。ええええぇぇぇぇ⁉️』


 俺の宣言に、少しの間を置いて、三人がこれまでに見たことがないほど驚きの表情になった。


「お前達、『リトルヴィーナス』のパーティー名から察するに、『メガミバースト』のフォロワーパーティーだろ? 当然、同じレジェンドランクを目指しているはずだ」

「いや、そうだけどさぁ!」

「現実はそんなに甘くないし……」

「うん……」


「しかも、顔と身体目的で、お前達をパーティーに加えようとしてくる連中は数知れず」

「お前が言うな! 『俺のママになってくれ』とか『おっぱいを吸わせてくれ』とか誰彼構わず言いまくってるクセに! なんで退学になってないんだよ!」

「これまで私達に言ってこなかったのは運が良かったけど、パトロールのあとに正門前で話しかけられた時は、ついに来たかって思ったね」

「え……?」


「退学寸前だったことは間違いないが……ミレイ、急ぐぞ。詳しくは、あとだ」

「う、うん……!」


 それから、俺達は足早に学園長室に向かった。

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