第37話 子供がいらないと捨てる国があった10

 その大きな鳥には娘が乗っていた。


 そして暗黒騎士ボウから一定距離をとり、その場に留まった。

 乗っていたクラリスが言った。


「時間は巻き戻されません。なぜなら、時の神は私に従うからです。」


「あなたの魔力は私より強いということか。私はマスターであるクリスタ様を超えることを人生の目標として生きてきた。それが、娘にも劣るのか! 」


 その後、ボウは何かを決心したかのような表情になった。


 彼の顔の表情に、確固たる自信がよみがえった。


「クラリス様。確かにあなたが知っている魔術ではあなたに劣るかもしれない。しかし、あなたが知らない魔術ならば私は負けることはないでしょう。」




 約20年前のことだった。


 魔女の国の女王クリスタには多くの魔術弟子がいた。

 性別を問わず、精神の中に多くの魔力を有する者が弟子になることを許された。


 その中にボウがいて、彼の精神は多くの魔力を有し魔術を構築する才能があった。


 そして今では、真実に至る魔女クリスタの一番の弟子として自他ともに認められるようになっていた。


 今日は、一番弟子である名誉として、真実に至る魔女の紋章である「四葉のクローバー」の魔章を授与される日だった。


 魔女の国の王宮、謁見の間には多くの家臣達が集まっていた。


「女王殿下の教えを守り習練を積んだ一番弟子ボウよ、前に進み出るが良い。」

 ボウは女王の座のすぐ前に進み出てひざまずいた。


「今日、そなたへの最大の名誉として、真実に至る魔女の家紋である「四葉のクローバー」の魔章をその身に授与する。ボウよ、女王殿下に向かって右腕を出すのだ。」


「はい。今! 」


 女王クリスタは立ち上がり、右手でボウの右腕を指さした。


「我が家紋を与えます。家紋はあなたの魔力を高め、魔術の構築を高めるでしょう。これからも、美しき心を映す世界の守護者して私を助けてください。」


 女王の右手から緑色の光りが照射され、ボウの右腕を照らした。


 すると、ボウの右腕に四葉のクローバーの魔章が浮かんだ。


「ありがとうございます。この体に力がみなぎっています。」


 ボウの顔に歓喜の表情が浮かんだ。

 それは大変身勝手な考えを心に浮かべた歓喜だった。


 そしてそれから、彼はとんでもない行動にでた。


「クリスタ様。私はあなたより強くなったわけですね。それではお命をいただきます。」


 ボウはできる限り最高の魔力を右手の人差し指に集中させ、クリスタを指差し詠唱した。


「消滅せよ! 」


 一瞬のことで、回りの家臣達は女王を警護することはできなかった。


 しかし、女王クリスタにはその行動が前からわかっていたかのように、大変つらそうな顔をした。


 彼女の体には何の変化も起きなかった。


「ボウ。創成の神は私に従います。そして、私は逆に命令します。消滅せよ! 」


 クリスタはさきほどボウが自分に行ったのとは反対に、ボウを指差し詠唱した。


 彼女にとって、ほんの少しの魔力を込めただけなのに、創成の神は完全に彼女に服従した。


 そして、ボウの体は少しずつ消滅し始めた。


 やがて、体は完全に消滅し、彼の精神だけが暗黒の空間にただよい、精神もだんだん消滅し始めた。




 すると、どこからともなく声がした。


「真実に至る魔女にだまされた魔術師よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」


 ボウは幻聴だと思い、そのまま黙っていたが、さらにそれは繰り返された。


「真実に至る魔女にだまされた魔術師よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」


「…………」


「真実に至る魔女にだまされた魔術師よ。あなたは人間の心が美しいと思うか? 」


「思わない!!! あのクリスタは私をだました。私に渡したのはほんとうの魔章ではない。四葉のクローバーの魔章さえ我が身にやどせば、クリスタを超えられるはずだった。」


「私に答えてくれた。お礼に姿をお見せしよう。」


 やがて、何もない無の空間にぼんやりとした姿が浮かび魔王の姿に変わっていったが、消滅しつつあるボウに恐怖心は起こらなかった。


「失礼する。私は魔王アスモデウス。悪しき心を映す世界の王、魔界の王と言った方がわかりやすいかな。ボウ、美しき心を全部否定して、悪しき心を賛美する者にならないか? 」


「悪しき心? それが私を助けてくれるのか? 」


「助けてくれるぞ。もっと身勝手になるのだ。悪しき心はとめどなく生まれる。だから、あなたは決して消えることがない。真実に至る魔女に服従する創造の神にあなたを消すことはできない。」


「…………わかりました。魔王様。身勝手で心を満たし、あなたの忠実な家臣になります。」


 その答えを聞いた途端、魔王は右手をキリヤに向かって差し出すと、そこから黒い光りが放射され精神だけのボウを包んだ。


 黒い光りが強くなった後、突然黒い光りは消え、その中から黒い甲冑に身を包んだボウが現われた。


「暗黒騎士、身勝手なボウ、我についてくるが良い。」




 暗黒騎士になった後、ボウが新しく作り出した魔術があった。


 ボウは詠唱した。


「悪しき心、この世界に満ちあふれる。全ての場所、時間に満ちあふれ、決して亡くならない。我、暗黒騎士、身勝手なボウ。悪しき心は私に集まり、目の前の敵を打ち破れ! 」


 そして、右手の人差し指で天井を指さした。


 するとボウとクラリスが浮かぶ空中より、はるかに高い空に悪しき心を映す世界との連結空間が開いて、悪しき心が無限大にその指に集まり始めた。


「お嬢様。非常に危険です。最大限に凶悪なエネルギで攻撃されます。」

 大鳥になっているメイが言った。


「大丈夫です。メイ。私を信じて―― 」

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