第36話 子供がいらないと捨てる国があった6

 クラリスとアーサーは、東部平原の低い山脈の中心に位置する頂に降りた。




「ジェシカ王女様、この場所で私は英雄の血のカーテンを張った後、朝日が昇る最も良いタイミングを思考伝達でお知らせします。そのタイミングで笛をお吹きください。」




「わかりました。重要な役割をしっかりと果たします。」




 大鳥になったメイに乗ったジェシカ女王とメイナードはそこから去った。




「アーサー王子様。私は今から最も複雑で難しい魔術の構成を始めます。その間は機械のようになり、全く何もできず動くこともできません。よろしくお願いします。」




「クラリスさん。任せてください。あなたの魔術構成を妨げる何者もあなたに近づけはしません。」




 クラリスは魔術構成の詠唱に入った。




「希望の朝日。御光は人間を照らすため永劫に地上を照らす。真実に至る魔女を継ぐクラリスが英雄の血の力を加え、この国の人々が魔王の血に支配されようとしているのを防ぐ………… 」








 ちょうどその時、王都の自分の部屋で眠っていた内務大臣、暗黒騎士、身勝手のボウは目を覚ませた。




 昨日、宝物庫に自分が魔術をしかけ、忍び込んだクラリスやジェシカ王女を永久に閉じ込めた。




 しかし、何か違和感を感じた。




 自分の魔術には絶対的な自信があったが、なにしろ真実に至る魔女を継ぐクラリスがいたことがとても気になった。




 ボウは起きだし、宝物庫の中に転移魔術で移動した。




 すると、そこには誰もいなかった。


 自分の魔術で周囲の空間から切断した空間も元に戻っていた。




「さすがに、真実に至る魔女を継ぐ方だ。私の魔術の根源をすぐに解明したのか。」




 ボウはクリスタの魔力の痕跡を見つけ、それが空に昇りはるか遠くに呼び去ったことを感じた。




 自分の使い魔の中で最も早く動き、攻撃力があるものを呼び出した。




「ホーク。私が今示した魔力の後を追い、その魔力を持つ魔術師を殺害するのだ!!! 」




 3つの頭と羽を持つ大きな鷲のような魔獣が空に飛び去った。








 山脈の中心の頂いただきで行われていたクリスタの詠唱は、そろそろ完成に近づこうとしていた。




 その時、クリスタとアーサーがいる頂に強い突風が吹いてきた。




 精神集中しているクリスタを守るようにアーサーは、強い突風が来る方向に立ち見つめた。




 すると、大きな鷲のような魔獣が猛スピードでこちらに飛んできた。




「3つの頭と羽を持っている。魔獣か。ボウがクリスタさんを狙って放ったのか。」




 アーサーは剣を抜いた。


 ほんの少し、まだ左腕に痛みを感じたがかまわずに構えた。




 近づくと、魔獣はクラリスめがけて急降下した。




 鋭い爪がクラリスを引き裂こうとしていた。




 アーサーはクラリスを守るように前に立った。


 そして、精神を最大限に集中させた。




 英雄のオーラーは剣の刃に集められ、剣は世界のどの金属よりも固く密度が最大限に濃いものになった。




 さらに、アーサーの両目は魔獣の動きをスローモーションのように確実に把握した。




 一瞬のことだった。


 魔獣は素早い動きで近づいたが、アーサーはそれよりもさらに早い超光速で剣を何回も振った。




 魔獣は消滅した。




 ちょうど、それと同時にクラリスの詠唱は終わり、魔術の構築は完了した。




「英雄の血の力のカーテンよ。空にかかれ。ダウン!!! 」




 クラリスがそう言った瞬間、オーロラのように薄い青色のカーテンが空の上から下ろされた。




 彼女はジェシカ王女に、思考伝達で合図を送った。




「ジェシカ王女様。今です。笛をお吹きください。」








 ジェシカ王女はその時、大鳥になったメイの背の乗り、ミレーネ王国の中心の上空を飛んでいた。




 クラリスの合図に合わせて笛を鳴らした。


 魔術の笛の音は、上空から地上に向かって大きな音で鳴り響いた。




 打ち合わせどおり、大鳥になったメイはジェシカが笛を吹いている間、できる限り早いスピードで移動し、ミレーネ王国全土に笛の音が鳴り響くようにした、








 朝日は昇った。




 その光は東部平原の低い山脈の上にかかった英雄のカーテンを通った。


 神聖な力を宿した薄い青色の光りは、ミレーネ王国全土を照らした。




 既に魔術の笛の音の力により、魔王の血に支配された国民はみんな屋外に出ていた。




 そして、神聖な力を宿した光りを浴びて体の中の魔王の血は消滅し、解放された。








 その様子を内部大臣、暗黒騎士身勝手のボウは、王宮になる自分の部屋のバルコニーから見ていた。




「あの薄い青い光りは、英雄の血の力をもっている。私の使い魔が消滅した山脈の上に、光が通過するカーテンをかけたのですね。壮大な魔術、これが真実に至る魔女の名を継ぐ者の力! 」




 しかし、ボウは諦めきれなかった。




「せっかく、私がここまでがんばって、世界の災厄の始まりを起そうとしたのに。いかに、真実に至る魔女の名を継ぐ者であっても、私を邪魔することは許しません。」




 その後、ボウは空中に跳躍し、はるか上空まで急上昇した。




「全ての魔術の中で最も高度で価値あるもの。時間を巻き戻し、クリスタ様の娘、クラリス様に打ち勝ちましょう。過去に戻り、勇者の血をもつカーテンなどかけさせません。」




 そして、魔術の詠唱を始めた。




「いと巨大な力をもつ時間の神よ。いにしえから誰の命にも従わなくても、我には従え。我は魔女の中の魔女、真実に至る魔女クリスタの第一弟子、四葉のクローバーを継ぐ者ボウ。我が言うことが真実。 」




「命ずる! 時間を巻き戻す鐘よ鳴れ! 」




 ところが何も起こらなかった。




 ボウは呆然として、はるか高い上空に制止していた。




 そしてその目に、大きな鳥が近づいているのが見えた。

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