帰りの着替えがダサい奴は信用するな

ハクション中西

帰りの着替えがダサい奴は信用するな

それは、暑い暑い夏のある日でした。

デートの約束をした女性がおりまして。

お笑いライブを観に来た僕のファンでした。そうです。

ファンに手を出したのです。



もしかしたら、“そういうこと”になるかもしれない、という下心があったので、カバンの中に、さりげなく、タオルと次の日の朝、着替えてホテルから帰る用の新しいTシャツとパンツを入れていたのです。


泊まるとか、なんもなければ、着替えずにご飯だけ食べて帰ればいいだけです。



そして、その日、見事そういう関係になりました。

次の日の朝です。



愛し合ったあと、ホテルで目覚め、僕が帰りの着替えのTシャツに着替えた瞬間です。


部屋の温度が下がったような気がしました。


愛し合った女性が、僕の帰りの着替えのTシャツのダサさに目を丸くしています。

警戒している猫のような目です。あんなにまん丸な目は後にも先にも見たことがありません。



「あなた、ヤル前は、頑張ってオシャレなカッコしてきたのに、帰りの服装がそこまでダサいってことは、わたしのこと、ヤれたらそれでいいと思ってるのよね」


彼女はそう言って怒りました。



確かに、着替えをカバンに入れる時に僕は、「これを着るってことは、もうヤッた後やから、そんなにええTシャツでなくてええか」と思いました。



“うんち”と描かれたTシャツを見て、彼女は泣き出しました。



「わたし、本気だったのに」



そう言われて、僕はオロオロと言い訳をしましたが、もう何を言ってもダメなようでした。


「もういい!さよなら!」と彼女は帰る準備をし始めました。


そして、彼女は【SUKEBE】と描かれたTシャツに着替えました。


後ろには【ドカタを下に見てます】と書かれています。



僕は、唖然としました。昨日はとても可愛らしい、首元にリボンがあしらわれたオフショルダーの服装をしていました。



それなのに、ヤッた後はダサくていいや、と言わんばかりの服装をしているのは彼女も同じです。



僕は、怒りました。


「お前もいっしょやないか!!!ふざけたTシャツ着てるやないか!!しかも、なんや!その差別的なTシャツは!!!」



すると彼女は、「あんたが先にウンチって言うてきたから、わたしもやり返したんやないの!!」と言い返してきました。



時系列むちゃくちゃです。


「いや、カバンにそのTシャツを入れた時点では、俺の着替えのTシャツなんてわからないやんか?むちゃくちゃやな、自分!!」と言いました。


ですが、もう彼女は聞く耳も持ちません。

とにかく怒っています。


「今度のバトルライブで、お前のライバルになる芸人に票を入れる」


彼女はそう言い放ち、「あと、ラブホの朝ごはん、基本的にまずい!」と喚きました。

それは俺は関係ないのに。


それ以来、もう関係性が終わってしまったんだ、と思い、僕から連絡をとることはなくなりました。



ところが一週間後、彼女からまたデートの誘いがありました。

僕は、ひょっとしたら?と思いながら、また一応着替えのTシャツとパンツをカバンの中に入れて、出かけました。



前回の失敗があるので、僕は帰り用の着替えも精一杯のオシャレなTシャツをカバンの中に入れました。


オシャレ好きな男子に選んでもらったから間違いないです。



そして、結局、ヤッたのです。

さて、ホテルに泊まった次の日です。



僕がオシャレなライブTシャツ(ちなみに彼女が好きなバンド)に着替えて、ウンチの形の帽子を被った瞬間です。


彼女はまたしても怒ったのです。


「なんなん、その帽子」


「なにとは?」


「ヤル前は、優しくして、オシャレにも気を遣ってくれてたのに、ヤッたあとの、想定が甘すぎない?わたしのことを、そういう目でしか見てないの?なぜ、ヤッたあと、そんなにダサいの?」



そう言って、彼女は過呼吸になりそうなぐらい泣き出しました。


僕は背中をさすりながら「ごめん。帽子まで、気が回らなかった」と言いました。


行きはかぶってなかった帽子をなぜ帰りに被ったのか、今となっては自分でもわからないです。


とんでもない愚かなことをして、彼女を傷つけてしまった。そう思いました。



彼女は「もういい!さよなら!」と言い、“仏滅”と書かれたブラジャーをつけました。


右乳と左乳にそれぞれ、“仏”と“滅”が書かれているブラジャーを見て、僕はまさかと思いました。

その上から彼女は新しいTシャツを着ました。



そのTシャツにはQRコードが印刷されており、【前田日明が坂田亘をボコボコにした動画はこちら】と書かれておりました。



Tシャツの後ろには【SUKEBE】と書かれた文字の下にオットセイのイラストが描かれています。



そして、彼女は僕とお揃いの、ウンチの形の帽子をカバンから取り出して被ったのです。


僕は、もう、怖くて怖くて仕方なくなりました。



すぐに連絡先を消しました。

その後、ウワサが流されました。

ハクション中西は、ヤッたあとの服装が嫌がらせぐらいダサい、と。。



僕は大阪にいられなくなりました。

なぜなら、街中で「お、ダサいってことはヤッた後か?」とか「お、かっこつけてるってことは、ヤル前か?」とか、知らない奴からも話しかけられるようになったからです。

そして殴られるようになりました。



そこで大阪で活動していたのを辞めて、東京でお笑いをやることにしたのです。



元はと言えば、ファンに手を出した僕が悪いんです。もうこりごりです。


今はすっかり反省して、オシャレには人一倍気をつかうようになりました。


おかげでオシャレ芸人として雑誌に載ったり、今ではそっち方面での稼ぎが芸人の稼ぎを上回りました。

(ここでダサい写真)

めでたしめでたし。


おしまい。

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