第20話 魔王に魔法を教えてもらうという約束を守ってもらうと嫉妬された
「コトコよ。その魔本、レプリカを余の前に出すとよい」
えっ? 師匠の本を?
僕が死ぬ程嫌そうな顔をしているのを見て魔王は頬杖をつきながら僕の不安を解いてくれた。
「何も取り上げようとは言っておらぬ。優秀な魔法使いは自分の魔法に仕掛けを施している筈である。余であればそれを解読できよう?」
「ほんとに? 師匠がそんな事するかな?」
僕は魔王に師匠の魔本を渡すと、魔法はそれを掴みパラパラとめくる。僕にも見えるくらいの魔力で魔王はページを捲っているぞ。そして魔王はとあるページで手を止めると、
「ここであるな。余の魔力をこめて発動させるぞ」
「うん」
魔王が魔本に魔力を込めると、魔本が光に包まれて、そこから……
「し、師匠!」
僕の師匠が現れた。
「狼狽えるな、魔法で作った空蝉である。其方が魔女ロスウェルであるな?」
魔王がそう尋ねると、師匠は目をぱちぱちと瞬きを繰り返して、僕と魔王を見ている。
「ふむ、とてつもない魔力を誇る魔導士とお見受けする」
「余は魔王アズリエルである」
「魔王、アズリエル……闇魔界のアズリエル殿じゃな?」
「余を知るか、やはり名のある魔女であるな」
師匠が残した魔法は魔王にこの魔本を作った理由を話した。そして、弟子である僕とクルーエルに力を貸して欲しいとそう言った。
「コトコよ。どうじゃ? 転生の旅は楽しいか?」
「まぁまぁかな」
「そうか、ワシが思うよりも早くこの魔法が発動した事、嬉しく思うぞ? 異世界の魔物を屠る事こそが悲願ではあるが、魔法を、旅を、友を、グルメを、全てを楽しめ。良いな?」
「うん……そうする」
師匠が残した魔法が停止し、師匠の姿は笑って消えていった。僕は胸の奥がむずむずする。魔王は魔本を持ったまま何か……
「魔王、魔本返してよ」
「ふむ。返そう。貴様の師匠。ドロテアとは似ても似つかぬ者であるな。血縁と聞いていた故、どれほどの魔女かと思ったが、優しい良き師匠である。くーはっはっは! 生前に酒でも交わしたかったであるな!」
ドロテアという名前を魔王が出すとき、少しだけ殺意を感じる。どれほど嫌いだったんだろうか? そのドロテアの魔法だけが唯一異世界の魔物を滅ぼせると師匠は考えている。
「ドロテアってそんなに凄い魔法使いなの?」
「認めたくはないがな。人間の身でありながら奴はありとあらゆる理から外れておる故な。が、心が伴ってはおらぬ。自分以外の命を全て滅ぼそうとする醜悪な考えを持っておる故、魔王である余がいずれ滅す事としている。コトコ、生き残る度に余の魔法、人類の魔法、そしてドロテアの魔法を一つずつ余が教えてやろう。まずは今回の仕事の褒美として余の魔法。暗黒魔法トールハンマーである。クルーエル、貴様も覚えると良い」
えっ? という顔を見せるクルーエル。
僕も魔王から魔法を教わるつもりでいると……
「隙ありである」
は? 魔王は僕の水月を殴り、そのままの勢いでクルーエルの顎をぶん殴った。
「痛ったい! 魔王、何すんのさ!」
「貴様らは空戦魔導があまりにも弱すぎる。ロスウェルに教われなんだのだろう。故、余がティルフィング(空戦三次元戦闘)を教えてやろう」
そう言うと魔王は詠唱も無しに浮かび上がったぞ。無詠唱とかじゃないだろこれ……どうやったんだ?
「コトコ、この世界の連中。翼を持たない魔法を使わずに飛びやがるぞ……信じられないけど」
「えぇ……」
天井の高い魔王の間の上空から僕とクルーエルを見下ろす魔王。じっと見つめていると、
「何をしている。飛ぶと良い」
とか言ってくるので、僕は魔法陣を発動し「飛べ!」と魔法で浮かび上がる。それに続いてクルーエルも翼を広げて飛ぶので魔王はヘッと笑った。三次元戦闘、この世界ではティルフィングと言うらしいけど実戦はした事はないけど、師匠がが異世界の魔物と戦っていたのを見た。
「貴様ら……よほど平和な世界より来たのであるな。ニビ、こやつらに空を学ばせろ、良いな? 余が手ほどきをするのはそれからである。次、異世界の魔物が襲来した時、空戦の小隊と共に出よ」
僕とクルーエルを見て何か呆れたらしい魔王は降りてくるとニビに指示を与えた。退避していたはずのニビはいつ現れたのか、胸に手を当てて、
「かしこまりました魔王様」
と跪いてるよ。
「ま、魔王!」
「何か? 余はこれでも忙しい故、簡潔に述べよ」
「まだ魔王の魔法を教わってない」
僕の言葉にニビは目が点になり、クルーエルは、えぇ……という顔、そして対照的に魔王だけが馬鹿笑いをしたんだ。
「くーはっはっはー! そうであったな! では覚えると良い、これが暗黒魔法。トールハンマーである!」
魔王は上空に向けて巨大な魔法陣を呼び出すとそこから……
「「えぇ……」」
僕とクルーエルは魔王が唐突に天井を破壊して見せたのにドン引いた。
とてつもない魔法収束砲だ。
それなのにめちゃくちゃ簡単な魔法理論でできてる。言ってしまえば人間が初級魔法として扱う魔法くらい簡単だ。必要な魔法、そしてその間に何十にも何百にも、何千にも強化させて放ってる。
多分、誰しもが考えるけど誰もしなかった事を平気でやっちまうんだな。僕の得意とするブラストルファイアー、こいつも収束砲の魔法だ。
「なるほど、トールハンマーか覚えた」
「ふむ。コトコ。貴様は地頭が良いタイプであるな? 自分より少し秀でている者がいるとすぐ比較をするであろう?」
「…………」
「図星であるな? クハハハハハ! 他者と自分を比べるなとは言わぬ。が、それで自分を見失うな。良いな? 特に余の魔王軍は多彩な種族による混合軍である。魔法が得意な者もいれば身体が強靭な者もいる。人間もいれば魔物もいる。が、全ての頂点は余である。余より優れた者などおらぬ」
「え?」
今、なんか凄いいい話をしていると思ってたんだけど、結局魔王すげーみたいな話になっちゃったよ。それが事実だから困るんだけどさ。
「クルーエルよ」
「はい?」
「次はコトコと共に戦場に出ると良い。戻って来れたらアークデーモンにクラスチェンジしてやろう」
「マジですか」
「うむ! マジである」
クルーエルはずるいな。
クラスチェンジするだけでめちゃくちゃ魔力とか上がるもんな。一度、レッサーデーモンにまでランクを落とされた事で僕と出会った時より今はなんか魔力も大きくなってるし……
「何さコトコ?」
「いや、なんかずるいなーって思っただけ」
「コトコ様、クルーエル様。魔王様の間でございます。ご用が済んだのであれば速やかに退室いたしますよ」
「あ、はーい」
魔王は別に迷惑そうじゃないけど、確かに魔王軍のトップだし、僕らに時間を割くより他にやるべき仕事とかあるんだろうとか思ってたけど、違った。
魔王の間から出た僕とクルーエル……
ハーピィー種らしき雌型の魔物に肩をぶつけられた。
「チッ! 魔王様のお時間を取って手取り足取り魔法を教わってたんだろ。このビッチ!」
「はぁ? マジで、なんなのこの女……」
それに対して、クルーエルが、
「なんすかなんすか? 私たちは魔王から異世界の魔物と戦う為の術を学んでるんすよ? ジェラシーですか? 結構、引きますよ」
「はぁ!」
「マジで喧嘩売ってんのか? グレーターデーモンなのにあたしらより魔力弱い癖に!」
魔物同士の喧嘩が始まっちゃったよ。
これ、どうすんの? 喧嘩になったらハーピィー達のいう通り、魔力量も経験も違いすぎてボコボコにされるのは僕らだろうな。
「お三方とも、ここは私の顔に免じてお許しいただけませんか?」
ファイティングポーズを取ってやる気満々のクルーエルとハーピィーギャルの二人にニビに頭を深々と下げられて止まる。
そりゃそうだろうね。
ニビは、何でか分からないけど腰が低い、あの魔王の一撃から僕を助けてくれる程度には強い、魔王の右腕と左腕のディダロスさんとウラボラスさんに匹敵するか少し弱いかくらいだろうに、何で何だろう?
もちろん、そんなニビに喧嘩の仲裁をされたらクルーエルもハーピィーギャル達も矛を収めるしか無いだろうね。
「チッ、今日はニビ様の顔に免じて許してやるよザコデーモン」
「それはこっちのセリフですよ。鳥の分際で私に噛みついた事、後悔させてやりますよ」
そんな捨て台詞の応酬のあと、両者は背を向けて衝突する事もなく、ニビに従った。もし、ニビの顔に免じなかった場合、両者粛清されたんだろうか? ニビと一緒に僕らの部屋に戻る際中、高身長の優男がゆらゆらと近づいてくる。誰だろう? 見た事ないぞと僕が思ったら、ニビが頭を下げた。
「闇魔界二柱、ウラボラス様。魔王様に御用でしょうか?」
「あー、うん。魔王様からの呼び出し。人間達の王国が上空から異世界の魔物達の攻撃を受けてるらしいよ。魔王様の命で、自分のところの部隊が出るんすよ。ニビ、君の所の飛龍隊とその人間と悪魔の二人も編隊に組まれてる。自分が出る事になるって事は翅蟻との遊びじゃ済まないっすよ? 覚悟を決めて参戦してくださいっす」
僕とクルーエルにもそう言うウラボラスさん。お洒落なショップ店員とかしてそうだけど、本当の姿は巨大な蛇みたいな姿をして魔王軍最大戦力の一人らしい。
ニビが、魔王と同じように相当謙っている事から、格が違うらしい。でも、かなりフレンドリーな感じで僕はどちらかと言うと苦手じゃないかな。
ともあれ次の魔王軍での任務が決まった。
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