第19話 稽古で僕は魔王に世界を滅ぼせる魔法を使ってみた話

「コトコ様、魔王様の御前です。正装でお願いします」

「えっと、僕は師匠にもらった服しか」

「それで構いません。コトコ様の最高の戦闘準備をしてください」

「あ、うん」

 

 僕は自分の魔法の杖、帽子。そして短いマント、ドレスシャツに黒いスカート。ハイソックス。どれも師匠の世界ではかなり質の良い服だ。僕はこれらを複製して使っている。師匠に買ってもらったオリジナルは時間を止めて劣化を抑えてあるんだ。

 想像に足りうる魔王城……とは少し様子が違う。綺麗に掃除されていて、広い廊下、魔物たちとすれ違うとニビが会釈をするので、

 

「ニビ様、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

 

 と返すニビ、やっぱ位の高い魔物じゃんか。僕はそう考えながらニビを見つめていると、

 

「? コトコ様、どうされましたか?」

「いや、何でもないよ」

 

 なんか結構歩くと、大きな扉の前に到着した。ここが魔王の部屋なのか、魔王の間的な場所なんだろうね。

 その前でニビが片膝をついて言った。

 

「魔王様、闇魔界の御方、アズリエル様。ニビでございます。コトコ様をお連れしました」

 

 ギィと自動で開く扉。

 便利だなぁ。

 ニビと共に魔王のいるフロアに入ると、そこで魔王は想像通りの豪華な椅子に座って頬杖をつき、赤い色のお酒の入ったグラスをくるくる回してる。魔王ってテンプレートがあるのかな?

 魔王の隣には目の下に大きな隈を作ったクルーエルの姿。

 

「ヤァ……コトコ、イキテモドッテコレタンダネ」

「えっ? どしたの? なんか魂滅されたみたいになってるけど」

 

 こんなクルーエル見た事ないんだけど……僕がクルーエルの返答を待つよりも先に魔王がクルーエルの頭を掴んでぐわんぐわんと揺らして笑う。

 

「くーはっはっはー! コトコよ、貴様の任務の間。余の悪魔軍にこやつを放り込んで他の悪魔共と同じ暮らしをさせた! 貴様らの師匠は、少し甘やかす傾向にあるようだな。筋は悪くない、が他が全て雑魚である。して、貴様ら、持てる最大の力を余に向けてみよ。稽古をつけてやる」

 

 ここで? 

 という顔をする僕に魔王は玉座に座りながら、「早くせよ」と言うし、ニビは頷くので僕は魔法の杖を構えて、魔法の詠唱を始めようとした時、魔王に怒られた。

 

「コトコ、貴様。余を馬鹿にしておるのか?」

「えっ? なんで?」

「クルーエルから聞いておる。貴様、ドロテアの宝具を持っておるのであろう? ならばそれを使い、ドロテアの魔法を放つと良い」

 

 えぇ!

 


「あれは、使ってはいけない道具だって師匠が……」

「ならば貴様に継承するはずがなかろう? 異世界の魔物を屠る際に貴様に残したに決まっておろうが? 馬鹿者めが、その宝具を使い。そしてドロテアの魔法を余に放ってみせよ。貴様の今の限界がどの程度か、余が測ってやると申しておる」

「コトコ、魔王の言う通りにするんだ。この世界で私たちは多くを学ばなければならない、たとえこの魔王を討伐することになっても」

 

 崩壊魔法の走り、今の僕に扱える魔法じゃないぞ? だけど、使わなければどの道激昂した魔王に殺されそうだし僕は魔本を取り出すと。僕はゲートを開き、ドロテアの杖、サクリファイス・オブ・ジアースを掴む。

 

「凄まじい力である」

 

 魔王が感嘆した。

 そして僕は崩壊魔法始まりの火の詠唱を始める。

 

「あっ……」

 

 ガクンとなくなる僕の魔法力、そりゃそうだ。この前の戦いで魔力なんて空っぽだし、すぐに戻る物じゃない。

 

「ニビ、余の魔石をコトコに装備させよ」

「かしこまりました」

 

 頭を下げてニビが魔王の間に飾ってある宝物をいくつか持ってくると僕に取り付ける。

 

「指輪、ブレスレット、ネックレス、そしてピアス。全てが魔王様とリンクしています。魔王様より力をお借りする事ができる魔王城における最高ランクの宝物、アズリエル・フォーでございます」

 

 だっさい名前に反してとんでもない魔力が僕に流れ込んでくる。崩壊魔法を行使するに十分な魔力は漏れ出しながらも周囲に漂う魔力ですら魔法を構築する力として戻ってくる。

 凄いな魔王。

 確かに魔力量だけで言えば、僕やクルーエル、悔しいけど師匠ですら足音にも及ばない。

 

「ほぉ、余の魔力をそれだけ吸い込んでも作り出せぬか、さすがはあのドロテアの魔法と言ったところであるな。良い、続けよ」

 

 魔王の興味が僕の手の中で生み出されつつある崩壊の調べに向かう。こんな魔法、本来は存在しちゃいけないんだ。ドロテアの杖で放たれるドロテアの魔法はどれだけの破壊力を持っているか僕には想像すらつかない。

 

「ま、魔王様危険すぎます!」

「ニビ、離れているといい。これは余も少し力を使う必要があろう」

 

 魔王が玉座から降りた。そして燕尾服みたいな上着とマントをポイと放り投げる。程よくついた筋肉。とてつもない魔力量。

 

「クルーエル、貴様もかかってくるといい」

「えっ……いや」

「ふむ、では今から余はコトコを本気で殺すとしよう。抵抗してみせよ。クルーエル」

 

 おいおい、何言っちゃってんのさ。魔王が本気で僕を殺そうと思ったらクルーエルの抵抗なんて何の意味もないでしょ。クルーエルは下唇を噛んで、魔王の前に立った。

 

「ふざけるなよ! コトコを殺すだって! 魔王、私は光の魔法だって使えるんだ! 闇を滅す光の力よ! スーパーノヴァ!」

 

 魔王に向けてクルーエルが光の超上級魔法を放った。

 僕が死ぬ事になんか熱くなっちゃって……なんか恥ずかしいな。

 

「余に光の魔法が通用するという先入観が愚か極まりないが、闇魔界にその程度の光が届くと思ったか?」

 

 分かってた事だけど、クルーエルの魔法は魔王には全くダメージを与えられなかった。ゼロ距離で放ったのに……魔王ってなんなの?

 

「くそっ、くそぉおお!」

 

 魔王は破れかぶれで魔王を制止しようとしたクルーエルの頭を掴んでそのまま地面に叩きつけた。デーモンであるクルーエルに物理ダメージが通るのは魔王が何らかの魔法攻撃を放ったんだろう。完全に動かなくなったクルーエルを横目に魔王はずんずんと僕の前までやってきた。

 

「クソ雑魚のクルーエルは倒れた。コトコ、貴様を守る者はもういない。どうする? その魔法は完成したか?」

「残念ながらまだだよ」

「ふむ、残念である。余はクルーエルとの約束を守る。貴様を殺す事にしよう!」

 

 えっ!

 

 ちょっと、魔王。素直すぎじゃんか……魔王は冷たい目で僕を殺す程度の魔力をその手に込めて、つまらなさそうに僕の命を刈り取りに来た。

 こりゃダメだ。

 どう考えても死ぬ以外あり得ないぞ。

 僕が生きる事を諦めた時、僕の身体がふわりと浮かんで凄い速度で動いた。

 

「うわっ! なに、なに?」

 

 僕はニビに抱えられ、広い魔王の間の端にまで回避していたらしい。何故かニビが助けてくれた。

 

「コトコ様、お怪我は?」

「いや、大丈夫だけど……どうして?」

「私は魔王様よりコトコ様をお守りするよう言い付けられております。ですので相手が魔王様でもその命を遂行いたします。コトコ様、その魔法の完成を早く。今の一撃は回避できましたが、次は恐らくあり得ません」

 

 魔王は僕らを見て一気に距離を詰めてきた。ニビでも二度目はないという魔王の攻撃、僕らが先ほどいた場所が空間ごと削り取られている。崩壊魔法を放ち魔王を滅ぼしてしまうという事に躊躇していた僕はもういない。今までにない魔力持った僕は完成させた。

 忌まわしき魔法、崩壊魔法の走り。それですら世界を滅ぼしたる程の破壊力をもった究極魔法の一つ。

 

「来たれ、始まりの火。カイーナ!」

 

 翅蟻を軽々と蒸発させ、アガルタの月をも撤退させた超魔導士ドロテアの魔法。ゆっくりとしたその魔法を前に魔王は両手に何らかの魔法を込めて崩壊魔法と力比べを始めた。

 

「嘘でしょ……あの魔法に触れて消滅してないです。押されているとはいえ、食い止めようとしてますよ」

 

 起き上がったクルーエルがゲンナリした顔で僕に言う。事実魔王はあの崩壊魔法を止めようとしてカイーナを抑え部屋の壁にまで押し込まれていた。壁は当然破壊され魔王はカイーナの威力に押されながら上空にもつれ込んでる。

 依然威力は落ちていないカイーナに対して崩壊魔法の威力を目の前で受けている魔王はダメージを負っているらしくあらゆるところから流血している。

 あの魔王にですらダメージを通す事ができる魔法。ニビが目を見開いて驚愕している事から相当すごい事何だろうね。

 魔王は威力の落ちないカイーナに対して何か他の魔法を練り込み止めようとしているらしいけど、もう随分遠くに離れてしまった。

 一番威力の低いカイーナですらこれだ、他の魔法の威力は言わずもがなのだろう。

 

「ねぇ、ニビ。魔王を僕が殺しちゃいそうだけど……」

「コトコ様、少し自信を過大評価しすぎかと、魔王様を殺せる者などこの世界のどこにおりません」

 

 そう思うのは仕方がないかもしれないけど、あれは超魔導士の原種の魔法だからな。それも魔王の魔力で完全な形で放たれた。師匠が使った時より多分威力が高い。

 

「いやでも……」

「でも何でしょうか?」

 

 まさに何を僕は言おうとしていたんだろう? 

 少しばかり着衣が乱れた状態で大きく口を開けて笑いながら魔王が帰ってきた。

 

「「嘘だろ!」」

 

 僕とクルーエルの声が揃ったよ。

 だって着衣は乱れながらも魔王にはダメージが通っていないように見受けられる。要するに魔王はあの超魔導士ドロテアの魔法を凌ぎ切った。

 

「ふむ、さすがはうつけのドロテアの魔法である。余以外であればあらゆる者を滅ぼせたであろう。クハハハハハハ! あやつの魔法はいつも度が過ぎている故な」

 

 凄い…………魔王なら、魔王ならもしかすると異世界の魔物達を……

 僕はさすがにそう思わざるおえない。

 腰に手を当ててバカ笑いする魔王に希望を見出した。

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