第17話 死にたがりの少女にメイドのドラゴンが従者として仕えてくれる事になった。魔王軍すげぇ
僕らは魔王城に連行されていく。僕もクルーエルも集団行動というものが死ぬ程苦手なんだ。そんな僕らを見て、ドラゴンのメイドさんであるニビが、
「雑魚様はお二人様とも辛気臭いツラをしてやがりますね」
「えっとニビさん?」
「ニビで構いません。雑魚A様」
「コトコだよ」
「ではコトコ様」
凄いなこの人、明らかに格下である僕やクルーエルの世話係なんて、嫌だろうに邪険に扱うわけでもなく僕らに魔王城へ向かう飛龍の上で紅茶なんか入れてくれてるよ。
「僕らみたいなのの世話係なんて迷惑かけてごめんね」
「二度と、そのような無粋な事は申さないでくださいませ。魔王様に与えられた任、心より全身全霊を持って尽くす所存」
「あ、なんかごめんね」
「結構です。他の魔物達は私が魔王様に直接命を与えられた事、羨ましくて嫉妬していることでしょう。ですので、これらです」
そう、各種様々な魔物から果物とか、なんかトカゲの串焼きみたいな物とかめちゃくちゃ色々貰ったんだよね。なんというか、悪い奴らじゃないんだよ魔物達。でも距離感バグってるのか、長年らいの友達みたいに接してくるんでマジで勘弁してほしいんだよね。
僕もクルーエルも結構人見知りなんだ。
「魔王様って……めちゃくちゃ慕われてるよね」
「当然です。今更何を? コトコ様は馬鹿様なのでしょうか?」
ニビ、レッドドラゴン。彼女ですら僕やクルーエルでは敵として出会った瞬間生存を諦めるレベルの魔物だ。そんな彼女が世話係になる程度に魔王軍では戦力が潤沢。あの天使型の異世界の魔物程度では相手にならない。となると、この世界を終わらせる異世界の魔物はとてつもないのがやってくるに違いない。
「ニビ、一つ教えて欲しい。魔王……様は一体どういう魔物なの?」
「雑魚B様」
「クルーエルだよ」
「失礼しました。クルーエル様。魔王様は魔王様以外の何者様でもございません」
クルーエルの冷静な質問に対してニビは馬鹿みたいな反応に僕も目が点になった。魔王と呼ばれる存在は文献で沢山僕も知識を入れてきた。ドラゴンだったり、悪魔だったり様々あれど魔王という称号は職業みたいな物で種族を指す言葉じゃない。
「デーモンロードも一応魔王種じゃなかったっけ?」
「コトコ、それを今の私に聞く?」
最底辺の魔物であるグリーンスライム以下の魔力量しかない。アイデンティティを失う程度にはショックみたいだなぁ。
まぁ、でもそんなクルーエルを見るのも面白いな。なんかゆらゆらと揺れる飛龍の背の上で気分が悪くなってきた頃に魔物達の根城、魔王城へと僕らは到着した。
「人間の奴隷?」
クルーエルがそう言って地上を見下ろしているので僕も地上を見てみると、そこには広大な畑で農作業をしている人間の姿。
「ニビ、あれは?」
「魔王様の軍、その生産部隊の方々でございますね」
人間達は飛龍をみると手を振って笑顔だ。どうやらニビの言っている事は間違いないらしい。人間までも魔王軍に所属している。人間と魔物じゃ確かに強さが違いすぎるから前線に出るのは魔物の方がそりゃ効率がいいだろう。だけど、人間と魔物が共存している?
「頭が痛くなってきた……どういう事? どうして魔物と人間がこんなにも仲がいいんだ?」
クルーエルにはあまりの事態に本当にどうかしてしまいそうなくらいのダメージを負ってんだけど。魔王城の飛龍が降り立つヘリポートみたいな場所に到着。これから、勝利の宴らしい、ニビが僕らを誘導してくれるのでそれについていくと、巨大なホールみたいな場所にやってきた。そこには所狭しとご馳走が並んでいる。お酒も凄い量が用意されていた。
一番高いところに設置された豪華な椅子は魔王が座るんだろう。
誰もいなかった筈の椅子に魔王が座っている。
「クハハハハ! 皆の者、此度の働き大義であった。今宵も一席設けてある。楽しむと良い!」
周りの音が聞こえなくなる程の声援。魔物と人間達が盃を交わしている。この世界はそういう世界なんだろうか? そんな風に僕もクルーエルも感じていた。そんな宴の最中、ガーゴイルが魔王の元に向かい耳打ち、
「良い、通せ」
と、誰かが来たらしい。そして通された人物はどこかの国の偉い人みたいだ。護衛と共にやってきた。魔王軍で働いている人と違い同じ人間なのに魔物達を警戒している。
「ザナルガランの盟主、魔王アズリエル。突然の訪問、謝罪する」
「構わぬ。要件を申せ」
「貴殿から賜ったリザードマン、グールの軍勢の働きは凄まじく、異世界の魔物を追いやった」
「当然である! 余の家来であるからな! くーはっはっはー!」
なるほど、人間は魔王軍に力を借りているという事か、そしてこの凄まじい力を持った魔物達の事を報告するにしてはやけに暗いけど……
「光明のザナドゥが現れた。グールは全て消滅、リザードシャーマン達の奮闘もあり、全滅は免れたが、翅蟻共の進軍により完全に防衛戦は瓦解した。増援を所望する」
翅蟻ってまさかあの天使型の異世界の魔物じゃないだろうな? この偉そうな人間は魔王に増援を希望。魔王が不機嫌に盃を持つとハーピィーみたいな美人の魔物が魔王の盃にワインみたいなお酒を注ぐ。それを少し揺らして口に含むと魔王は言う。
「また余の軍に死ねと貴様はいうのか? ガウィン王国、総司令。エビアンよ」
「……それは……」
苦虫を潰したような顔をするエビアンさん。魔王は少し考えると話し出した。
「貴様ら人間は魔物を滅ぼす為に勇者召喚を行った」
どうやら、異世界からの勇者を人類は呼び出しそれらと共に魔物達を滅ぼすべく終わりのみえぬ戦いをしていた。そんな矢先、異世界の魔物が襲来、人類と魔物はその共通の敵を前に休戦。そしてお互いの文化交流が始まる。人間への差別、人間から魔物への差別はなかなか消える事はないが、それでも手を取り合う者達も出てきたのが今現在らしい。
「戦いの日々は変わらぬ。が、一つの平和の形である。してエビアン。もし、全ての異世界の魔物が滅んだ後、人間はどうする? 余達をどう心得る?」
「もはやそなたらと戦争する理由がない……」
そりゃそうだろう。
魔王は結構まともだし、人間を奴隷化するわけでもなく、同じ軍の一員として扱っている。
「異世界の魔物に勇者が殺されておるから申す事か?」
「……そのような考えはない」
「ふむ。余が人間側であればこう思うがの。異世界の魔物、魔王軍。生き残った方が次の敵になるとな。素直に申してみよ。どうするわけでもない」
「確かに……そう考えた事もある。いまだに魔物と人間が共に生きていくのにはいくつか問題もある……だが、魔王アズリエル。貴殿とこうして関わり、恐怖を覚えながらも貴殿の人徳は知っているつもりだ」
魔王は盃のお酒を飲み干すとおかわりを注ごうとするハーピィーに待ったをかける。
「何をしておる。客人に盃の用意をせよ。そして、桜華をここに呼べ」
魔物達はエビアンさん達の座る席を用意させて、ご馳走とお酒を振る舞う。出された物を断るのは失礼と判断したらしいエビアンさん達は魔物達と盃を交わす。魔王に呼ばれた桜華という人は、信じられない事に刀を持った侍みたいな人だ。跪いて挨拶をした。
「お呼びと聞き参りました。桜華にあります」
「ふむ、訓練の中ご苦労。面を上げよ」
「はっ!」
「防衛戦に上位の異世界の魔物。光明のザナドゥが出現したらしい。余の軍。グール部隊は全滅、リザードマンもほぼ瓦解したと聞く」
「なんと……おいたわしい」
「貴様と貴様の軍。第一地上部隊に光明のザナドゥの討伐を任せるとする。クハハハハハ! そして、余が拾った魔女のなり損ない。コトコを連れてゆけ、戦場を経験させる。コトコの従者にはニビを付けておる」
「ニビ殿を……かしこまりました。必ずやコトコ殿の命はお守りします」
「いや、放っておけ、死ななければコトコの冠位を上げる。死ねばそれまでである! クハハハハハ! これは暇潰しである! 力のない魔女が余の腹心になれるかどうかのな! 聞いたかコトコ? 生きて戻れば少し稽古をつけてやろう」
魔王の遊びに僕は使われていると思うと少しばかり閉口してしまうけど、魔王の力はガチだ。どうにか生き残って魔法を教えてもらわなきゃだし……
「分かったよ。クルーエル、行こう」
僕に呼ばれたクルーエルは頷くと僕の元へ向かおうとした矢先、魔王がクルーエルを呼んだんだけど?
「待てクルーエル、貴様は余のところに来い」
「えっ? 何?」
クルーエルが魔王の元に行くと、魔法はクルーエルの頭を掴むと何らかの魔法をかけた。クルーエルは「な、何をしたんだ?」と聞くので魔王が答えた。
「貴様をレッサーデーモンにクラスチェンジさせた」
「は? えっ? なんで?」
「クルーエル、貴様はデーモンロードにしては雑魚すぎる。魔法のノウハウはそこそこ持っているようだ。よって余の悪魔軍に所属し、そこで職務に励みクラスアップを行うとよい。デーモンロードに戻る頃には貴様の力は先ほどとは比べるまでもない。クハハハハハ! が、死すれば捨ていく。精進せよ」
うわっ!
クルーエルが師匠の元で長い年月をかけてクラスアップをしてきたことを無に返されてる。
これはクルーエル、ブチギレるんじゃ……
「レッサーデーモンなのに、前と魔力量が変わんない……」
「当然であろう。貴様は雑魚故な」
クルーエルは何かを考えて僕を見るとこう言った。
「コトコ、何としても生き残って、この世界での経験は絶対私たちに強力な恩恵を与えてくれる。絶対に最後の日まで……お互い」
最後の日、この世界でもクルーエルは滅ぶと確信してるのか……魔王達の力はちょっとどうかしてるくらい凄まじいし、もしかして……はないんだろうな。前の世界でもクルーエルは世界の滅びを僕に伝えた。僕は頷くとクルーエルは無表情で拳を僕に向けた。
「何それ?」
「いいから、コトコも」
「えっ? こう?」
僕が拳を握ってクルーエルに向けるとクルーエルは僕の拳にクルーエルの拳をコンと当てた。こういうの洋画の世界でしかみた事なかったけどな。
こうして、僕とクルーエルは第二の世界で魔王軍の下っ端に所属し職務に就く事となった。
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