第二世界 最強魔王戦線ザナルガラン

第16話 陰キャで雑魚様である僕らはパリピ軍団の魔王軍でやっていけるのだろうか?

 目を開けた第四の人生、僕はそれなりに考えた結果、僕の肩に乗っているクルーエルにこう言った。

 

「これ、いきなり僕ら死なない?」

「…………」

 

 クルーエルは何も言わない。

 いや、これ詰みじゃんか……

 

 僕らの目の間にいるのは、前の世界で翼を広げし者と呼ばれ、僕が師匠と暮らしていた時は天使だと思ったあの異世界の魔物。

 そしてそれらが上空に無数に飛び回っている。僕もクルーエルも覚悟を決めて、連中に対抗して、そして無様にやられる事を選んだのに……

 

「クハハハハハ! 異世界の魔物、恐るるに足らず! 皆の者、余に続け!」

 

 そこには長身で、タキシードに身を包み、マントを羽織ったもの凄い美形の男性が腰に手を当てて王者のポーズで大笑いしていた。そんな男性が腰に当てた手をあげて、そして降ろす。

 

「凄い魔力だ……」

 

 クルーエルがそう言った。

 そして、空を覆う程の攻撃魔法が無数に、無限い放たれる。僕もクルーエルも彼らが何者なのか分からないけど、間違いなくこの世界の英雄だ。顔を見合わせると僕らも魔法を詠唱した。

 

「ブラストルファイアー!」

「サンダー・ショット!」

 

 僕らの上級魔法、それらは夥しい数の魔法の中、明らかに出力が弱いらしい。それでも異世界の魔物と戦う意志を見せた。

 

「撃ち方やめい!」

 

 美形の男性がそう言うとあれだけの魔法が止んだ。無数に飛び回っていた異世界の魔物達は全てあの魔法に飲まれて倒されていた。数の暴力、それもとてつもない程の……そしてこれらの魔法を放っていた者達。

 

「コトコ、魔物だ」

 

 僕らは囲まれていた。

 見渡す限り、師匠の所有していた書物の中で語られ描かれていた数々の魔物達。人間にあだなす怪物。僕は咄嗟に魔法の杖を構えた。

 そして……身体が宙に浮いた。

 

「は?」

 

 巨大な、化け物。確かこいつは……

 

「ディダロス。そやつは誰か? 余の家来では見ぬ顔である」

 

 暴獣王ディダロス。

 神話上の大魔獣、そんな奴に僕は摘まれている。

 

「闇魔界の御方。我が部隊に紛れていましたが、知らぬ顔です」

 

 周りの大小の魔物達が声を揃えて“魔王様““魔王様“と呼ぶ人物。

 

 さらに文献によってはこの暴獣王ディダロスも魔王として語られているのに、そんなディダロスが魔王様と呼ぶ相手……

 さっきの美形の男性だ。

 高価そうな革靴をカツカツと鳴らしながらやってきた彼、綺麗でキューティクルが輝く黒髪、金色の瞳、そしてギザギザの歯をし、笑う。

 

「クハハハハハ! 何者か? 申す事を許す」

 

 続々と集まってくる魔物達。ディダロスだけじゃない、上空に巨大な蛇のような魔獣。あれは狂蛇王ウラボラス。そんな者を従えるこの男性は魔王で間違いないんだろう。どう答えるべきだろうか?

 

「見た所、魔導士に、小悪魔と言ったところか?」

 

 魔王はそう言う。カーバンクルに変化しているクルーエルの事も見抜かれて、僕は正直に話す事にした。

 僕は転生者である事、異世界の魔物を滅ぼす為に五つの世界を魔本に閉じ込める旅をしている事。

 

「あとは、超魔導士ドロテアの魔法を集めているかな」

「ほぉ、ドロテアとな?」

 

 温度感が少し下がった気がする。明らかに魔物達の殺気を感じる。そして、この世界では超魔導士ドロテアが認識されているという事。

 

「崩壊魔法か」

「知ってるの? その……」

「クハハハハ! 他者に名を尋ねる時は、まず自分からである! 名乗る事を許す」

 

 なんというか、この魔王。服装からも感じるけどなんかきちんとしてるなぁ。僕はコホンと咳をして、

 

「僕は、稲荷琴子。開闢の魔女ロスウェルの弟子だよ」

「魔女の弟子であるか? しかし聞かぬ名であるな」

 

 ロスウェルの事は知らないのか……僕は魔王の名前を待っていると、魔王は僕を少し見つめ、

 

「小悪魔よ。貴様の名乗る事を許す」

 

 クルーエルは僕の肩から飛び降りると、前の世界とは違い少年の姿になって、片膝をついてお辞儀をした。

 

「私はデーモンロード。名前はクルーエル。同じく開闢の魔女ロスウェルのファミリアだった。コトコの行き着く先を見届ける為に取り憑いてるんだ」

 

 ダークエルフが豪華な椅子を持ってくると魔王の前にゆっくりと丁寧に設置する。その椅子に魔王は腰掛ける。

 

「ふむ、デーモンロード。にしては貴様。弱すぎるな。余の配下で最も魔力の低い家来よ。余の前に来ると良い」

 

 魔王がそう言うとグリーンスライムがやってきた。スライム、冒険者が最初に討伐練習として戦う魔物だと書物に書いてあったけど、あの書物……どこの世界の話だよ。

 僕もクルーエルもグリーンスライムのとてつもない魔力を前に腰が抜けそうになった。

 

「……こんなスライムがいてたまるか」

 

 クルーエルが悔しそうに言う。

 そう、この魔物達はどいつもこいつも僕らとは比べ物にならない魔力量を保持している。

 

「ふむ。貴様らの師匠の魔女」

 

 僕らはロスウェルが侮辱されるのかと魔王の発言に緊張した。

 

「相当慕われておったのだな。貴様らのような雑魚が復讐の為にわざわざ別の世界にまでやってくるとは、見事な師匠であったのだろう。魔女ロスウェルに、皆のもの。黙祷」

 

 嘘だろ。

 こいつ、魔王なんだろ?

 

 魔物達が皆一様に目を瞑り、見ず知らずの師匠の為に祈ってる。これは僕が学んだ魔物達じゃない。あれだけ膨大な書物に書かれていた事は解釈違いもいいところだ。

 

「余は魔王アズリエル。皆は余の事を魔王様。あるいは闇魔界の御方と呼ぶ。クハハハハハ! 貴様らの旅、余の世界で終焉とさせてやろう。余の力があれば異世界の魔物など恐るるに足らぬ! どのみち貴様らの力ではすぐに野垂れ死ぬであろうからな。余の家来として魔王軍に入れやろう! クーハッハッハッハー!」

 

 この世界に関しては魔王の言う事に反論ができない。

 僕は確かに明確に弱いだろう。だけど、クルーエルまで雑魚扱い……なんだこの世界……僕は……

 

「ま、魔王。五つの世界をこの魔本に閉じ込めないと、異世界の魔物は倒せないって師匠が……」

「小娘、“様“が抜けている。我ら闇魔界の御方の御前で無礼がすぎる」


 ディダロスにそう言われるも魔王アズリエルが、

 

「クハハハハハ! 剛毅である。良い。コトコ、気に入った。貴様らはそうであるな……余が直々に力を試してやろう。貴様らの持てる全ての力を使って余にかかってくると良い。ドロテアの崩壊魔法も使ってくると良い」

 

 ゴクリと僕は喉を鳴らした。

 寓話の超魔導士ドロテアを知っている。僕が聞く前に、クルーエルが魔王に尋ねた。

 

「魔王……様はドロテアを知ってるの?」

「余は奴に魔法を学んだ。実に不快。不敬極まる者であった」


 遠い血縁者である師匠よりも全ての魔法の母に近いところに魔王はいたんだ。そして大分上品な魔王があからさまに不快感を感じる程ドロテアという魔導士は何か問題点があったのかも知れない。

 どんな人でしたか? と聞くまでもない程だったんだろう。

 

「魔王様、僕はドロテアの崩壊魔法を行使する為の理論は知ってるけど、魔力が足りなくて使えないんだ」

 

 そしていつまで僕はディダロスに首根っこを掴まれているんだろう。ディダロスがでっかいから魔王を見下ろすような形になってるけどこれはいいの? 魔王は腕を組み、笑う。

 

「ふむ、貴様らどこに出しても恥ずかしくない雑魚であるからな」

 

 クルーエルが叫んだ。

 

「魔王様。コトコに魔法を教えてあげて! ロスウェル亡きあとは私がコトコに魔法の手解きをしていたけど、魔王様ならもっと上手く、強く魔王をコトコに学ばせてあげる事ができる」

 

 魔王に魔法を教わる。

 それに関して、魔物達が僕らを冷たく睨みつけている。そりゃそうだ。魔物達の頂点に対してあまりにも不躾な事に違いない。

 

「ふむ、魔導の王たる余に魔法の手解きを望むか…………身の程を知れ」

 

 殺される!

 そう僕もクルーエルも思ったけど、腕を組んで魔王はクハハハハハ! と笑う。

 

「余の魔王軍。ディダロスとウラボラスという腹心がいる。陸のディダロス、空のウラボラスである。海が今おらぬ。貴様ら、余の魔王軍で働き、余の第三の腹心に上り詰めよ。その為、少しばかり魔法を教えてやろう。ふむ、ニビ。この者達の世話をしてやれい」

 

 上空より現れたのは……クルーエルが絶望したような表情をしてる。だってあれは世界最強の生物……ドラゴン。それも上位種のレッドドラゴン。そんなレッドドラゴンが降り立つと、その姿を人間の姿に変えた。片膝をついて胸に手を当てて魔王に挨拶。

 

「ニビ、ここに。闇魔界の御方今宵も変わらずに、そしてこの雑魚様達の世話を私めが?」

「さよう。余に魔法の手解きを所望している故な」

「誠に愚かの極み様でございますね」

「ふむ。が、嫌いではない。こやつらの世話、そしてこやつらの部下となり、魔王軍一兵から余の三柱までかけ上がる手助けをしてやると良い」

「仰せのままに」

 

 メイドさんだ。

 角は隠し切れていないドラゴンのメイドさんが僕らに敬称を使っているのかディスっているのか分からないけど、無表情のまま僕らを見つめ、そして雑魚様である僕らに魔王軍お抱えのメイドさんが世話役になってくれたらしい。クルーエルに至ってはもう完全に頭のキャパを超えて混乱しちゃってるよ。

 

「さて」

 

 魔王が何かを言おうとすると、魔物達は皆黙る。

 僕でも分かる。とんでもないプレッシャーにどれだけ魔力があるのか底がしれない。そんな魔王がこう言った。

 

「余の城で、宴である!」

 

 そして鼓膜が破れそうになるくらい、魔物達の雄叫びが響き渡る。

 嗚呼、僕はこのテンションを知っている。体育会系? パリピ? そういう連中のノリだ。

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