第6話 死にたがりの少女、バンガードに入団する

「名前は」

「コトコ」

「特技は?」

「何だろ、家事全般と戦闘全般」

「どうしてバンガードに女の身で入ろうと思ったんだ?」

「マガカミを滅ぼす為だよ。師匠の仇だ」

 

 僕のこの理由を聞いて、バンガードの入団試験管らしい人は目頭が熱くなっていた。これは入団は貰ったかなと思ったら、試験管らしい人は突然棒切れを持って席から立った。

 

「コトコ。お前の気持ちはよく分かった。だが、実力が伴わない者をバンガードに入れると天衣祭様の御身が危険に晒される。私に一太刀でも入れる事ができたら入団を考えてやろう」

 

 一太刀入れたら入団じゃなくて入団を考えるって面倒くさいなぁ。好きな棒切れを選べと言われたので僕は手の中に収まる程度のナイフ型の棒切れを一つ選んだ。

 理由は軽いから。

 

「それでいいのか?」

「これでいいよ」


 身体能力強化、超加速付与。念の為の各種プロテクション付与。僕を、開闢の魔女、ロスウェルの弟子である僕をコケにした事。身をもって知るといいよ。バンガードとやら全員を合わせても僕の足元にも及ばないのに……

 

「どこからでも……お前っ……」

「一太刀、これでいいの?」

 

 僕が一瞬で背後に現れたように試験管の人は感じただろうね。ペシっと木の棒で叩くと試験管の人は「お前、何者だ?」「マガカミに個人的な恨みを持つコトコだよ」僕の言葉を聞いて試験管の人は「天衣祭様の事をお守りすると誓えるのか?」とか言ってくるので「マガカミを全て滅ぼせるなら」と僕が答えると、試験管の人は何か納得したように何度か頷くと「合格だ」と僕はこの瞬間、バンガードという兵士になった。

 僕が案内されたのはバンガード第十一班という場所で、そこには……

 

「おーい! コトコぉ! バンガードになれたんか?」

「ゼクト、何とか僕の話に耳を傾けてくれて入団を許可してもらったよ」

 

 ゼクトと同じくらいの年齢の子供達が二人。そして頼りなさそうな男性、リーダー的な大人の人が一人。十一班の待機場は他よりどう考えてもお粗末な作りだ。何というか学童というか、部活というか……僕は部活なんて入った事ないんで分からないけど。

 

「ゼッくん、知り合い? 紹介して紹介ぃ! 私はキキ」

「第十一班とはいえ、バンガードになれるとは大したものだ。俺はムサカ」


 陽の者だ。

 とても苦手だ。とても……

 

「三人とも、コトコ君は今日バンガードになったばかりなんだから色々教えてあげておくれ……私は第十一班のリーダーでポー。ポーでも隊長でもリーダーでも好きに呼んでおくれ」

 

 リーダーっぽい大人の人、彼は陰の者だ。なんて落ち着くんだろうか。それにしてもゼクトじゃない少年の言葉。

 ……というのはここは落ちこぼれの集まりという事なんだろうな。むしろ僕からすれば好都合だ。第十一班の待機場は飲み水と硬いパンの補給食。仮眠用の汚いソファー。最低限の環境しか与えられていないように思えるけど。

 

「初めまして、僕はコトコ。マガカミを滅ぼすために一緒に頑張ろう」

 

 それっぽい事を言ってみたけど、キキとムサカ。そしてゼクトに大いに歓迎された。バンガードで最初に教わった事は異世界の魔物、この世界では禍神と禍神に唯一効果的な武器である巫学兵器について、これは少し面白い。

 特筆すべきはこの世界には魔法という概念が存在しない。

 

「俺の破邪はブレード型。ムサカは矛でキキはボーガン。隊長は双剣だから、コトコはどういうのがいいかな?」

 

 僕には魔法があるからハジャなる武器は不要だけど今後の後学の為にもらっておこう。重い物は苦手だし、試験時の物と同じでいいか「素早さには自信があるんだ。ナイフ型とかあるの?」という僕にポー隊長が答えた「では申請しておくよ。次は禍神についてキキ、教えてあげて」という事でこの世界に現れる異世界の魔物について話を聞いた。

 

“禍神“

 

 とマガカミは書くらしい。邪悪なる魔物、醜悪なる怪物。それら人間ではないものをこの世界では神と呼ぶらしい。現在存在が確認されている禍神は三種。

 

 ・神兵

 

 人間サイズの禍神らしい。図説を見せてもらったけど、師匠が戦っていたあいつとは違う見た目だ。まず翼を持っていない。

 

 ・鳥神

 

 腕が翼になっていて空中からの滑空攻撃をしてくるらしい。こいつも少し天使に近くなったけど、人間の力で倒せるらしい。

 

 ・魔神

 

 角と翼が生えた怪物。こいつは一部隊クラスで対応に当たらなければならないらしい。確認されている中での最強種だとか……

 

 なんだか馬鹿馬鹿しくなってきたな。魔法使いや魔女達を滅ぼし尽くした師匠が戦っていた異世界の魔物とはレベルが違って弱そうだ。そんな中で、キキが説明してくれた話。

 

「天衣祭様のお告げで、1999の刻。七の月に空から滅亡が降ってくる。その名は閃光の夜。今説明した禍神とは比べ物にならない大きさで人類を抹殺しにくるんだって。その滅びを回避する為にあちし達が天衣祭様を守り、最強の超巫学兵器で閃光の夜を倒す事が人類の悲願だね。今年がその日だから、世界中から巫術師を集めてるんだよ」

 

 分かりやすい。

 アガルタの月はいないのか? その閃光の夜がアガルタの月の事なのか、僕は五つの世界を魔本のレプリカに閉じ込めるよりも先にこの世界で異世界の魔物を滅ぼしてやろうと心に決めた。この世界の概要は分かった。あと知りたい事は巫学と天衣祭とかいうこの世界の王なのかそれに属する奴について、

 

「天衣祭様ってのに会うにはどうしたらいいの?」

「えっ……コトちゃ……何言ってんの、普段は会えるわけないじゃん」

 

 なるほど、天衣祭とやらは一般人が無闇矢鱈に会えない存在なのか。僕がよほど納得のいかない顔をしているとポー隊長が捕捉してくれた。

 

「全ての巫学兵器の管理をされている非常に徳の高いお方です。お忙しいのでお目にかかる事はできませんが。禍神との最終決戦ではきっとその御身をお見せくださるでしょう」

 

 何人バンガードがいるのか分からないのに一人でそれらを管理なんかしてるわけないだろう。僕はゼクトにご馳走になった時の話を聞いてみた。

 

「ザ・キューブって人達については?」

「天衣祭様の腹心の方々ですよ。それぞれ特別な巫学兵器を賜り、禍神との戦いにおいて第一線で活躍してくれています」

 

 全員にその特別なのを配ればいいんじゃないかと思うけど、差別化を図っているのかな? そいつらは僕も近々お目にかかる事ができるみたいなので天衣祭とやらの事はそいつら経由で知れればいいか。

 次に興味を持った物はやはり巫学兵器だね。

 

「みんなの巫学兵器を使う所を見せて欲しいんだけど」

「丁度、実技訓練の時間ですし、皆さん準備してください」

 

 この世界の戦闘レベルがどの程度の物なのか、見定めさせてもらおう。あの試験管がアレだったのであんまり期待はしていないけど。もしかしたら、もしかするかもしれないしね。

 

「じゃあ俺のハジャから見せてやるよ。デーヴァ!」

 

 持ち手しかない物から実体の刀身が現れた。なんだこれ? 魔法力は感じない。それでバターでも切るように、訓練用の木の板を軽々と切断している。

 

「凄い……」

 

 素直に僕はそう言った。もし物質転送だとしても早すぎるし、そして物もいい。驚いている僕に満足したようにゼクトはその剣をブンブンと振っている。重さも感じさせない。腕の良い鍛治が作る魔剣クラスの精度はありそうだ。とはいえ……師匠が戦った群体で来た異世界の魔物には到底届かないな。この世界の異世界の魔物は総じて弱い……と決めつけるのは良くないな。とりあえずこの世界の兵器見物を楽しもうかな。

 

「じゃあ、次は俺だな! デーヴァ!」

 

 同じように少し長い持ち手から巨大な矛が出現、それを振り回して木製の標的を粉々にしてみせた。ムサカの矛を使う技、きっと幼少から鍛えたんだろう。僕は武術方面はあまり明るくないけど素人目に見てもたいした物だ。続いてキキ。トリガー部分だけの持ち手「来て! デーヴァ!」と叫ぶとトリガー部分からボーガンが出現。無限に矢を打ち出す事ができるそれ、一発一発の威力もそこそこ高い。

 

「最後は隊長!」

「私のかい? いや、もう十分だろう?」

「いえ、良ければ見たいな。二つ持ってるんでしょ?」

「いや、一本なんだ」

「どういう事?」

「デーヴァ!」

 

 ゼクトのように持ち手から短いサーベルが出現し、それが二本に分かれた。どういう原理だろう? 師匠の魔法のいくつかを組み合わせれば近い事はできるかもしれないけど、瞬時に出現させるなんて今の僕にはできそうにない。早く僕の武器を手にしたいところだ。

 

「隊長ぉ! コトコの歓迎会しましょうよー! 隊長の奢りで」

 

 おいおい、いきなり入ってきた僕にわざわざそんな時間取るわけないだろう。ここは一応軍隊なんだろう。そんな学生みたいなノリが許されるわけないだろう。

 

「仕方ないですねぇ! じゃあ今日の訓練が終わったら行きましょうか! コトコさん、好きな食べ物はありますか?」

 

 嘘でしょ嘘でしょ? 

 笑い合っている第十一班の空気にと惑いながら、一緒に笑い。彼との任務を少しばかり楽しみにしていた。チープなご都合主義の作り話のように、彼らとなら案外なんとかなるんじゃないかと、そんな風に思ってしまった。

 

 友達っていう存在を知らない僕が、友達とかいうものを欲してしまってたのかもしれない。クルーエルは美味しい物を見つけて僕と合流する時には色々と自慢しながらこの世界のグルメを教えてくれるとか、そんなお気楽な事を僕は頭の片隅で考えてしまっていた。師匠の温もりを何か他の事で代用し求めようとした愚かな僕。

 

 この世界がどう足掻いてもこれから滅びに向かうという事を忘れていた。

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