女神の血! 友よ見てくれ唸るムチ

第10話 香織のオバケ実験

女が膝を抱えて死んでいる。


一糸纏わぬ裸で、薄暗がりで身体を縮め座る格好だ。

暗く狭く、立つことはおろか首を動かせばわずかな角度で額をぶつけそう。


やあ「死んでいる女」こと香織だよ。

死んでて立ち上がったり頭をぶつけることが出来るのか、といえばできるのだから仕方ない。

死者に与えられる狭いスペースや許されるポーズにしても、棺桶に仰向けだったり、焼かれたあとの欠片をツボに収める、だったりで、屈葬は現代日本では殆どやってないだろう。

ちなみにあたしの身体遺体は心中儀式のあと、夫婦用のでかい棺に入れられて密かに埋葬されたそうだ。

どこか、というか全てで法を犯しているんじゃないかな。


ここは押入れの下段だ。

えっちらと衣装の入ったプラケースをいくつか引っ張り出して、下段だけ空間を空けた。


そこに体育座りをしているあたし。

訓練、というかある実験がしたかったのだ。


今はスケスケの霊体でいるんだけど、この状態はモノを素通りできる。

そのかわり干渉、つまり持ち上げたりぶつけたり叩いたりはできない。

地面とかには「やんわりと」雰囲気で立ってるんだ。


そしてあたしの身体感覚は霊でも、亜美の前での生身でも「ひとつの身体」として連続し不可分だ。そこはみんなと一緒だよ。

首だけ分離して置いておく、とかは――できない(できるのかもしれないけど、研究したくないね)

飛んだりデカくなったりはそれなりに出来るが、腕を飛ばしてオールレンジ攻撃やロケットパンチはちょっと無理。


実体化して生身になった時は、柱や天井にぶつかれば痛いし、怪我すれば血も出る。

生きていた時の癖が抜けてないともいうが、痛みのような感覚、五感をカットするのなら、生身になる意味がない。

亜美とイチャイチャしても感じないのでは面白くないでしょう。


――今回の「実験」は純粋な興味でやるんだけど、

  押入れ下段にいるのは、身体と外界の境界を認識しやすい雰囲気作りというわけ。


立つことが出来ない低い空間が欲しかった。

ので、今のあたしは「押入れで体育座りしている怪しい女」状態だと思って欲しい。

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