第4話 普通、友だちのパンツ履かないよ?

 オバケになって現れたわたしの友人は、パジャマ姿で座っていた。

「……あのね、亜美」

「なに」


「ごめんね、亜美。あなた本当にあたしのこと、愛してくれてたのね。深く深く。死んじゃって、置いてって、ごめん」

 困り顔で謝る香織。


「いや、そ、そういう愛、じゃないし――友だちだし」


 この香織オバケは、秘めた百合愛をわたしが想っていたと勘違いしているようだ。

 心も読めるっぽいのに。


「やー……うーん、言いにくいけど、結果がね、証明してるってやつ?」

「なんだそれ」


 ホント、こうしてると前と変わらずバカ話してるみたいだ。大切なダチ公と。


「亜美さ、今パンツ何履いてる?」

「え? あったやつ」


「それあたしのぱんつ」

 香織は苦笑いした。


「ねえ、普通のひとはね、死んだ友だちのパンツを履いたりしないの。シャツとか、みんなあたしのじゃん。冷蔵庫のプリンも食べたでしょ」

「悪くなるだろ」


「死んだ『ともだち』のさあ、部屋の整理たのまれてさあ、服もタオルもデザートもぱんつも、使いながらあたしの布団で寝て起きて、たまに泣きながらひとりえっちしてさあ、そうしてずっとあたしを思いながら九十日以上も経ったよ?」

「ぐっ」

 そんなに経ってたか?


「――そんなのもう、愛じゃん」

「違うんだ」

「ちーがーいーまーせーんー。亜美、あなたのしたことは、死婚というか、かなり高度な『魔術の儀式』と同等以上のものよ。それを『違うんだ無意識に』出来るなんて、やっぱ愛の成せる業」


 そんなにか? ははは、まさかね。違うんだ無意識に、つい。香織。


「……好きは、スキだけどさ。なんか、もう! いやあえて嬉しいんだけどさ!」


「いいのよ。あたしも嬉しい。またあえて嬉しい。おかげで亜美の前に出て来れるようになったし、こうして、抱きしめることも出来るよ」


 すす、と生身の香織は横ににじり寄って、わたしの頭を胸に押し当てた。

 香織っぽい匂いがする。


 わたしも彼女の腰に手を回した。

 互いの体の手ごたえを感じる。


「――なので、感動の再会だよ! ね、しよ!」


 香織はオバケの情緒も無く、テーブルを足で隅に追いやり、不精で二つ折りになっていた布団をささっと広げ、灯りのヒモを引いて暗くした。


「ちょ、ま――」

 

 香織は好き好きと言いながらわたしを押し倒し、あちこち存分にキスをしながら、わたしを裸に剥いた。

 あとは布団にくるまり睦みあうわたしたちの声と、湿った肌の温もりの感触、ときおりわたしの啜り泣く声がするだけ。


 

 わたしとオバケの香織の馴れ初めはそんな感じだ。


 香織はそのままわたしの傍に存在し続けており、親しい同居人となった。

 付き合おうとか約束を交わしたわけでは無く、同棲して時折肌も重ねるともだち。


 でも香織は幽霊で、

 わたし達は女同士で、

 どうやら旦那も同じくオバケで在るらしく、

 つまり人妻への横恋慕だか不倫で、

 正直無茶苦茶な関係だ。


 気恥ずかしい。最初の夜も、スゴク良かったのが納得いかない。

 受けネコだったあいつに、しくしく泣きながらもっとして嬉しいとかお願いしてしまった。

 ああ恥ずい、もう。もお。好きは、好きだけど。


 でも、気を使わなくても、一緒に居られるなあ。

 わたしのこと、ぜんぶ知ってるし。

 モヤっと心地良く、このままいっしょにずっと居たいな。


 ようは大切な遊び仲間セックスフレンドみたいなもんだよ。


 うん。とても大切なんだ。

 それは確かだ。

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