女神憑き

独楽道楽

オバケで再会! 怪しい儀式と愛の喚び声

第1話 こじらせ親友の死

 わたしは亜美。ただの亜美でいいよ。

 あれは秋の始めの満月だったから百日以上も前のことだ。


 イカれた邪教儀式で、友人の香織が男と心中して、死んだ。


 ひどい字面だよね。でもまんま、そうだ。

 いいかい? これからわたしはウソは言わない。本当のことだけ伝えるよ。


 ある閉鎖的な魔術結社に伝わる「儀式」がある。

 その内容はこうだ。


『イキながら一緒に死ぬと霊体になって、相手と永遠にセックスし続けられる』


 よくわからない? いいね。あなたは正常だ。


 まず、イカニモな魔法陣を用意します。

 信頼しあうカップルがそこで愛を交わします。ワオ。

 えーしばらくして、なかなか難しい(知ってるよね)けど、同時にイキます。仲がいいね!


 すると、腕のいい介錯人が槍とか好みの武器やらでふたりを一息にしいします。

 香織と彼の場合は槍でした。

 死んじゃいます。ですがどう見ても彼らは嬉しそうです。


 永遠の幽霊カップルの誕生です!


 見てきたように言う?

 そうだよ。わたしは詳しいんだ。記録を見せられた。というか自分で見た。


 どこをとっても正気ではない、嘘っぱちだおい逃げろと叫びたくなる「儀式」――男はわたしの大切な友人を至極真面目にその魔術だか儀式に誘ったのだ。


 香織はその儀式のお話――呪文ひと声唱えたら邪神が召喚され、君がイケニエにならないと世界が滅ぶ! てなノリの、ありえない詐欺話をスコッと信じてしまった。


 女だけ生贄にせず、主催者も一緒におっ死ぬのが良心的といえば良心的か?

 彼女を誘った男、つまり香織と心中した彼からすれば、そんな話にシラフで乗ってくれる相手を探し求めていたわけだから、運命の出会いだったわけだ。


 皮肉なことに香織にとっても。


 素養があったんだよ。香織は。

 明るくていいやつだったよ。今はもっとだけど。


 わたし以上にプライベートは千鳥足で、男にも女にも愛や好きを求めて、なんだろうな。

 あっちこっちいってたよ。長続きしないのは私と同じ。


 フラれるのが、見捨てられるのが怖くなって自分から別れる。

 頻度というか、サイクルも早くてね。

 冷静に言えば愛着障害ってやつなんだろうが、友だちを分析なんかしたくないよ。


 あとなー。そこまでとは知らなかったけど、香織のやつはに憧れてたんだよ。

 ツラいことがあるから死にたいわ、他人がしにそーなとこを覗いてみたいわじゃなくて、自分が死ぬことを考えると興奮するってたぐいの、ま、変態だ。


 ツルんでても、そういう趣味は隠してたんだろうね。時々陰を含んだ表情をする、なんて思わせぶりもなかった。

 一度だけ心中もののAVを一緒に鑑賞したときは、潤んだ目をしてたな。変なの見て涙目じゃなくて「いいなー」だったわけだ。


 死性愛タナトフィリアというらしいが「いいなー欲しいなー」的な無邪気さと純真さと、大人としての欲望も自覚して、そう思ってたんだ。

 尋常な趣味ではないけど、わたしも正常、ノーマル? なにそれ寝てろ! みたいなとこはある。悪くなければいいんだ。


 でもさ、泣いて悲しむ、愛してるからヤメてくれと勢いでゲロっちゃう友だちを置いて逝くのは「悪」なんじゃないのか?

 この後この旦那といくんだ♪ と見せつけて。


 巻き込むのはいいよ。でもさあ、やりきれないよね。


 死んだ香織は、わたしの友人はホームラン級のバカだが、更にバカげたことにその心中エロ儀式の効き目は本物だったらしい。


 わたしは友人として、香織の部屋の始末を頼まれた。

 心中儀式の数日前にウッキウキでメッセージ送ってきたんだ。


 飛んでいって必死で説得した。部屋のドアは蹴破ったし、相手の野郎をぶん殴りもした。

 だけど恋愛と死のお好み盛りがミックスして訪れ、感動でバカになったあいつは聞く耳もたなかった。


 最後にはわたしも泣いて泣いて泣いて縋りついて引き留めたけど、前向きだか後ろ向きだかに意志は固く、ごめんねと言われて部屋の鍵を渡されたんだ。

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