第2話

 両親も友人も婚約者の友人たちも、この世界の人はみんな顔面偏差値が高い。

 そのなかでも、成長した婚約者の顔面は群を抜いて国宝級。

 前世平凡な私でさえ美少女。金髪銀髪が多い中で黒髪だけど。ひとりだけ名前が和風で漢字だけど。


 なぜか誰も疑問に思っていないようです。ごくごく普通に接してくれます。

 疑問を抱いているのは私だけのようです。WHY?


 学園に入学してからもいろいろなことがありました。

 レッドキャップ・バノック先輩に、つい

 「赤い帽子は被らないのですか?」

 と聞いてしまったら、おもしれー女に認定されて絡まれるようになったり。

 美人風紀委員のネッシー嬢と、かわいい後輩の美少年リトルグレイくんの攻防とか。軍配は美少年リトルグレイくんが優勢。ネッシー嬢はリトルグレイくんにメロメロだから。2人を見守るのが今の私の生きがいです。なんちゃって。


 とまあ、物思いにふける夏の午後。

 親友エッティとルーの声で、回想から呼び戻されたのでした。

 

 お茶会という名の女子会。もう少し回想に逃げたい。

 だって、今日のお茶会の議題は……。


 「ねえ、どうして婚約者のことを名前で呼んであげないの?」

 「あんなに仲が良いのに、不思議だわ」


 「え、えっとぉ。いやぁ、なんというか。照れくさい? 

 そう、きっと照れくさいのよ! うん、そう。そういうことにしよう?」


 「そういうことにしようって、なんなのよ」

 「もう、呼んであげたらいいじゃない。彼、いつも寂しそうにしてるよ?」

 「わかった! 愛称ならどう?」

 「ほら、私たちのことも愛称で呼んでくれてるでしょ? だったら、モフォンゴ侯爵令息のことも愛称で呼んだらいいんだわ!」


 「愛称ね、うん、愛称。それもね、考えたのよ。考えたけどね。

 全然思いつかないのよーーー!!」


 私の絶叫に驚いて固まる親友2人。


 「だって、チュパカブラよ! チュパカブラ!

 名前から全然思いつかないのよ!」


 私の魂の叫びにエッティとルーも考え込む。


 「あー、うん。たしかに難しいわね」

 「チュパ? ユパ? パカ? カブ? ブラ?

 どれもしっくりこないわね」


 「でしょう? もうどうしていいのか」


 納得してくれた親友たちに畳みかける。


 「それにね、この婚約はいずれ解消されると思うのよ」


 私の発言にエッティとルーの表情が、鳩が豆鉄砲を食らったようになる。

 普段は可憐な淑女で美少女の珍しい表情。ちょっとおもしろい。


 「モフォンゴ侯爵令息からの贈り物がね、8対2の割合で赤いのよ」

 私が嘆いてみせれば、ルーが「あー」と何とも言えない声を出して遠くを見た。


 エッティが

 「きっと、貞子の黒髪に似合うと思って贈ってくれたのよ。

 今日だって、その赤いリボンとネックレスはモフォンゴ侯爵令息からの贈り物なのでしょう? ね?」


 「まあ、婚約者からの贈り物だからね」

 と、指先でネックレスの紅い宝石をつまんで見せた。


 この国では慣習として男性は、婚約者には自分の色のものを贈ることになっている。それは主に瞳の色で、モフォンゴ侯爵令息の瞳の色は緑。

 故に、礼儀正しく優しく接してくれてはいても、婚約者として認められていないのではないかと私は考えている。


 とまあ、『貞子に婚約者チュパカブラ・モフォンゴ侯爵令息の名前を呼ばせる』という議題で始まった女子会は、ほろ苦い雰囲気のままお開きになったのでした。ちゃんちゃん。

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