第2話
しかし今日の電車はいつもと違って騒がしい。「ねえこれ見てってば」と子供が母親の注意を引こうと必死である。既に憂鬱な気持ちでいた私からすると、その高い声は苛立つ原因として充分だった。子供の手にはコーラのペットボトルが握られていて、赤と緑のクリスマスカラーで彩られたラベルが、彼女の指と指の隙間から見え隠れしている。クリスマス3日前、私の誕生日の1週間前である今日。幼い頃であればこの時期は浮かれた気持ちでいただろうが、ひとり欠けた家族を前に私は何をするにも気分が乗らなかった。冬は母が病気で亡くなった季節だからどうしても要らないことを考えてしまう。
「期間限定のパッケージが可愛かった」そんなどうでもいい報告をできるような相手が今の私にいるだろうか。一向に暖まらない指先に息を吹きかけながら私はそんなことを考えている。相変わらず母親に構ってもらえない子供は、一瞬不服そうな顔をしたかと思えば、今度は勢いよく指先に息を吹きかけた。ペットボトルを持っていて手が冷えたのだろうか。視線がこちらに向けられ、私はやっと自分の真似をされたのだと気が付いた。彼女はリボンのついたラベルを指さし、嬉しそうに見せてくる。私は無意識に笑いかけてしまっていた。そこにはさっきまでの憂鬱な気持ちや苛立った気持ちはなかったと感じる。
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