コーラ

朱音

第1話

 突如として降り始めた冷たい雨は、訳もなく人を急かす。先ほどまで横を歩いていたサラリーマンは、まるで待つ人の存在を思い出したかのように早足になった。今日のバイトは忙しく、疲労によって重い足取りになっていた私を、背の高い男子高校生が追い抜いてゆく。きっと彼の帰る先には温かくて美味しいご飯があるのだろう。そんな妄想で私は勝手に鬱屈とする。彼らが躊躇無く踏んだ水たまりはバシャッと跳ねて、アスファルトを黒く染めた。

 その後も何人かに追い越されながら、やっとの思いで駅に着いた。帰宅ラッシュの電車内は人でごった返していて、安さが売りの詰め放題商品になった気持ちだ。私はこの電車の中で面識のない人々の温もりを静かに感じていた。

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