思いつき

滴溜溜

第1話 無力と言われる君

 無力と言われる君。


 これは勿論、あなたのことじゃないですよ。

 あなたじゃない誰かを指してる訳でもない。


 ただ、『芸術』というちっぽけな命に呼びかけているんです。

 スピってますかね、これ。




 私は、よく絵を描きます。

 小さい頃から、今も。


 ついに美術を学ぶ大学へ通ってしまうほど。


 課題の絵、いつもギリギリです。

 最近、テーマガン無視で描きたいものを描いたら、怒られを通り越して

「真剣に描こうね」

と諭されました。



 そんなことはどうでもよくて。



 芸術って無力だとよく言われませんか。



 戦争反対っていう絵画ポスターは、現地ではただの紙切れ同然です。

 誰かの死を悲しむ詩で、思い出されたその彼は戻ってきません。


 いつもいつも間に合わない。


 よい歯の標語みたいなの。短歌を小学校のときに書かされた記憶があるんですけどね。

 私、今度虫歯抜くんです。神経までいかれてるみたいです。麻酔、必須だそうです。



 あーあ。

 役立たずな君。



 よく言われます。


「絵描いて何になるの。」

「そんな本気にならなくても。」

「AIでいいじゃん。」

「そんなんでお金稼げないよ。」

「そればっかじゃ社会でやってけないよ。」


 全部ほんとのことです。

 絵描いても何にもならないし、ガチるのバカらしいし、AIでいいし、お金も稼げないよ。バイト戦士だよ。

 先月、画材代で5万飛んだよ。


 てかさ! 

 もう社会のレールから脱線してんだよ。




 医学とか、科学とかみたいに、社会をひっくり返すほどの世紀の大発明も、大発見も。

 なーんもない。


 こんなんやってなんの意味があんだよって、ずっと思ってる。

 手ェドロドロにしてさ、徹夜して地べた這いつくばって腰いわしてさ。風呂入ってないし。



 今の資本主義社会ではほんとに役に立たず。

 百円玉のがまだマシ。



 そう頭では分かってても、信じてしまう。


 私が助けてって思ったとき、一番最初に駆けつけてくれた、私にとってのヒーロー。



 しんどいなって思ったときに音楽を聴く。

 もうちょっと頑張ってみるかと思う。


 漫画の主人公が誰かに差し伸べた手に、私も一緒に掬われる。

 今度は私も誰かに手を差し伸べようと思う。


 美しい詩を読む。

 その時の心の動きを残したくて筆を取る。



 亀も昼寝ができるほどの歩みだろうけど。社会が変わる頃には、私は死んでるかもしれないし、生まれ変わってまたふらふら生きてるかもしれない。

 でも確実に変わるものがあると知ってしまった以上、辞められないんです。

 

 


 だから、今日も描く。


 無力と言われる君の可能性を。

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思いつき 滴溜溜 @hirotarou_surii

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