10話

「お疲れ様でした」

 アンコールまでを終え、改めて舞台裏に戻ってきた珊瑚に労いの言葉をかける。

「ありがとう〜!どうだった?」

「最高のステージでした!おふたりともかっこよかったです」

「へへ、やっぱ身近な人に褒められると嬉しいなぁ」

 少し崩れたメイクと汗を拭きながらへにゃっと笑う。スイッチを入れた時やテンションが高い時の笑顔も可愛らしいが、こういう笑みも素敵だ。

「あっつー…。お疲れ様です」

 少し遅れた幸亜が、Tシャツの襟元を掴んでパタパタとしながら来る。アンコールの衣装は手の込んだものというより、シンプルライブTシャツなことが多く身軽そうだった。

「ちょっとこーちゃんセンシティブ!!」

「男性しかいないしいいだろ。早く着替えてこよーぜ」

 そう言って控え室に戻って行った。この後は機材の撤収と片付けをして、仕事は終わりだ。いつもはスタッフさんとメンバーで打ち上げに行くことが多い。

 指示された物を、重いダンボールにも少し慣れてきたなと感じながら運ぶ。

(ライブ、無事に終わって良かった…)

 ダンボールを地面に置き、汗を拭うついでに少ししゃがみこむ。

(灯がどっちに転ぶかわからないけど、それまで…俺、も__)

 突然の目眩に、俺の意識はそこで途絶えた。




「伊織さん?伊織さーん!あ、橋本さん、伊織さん知りませんか?」

 着替えて片付けを手伝っていると、先程まで忙しなく動いていた俺たちのマネージャーの姿が見えないことに気がつく。

 帰ってしまう前に打ち上げの誘いもしたいので、居場所を探しているところだった。

「ん?さっきまでその辺で荷物運んでもらってたんだけど…あれ?なぁ、あの新マネどこ行った?」

 近くにいた別のスタッフさんに尋ねるも知らないと返ってきた。おかしいとは思ったが新人故どこかで誰かに仕事を押し付けられているのかもしれないと思って気にとめなかった。

「あれ、いーちゃんいないの?」

「なんか居ないらしい」

「えー?いーちゃーん!どこー!」

 そう叫ぶ珊瑚の大声は、舞台裏ではよく響いた。関係の無いスタッフさん達が一斉に振り向くのがおかしくて笑っていると、ポケットに入れていたスマホが鳴った。

 画面に表示された宛名を見て、何も考えずにタップした。

 

「…!はい…はい、えっ!はい!」

 珊瑚が不思議そうな顔でふらふらと近づいてきた。

「?」

「さんごぉ…っ!」



 看護師さんからの注意もそこそこに病院の廊下を走る。エレベーターなど待っていられず、火事場の馬鹿力とでも言うように、ライブ直後とは思えない速さで階段を駆け上がった。

 病室の前で上手く止まることができずに転びそうになった珊瑚を支え、ガラガラと大きな音を立てて扉を開ける。

「んぐぁっ…びっくりした」

 そこには珊瑚が前に置いておいた紅茶を飲んでいた灯が目を開けてたしかに居た。

「〜〜っっ!!あぁちゃぁん!!」

「灯!!」


「二人とも。呼び戻してくれてありがとう」


アイドル__それは夢と希望を与える仕事

アイドル__それは業務外でも気を配る仕事

アイドル__それは多くの人に好かれ、嫌われる仕事

しかし、辛くても悲しくても、常に誰かそばにいて支えてくれる人でもある。

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