7話

「はぁ~っ、やっぱ何度目になっても直前は緊張するなぁ」

「わかるけど何曲か歌ったら楽しくなるな、ノってくるっていうか」

「あ~わかる!やっぱみんなの顔見るとほぐれるんだよね」

 自分の作業を進めながら、そんな会話を聞く。

 今日は以前から予定していたライブ当日。開催が決定した当時は三人での開催を予定していたが急遽二人となった。

 メンバーが変わってはセトリや歌詞割り、フォーメーションを改めないといけないため少し申し訳なさを感じる。

 ここはライブ会場の舞台裏で、二人は雑談を挟みながらそろそろスタンバイになる。壁の奥からはライブ開始まで流れ続けるBGMやファンのざわざわとした声が聞こえる。スタッフ同士の指示が飛び交い、慌ただしく動き回る人達が見てるだけで焦りを催す。

 側近のマネージャーとして一言応援の声を送ろうと思い、二人の水を持って小走りで駆け寄る。途中で珊瑚がこちらに気が付き、大きく手を振ると袖に着いた飾りが揺れる。

「お疲れ様です。どうぞ」

「ありがとう~いーちゃんもおつかれ!」

 ペットボトルを渡し、回収するため待っているとスタッフさんの聞きなれた大きな声が聞こえた。

「まもなく開演です!スタンバイお願いしまーす!」

 まだ飲んでいる途中だった珊瑚は慌ててキャップを落としそうになっていた。

「あっやば…」

「そのままでいいですよ」

 幸亜から受け取ったペットボトルは脇に挟み、珊瑚からはキャップが空いたボトルとキャップを両手で受け取った。

「ごめーんありがと!」

「よし、行くか」

「うん!関係者席にもファンサするからいーちゃん見ててね~」

「はい。頑張ってくださいね!」

 手を振り返したかったが塞がっていたため、いつもより大きく声を出して激励した。

 キャップを閉めながら二人の背中を見送る。

(…ライブ中は何も起こるな。なんて、身勝手だな)

 できるだけ早く、今すぐにでも灯の容態が急変することを願っていたが、このライブの時間だけは何にも邪魔されて欲しくない。二人のためにもファンのためにも。

 ペットボトルを置き、小走りで作業場に戻った。黄色い歓声と爆音の音楽を聴きながらではあまり集中できずにミスを連発して怒られてしまった。



「…結局二人開催になっちゃったね」

「あぁ」

 珊瑚を見ると、少し表情が暗かった。それは緊張からだけではないのだろう。

 いつもは三つ並んでいるマイクケースが二つしか無く、改めて二人開催であることをわからされる。

 いつものように小突いたり頭を叩いたりしようと思ったが、衣装やヘアセットが崩れては困ると思いとどまった。代わりに、マイクを持っている両手をちょんと指でつついた。全員でお揃いの、マイクに付いているストラップが揺れる。

「でも、心臓動いてるだろ」

 そう言うと、珊瑚の頬が少し緩んだ。

「そうだね」

「目の前のファンを幸せにすることだけ考えて、最高のライブにするぞ」

「もちろん!任せてよね~っ」

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