第二章 ③ マスカレード(仮面舞踏会)の戦端
皇宮護衛官には通常の警備・
故に、皇族と国民の間に入って壁となる護衛方法は常にできるものではなく、特に
もちろん、
すでに目前まで迫った危機に彼らが気付いていたのかは別として、奉仕団体と両陛下が挨拶を交わすのに側衛官は口を
しかし、側衛官たちは見落としていた。
戦後において一部団体からの強い反発で、いわゆる裏の政府機関を作れない日本は、特定の人物が信用に足る者かどうかをチェックする能力が諸外国に比べて大きく劣る──つまり安全確認は
さらに、少し訓練すれば民間人を相手にしている警察組織の目を
太い
宮内庁職員の指示で奉仕団が半円状に立ち並び、直立不動の姿勢をとって
夢が現実味を
国民に
両陛下が奉仕団に語りかけるため一歩前へ、半円に並んだ集団の中央に進み出る。
奉仕団全員はそれに応じて腰を四十五度に折り、笑顔で頭を上げると同時に、各々の衣服に挿し込んでおいたプラスチック製の毒針を引き抜いた。
「どうもありがとう。今日はご苦労様……」
陛下が口を開いた直後、半円状になった人々が一斉に眼前の二人に
砂浜に打ち寄せた波が海へと引いていく様子を連想させる芸術的ともいえる動きは、彼らが長い期間にわたってこの動作を反復訓練し続けた背景を物語っていた。
誰一人としてお互いの動きの邪魔をせずに二人の人間を
周囲に待機していた護衛隊は、奉仕団体が自らの護衛対象へ
待機している護衛隊は十名。
武道に
だが、それはあくまでも訓練を受けていない素人犯罪者を相手取る場合に限られる。目の前の集団が連携をとり、決して
それでも、側衛官は命を
護衛官は
警察の銃火器は犯人以外にダメージが
両者の手が互いの血で染まり、怒号が飛び交う。
混戦の
他の護衛官も活路を悟り、手を伸ばし、閉じようとする犯人たちの壁を支え、その
掴む相手の腕が千切れるのではないかという心配をしている余裕はない。
取り戻そうと迫る手を残りの戦力で
護衛隊は一言も言葉を発しなかった。
全員が喋る余裕もなく、また喋らずとも何をすべきか解っていた。走り出した護衛官の今の使命は、背中に乗せた
離れた場所に待機していた残りの側衛官部隊が駆け付けた時には、すでに
犯人は制圧した護衛官から奪った拳銃を陛下に突き付けており、手出しができない状態になっていたのだ。
こうしてP226・230拳銃で武装した集団は、陛下を人質にして近くの
しかし、本当の事件はこれからだった。
*
一方、この時はまだ御所にいる
本来ならば、早めに皇居に到着した三人の孫をご
この警衛上の問題を第一に考えた二人の反対意見が、結果的に本事件の結末を左右する大きな鍵となった。
もし、ここで三人の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます