第二章 ② 皇居勤労奉仕団の胎動
「ででで、
「キョドり過ぎ……」
あまりの出来事に呼吸が乱れ、冷たい目を向けられた。
「なっ……」
そこでレイは言葉を一旦止め、周囲に聞こえない程度まで音量を落とす。
「なぜ、ここにいるのですか……ッ!?」
「あら、自宅の庭を散歩しちゃいけないのかしら?」
あなたの自宅は
「護衛班はどこです!?」
「エスケープは近代の天皇家からの伝統で、わたしはその血を受け継いでいるのよ!!」
驚くほどまったく会話になっていないが、取りあえず護衛を
急いで本日の司子のご予定を思い出す。
確か、彼女を含む皇太子御一家全員が皇居に参内し、両陛下と昼食を囲まれるはずだ。時計を確認すると、今は午前十時過ぎ。
「
これなら、今から帰らせれば問題はないだろう。
「ご飯をただ食べるだけの行事じゃないのよ。でも、確かに来るのが早過ぎたわね。お
つまり清仁殿下は
ちなみに皇太子殿下の子は現在四名おり、年齢順にすると長女の
本来なら、司子も御所にいなければならないはずだ。それなのに
道中の各要所で警備に立っている護衛官は、自身の能力で
連絡を入れて他の護衛官に保護してもらおうかと考えた。けれど、今日はボランティアとしてここに来ているだけなので拳銃や無線機を
とはいえ、持ち場を離れるわけにもいかない。結局、司子は
無論、通りかかった
幸いなことに司子も無計画で脱走したわけではなく、きちんと顔を隠すフード付きの
「あの、宮内庁の方。質問しても良いですか?」
宮内庁庁舎前の広場で、またツアー客から声をかけられた。最早いちいち訂正する気も起きず、レイは先を
「あの方たちは、なんですか?」
そう言って彼が
四列で
髪を派手に染めている者などもいて、とても宮中関係者には見えない。されど観光客にしては歩き方が整い過ぎている点が不自然に思える、と彼は言いたいのだ。
レイは笑顔で答えた。
「あれはボランティアの方々なんですよ、
宮内庁のウェブサイトから応募すれば誰でも皇居内に入れるが、当然に遊びではなく清掃活動目的なので、歩き方や所作を宮内庁から指導されたうえで行われる。
若者たちの歩調が合っているのはそのためだ。
「へー、
この勤労奉仕、元は第二次大戦で
「若い方にも皇室への関心が高まっているのでしょう。ありがたいことです」
ただ、この皇居勤労奉仕は参加すると、ある特典が宮内庁より与えられる。その特典の中には、天皇皇后両陛下または皇族方にお会いできるという金銭では手にできない体験があるのだ。
これは文字通り、両陛下がわざわざ奉仕団体の前に自ら姿を見せて感謝の言葉を交わす行為で、「ご
参加団体が後を絶たない理由の一つである。
四列縦隊で十六行の人々が後に続いていくので、本日の勤労奉仕は総勢六十四名が参加だ。
レイは
後から聞いた話だが、これが事件の始まりだった。
いつも通り両陛下が奉仕団の方々に
次の瞬間。
────六十四名のテロリストは一斉に襲いかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます