第1話 ここはゲームの世界?

俺は「オルディナ学園入学案内」と書かれた書類を見て大きくため息をついた。

この学園は十五歳から十八歳の貴族子息が通う学園だ。なんと王命で、貴族子息は全員もれなく通うことが決まっている。この世界はガチガチの封建制度だ。王命なんて言われたら誰も逆らえない。

学力向上や、貴族同士の交流目的だと言われているが胡散臭さ満点だ。でも、そこはどうでもいい。大事なのは別だ。


事故の時、前世を思い出してからこの世界にはちょくちょく違和感があった。生活様式は産業革命前の西欧風くらいなのに。建物は木造、漆喰で窓にはガラスがはまっている。トイレは水洗。風呂はシャワー付きで、街には上下水道完備。魔法が使えるからか。ケガは教会にバカ高い寄付をすれば治癒してもらえるが、病気は薬で治す。そのせいか、腕が吹っ飛ぶケガより、人は風邪で死ぬ。十五歳以下の生存率は六割と低い。


そう、重箱の隅っこがおおざっぱなのだ。


それに使用人も家令のファサム。侍従のセドリック。料理長のアランと、庭師のスコットおじさん。剣の師匠のロバート。あれ? なんか男率高くない? って思ってたんだ。


「オルディナ学園ってこれ『ミュゼと四人の貴公子たち』のBLゲームの世界だ」


前世で俺がプロモーションを担当した家庭用ゲーム機のBL恋愛ゲーム。

冒険・生産・錬成を軸に攻略対象と関係を深めていく内容で、男しかいない世界。立ち絵のレベルが高く、女子の心をがっちりつかんだおかげで、そこそこ売れたと思う。

俺も売り出すためゲームを進めてみたが、世界観はゆるふわなのに攻略のためのタスクが多くかなりやりごたえがあった。恋愛ゲームの皮をかぶった、雑学生産系ゲームと言ってもいい。だが、そこそこしか売れなかった原因はそこにある。とにかく恋愛どころではないタスクが多いのだ。まあ、グッズはゲームよりも売れたので仕事としては成功だった。


……いや、待てよ。コンラートって、文武両道・好青年・辺境伯という高い地位。条件揃いすぎてんじゃん。攻略される未来しか見えないんだけど? 続編はなかったはずだが。


俺は机に肘をついて考え込んだ。不確定要素は排除に限るな……。

「よし、オルディナ学園をつぶすか」

「どうしたの急に」

ソファで書類を読んでいたコンラートがあきれたような声を上げる。

「だってあそこは学業をほっぽって恋愛に走る、脳みそお花畑のサルの巣窟ですからね」

「辛らつだね。大丈夫だよ。私は学園で必要な知識を学んで、ノクタビアのためになる縁を結べたらなって思ってる。だからサルにはならないよ?」

コンラートは困ったように微笑んだ。

「兄上は大丈夫ですよ、でも周りが心配なんです」

コンラートが攻略対象者じゃないなら、恋愛ゲームには巻き込まれない?

いや、サルどもが見逃すはずがない。うーん……。


「やっぱり、オルディナつぶした方が」

「心配性だな、ルシウスは……。ありがとうね」

コンラートは楽しそうに微笑んだ。


ただ、まだゲームの世界ってことが分かっているだけで、ゲームが始まるのか、終わっているのかさえ分からない。潰すのはそれが分かってからでいいんじゃないか。

となれば現実的な問題を解決する必要がある。差し当たって通うことが確定なら、コンラートがバカにされないよう、貧乏辺境伯家の財収を増やさなければならない。最高の学園生活は資本力で決まる……たぶん。


それに、ここが『ミュゼ四』の世界なら、分かる部分もある。


「よし、まずは領内を散策しよう」

「また悪い顔をしているよ、ルシウス」

「ええ、兄上。とてもいい財源を思いついたのです」

「ルシウスがいてくれて心強いよ。でも無茶はしないでね」

コンラートが優しい笑みを浮かべて俺の手を取った。

ああ、一生推せる。俺は満面の笑みでうなずいた。



我がノクタビア辺境伯領は三つの地方に分かれており、それぞれが異なる役割を担っている。

最南端に位置するノクタビア地方は、国境監視と、魔獣討伐の最前線として知られ、軍事をつかさどる。中央のバルク地方は、肥沃な大地を活かした農業地帯であり、領内のみならず国内の食糧供給を担っている。そして、北部のエルド地方は、ノクタビア地方の物流の要。商人と旅人が行き交うノクタビア領の玄関と呼ばれている。


ノクタビア領全体はコンラートが治め ノクタビア地方は俺と、家令のファサム。バルク地方はティーン伯爵。エルド地方はレクル伯爵が治めている。この世界では伯爵はいわゆる県知事みたいなもの。子爵や、男爵が大きな町の町長みたいなものだと思って良い。


ただ、こうして住み分けているせいかノクタビア地方は軍事ばかりで作物がないと思われている。実際、この地方の半分以上を魔獣の出るノクタルの森が覆っている。だが、『ミュゼ四』では森こそが宝の宝庫だった。


ノクタルの森は攻略難易度はA B C段階の一番難しいAだったが、いろいろなものが採取でき、魔獣討伐も行えばドロップアイテムも拾えてお金儲けにもってこいだった。ちなみに、古代遺跡がB ダンジョンはAからCまであった。


「よし、ノクタビアに特産品を作ろう」


森で採取できるものには薬草類のほか、採掘すれば鉱石もあり。春のイベントに欠かせないカカオとか。俺の好きなコーヒーなんかもあったはず、あるなら飲みたい。できればサトウキビを確保したいな。砂糖は錬成パートにあった。攻略アイテムとしても、換金アイテムとしても有用だった。砂糖はショップで買うとかなり高く、春のイベントにあるお菓子作りの時に確保が大変だった。


あれ? これって知識無双できてるんじゃないか? なんか転生っぽくなってきた。


「また眉間にしわが寄ってるよ、無茶しないでね」

コンラートは俺の顔をのぞき込むと、鼻を指でツンとつついて笑った。

「無茶はしません!無理はします!」

俺は良い笑顔で答えた。

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