第2話 魔法は気持ちの問題

コンラートと離れて、屋外に出てきた。

マップを広げてサトウキビ畑を作れそうな場所に目星をつける。そして、これから本格的に生産と採取をするのだが。その前に、今の俺に何ができるのか確認したい。


ゲーム通りなら、ここにステータス画面が出て、今はレベル〇〇です。なんて、数値で分かるのに、残念ながらここにはそんな仕組みはないみたいだ。


とりあえず、剣術は毎日コンラートと鍛錬しているが、伸びる芽はなさそうだ。せっかく剣と魔法の世界なのに……ならば魔法だ。

確か、魔法は五属性 火 風 水 土 光 だ。光魔法は特別なので一般的には四属性か。

とりあえず一つずつ試してみる。


「ファイヤー!」あ、出た。

「ウィンドウ!」おお、つむじ風。

「ウォーター!」ウォシュレットくらい。

「ストーン!」おお、砂利かな。


って、これとてつもなく恥ずかしい。なんで英語?いや、英語って概念あるのか……。

ここに単語をつけて行けば、攻撃魔法。例えば、ファイヤーボールとか、ウォーターショットとか。になるんだろう……なるんだ。成人した俺の精神がダメージを受けている。


やっぱ、光魔法と言えば「ヒール」かな。

うわぁ、できちゃった。光魔法が使えてしまった。

これで俺は五属性持ちが確定した。これも転生チートだろうか。


だが待てよ。

確かこのミュゼ四の主人公は服屋の次男で元平民。人助けで光魔法が発露したことがきっかけで、教会へ引き取られ。その後、教会の熱心な信者である男爵家へと養子に入り、そして、オルディナ学園に入学するって話だった。

光魔法が使えると教会が介入してくるかもしれない。俺は辺境伯家の次男だが、俺をとっかかりに辺境伯家に教会が介入してくるのは面倒だ。



「おお。ルー坊。一人で何やってんだ?」

声をかけてきたのは料理人のアランだ。


俺が立ったり座ったり、ぐるぐるしているのを頭がおかしくなったんじゃないかと心配になったらしい。

「私も思春期なのでいろいろ思うところがあるんですよ」

それっぽい、言い訳をしてみた。

「はっはっはー! なるほどなー。まあ、ほどほどにな!」

豪快に笑うと、俺の頭を撫でる。本来なら領主家の子息にこんな態度をとれば処罰されそうだが、料理人は騎士と同じ扱いで、料理人の持つレシピはいわゆる特許扱いだ。貴族が茶会を開いた時、どれだけの品数を並べられるかがステータスになるように。どれだけたくさんのレシピを持っているかで料理人の価値が決まる。

アランは元軍人だが、料理を本職としてきた人たちと肩を並べるほどのレシピを持ち、腕もある。ゆえに俺みたいな貴族家次男の肩書よりもよっぽど偉い。


だが、アランが気安いのは見下しているわけではなく。ただ単にルシウスがかわいいからだ。俺、かわいい。


「ルー坊がここで変なことしてると、スコットが心配するから気をつけろよ」

言われて振り返ると、麦わら帽子をかぶった庭師のスコットがこちらをうかがっていた。俺が元気よく笑顔で手を振ると、安心したように小さく手を振って作業に戻っていった。


「アラン。ありがとう」

「どういたしまして、じゃあな」


アランは庭を突っ切って、寝泊まりしている寮に帰っていった。この辺境伯領は魔獣の脅威にさらされているせいか。俺たち領主が住む主館を中心に使用人や、アランたちが住む寮。騎士団が練習する鍛錬場と魔法具の錬成場。騎士たち約二百人分とその家族が寝泊まりする集落。その家族たちが買い物ができる商店や、食堂などもあってすべてがこの壁に囲まれた敷地の中で賄える。

いわゆる城塞都市のような作りだ。逆に外から見ると少し排他的らしい。


この世界で一番の財産は人材といえる。魔法があるせいか医療があまり発達していない。おかげで病気は怖いものだ。逆に光魔法は腕のいい外科医のようなもので重宝され、多額の寄付が集まる。それを考えれば、希少な光魔法持ちを囲いたい教会の意図は分かる。

つくづく、光魔法を知られるのは厄介だな。見つかれば教会が囲い込もうとしてくるかもしれない。兄上と離されるなんて、絶対いやだ! よし、内緒にしよう。


決意も新たにこぶしを握って振り上げた。

「よーしがんばろーっと。痛っ」

近くの花壇に手をこすってしまった。見ると手の甲に血が滲んでいた。


血の色は前世と同じ赤。アランもスコットもゲームには名前どころか登場すらしないがちゃんと生きている。ケガをすれば痛いし。走れば疲れるし。うれしかったり、楽しかったりは誰かに強制されて浮かぶ感情ではない。


ゲームだと気づいても、何の実感もない。

手を擦りながら、「痛いの痛いの飛んでけー」とやったらケガが治った。

あれえええ? 呪文関係なく使えちゃった。魔法って気持ちの問題なの?

人前では絶対にしないようにしよう。

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