第13話 ユース練習参加
合宿から三日後の朝。
俺は緊張で汗ばんだ手を握りしめながら、
○○市ユースの練習場に立っていた。
見渡す限り、人工芝の広いフィールド。
最新設備が並び、スタッフが複数で動いている。
(……これが“本物の育成環境”か)
中学の土グラウンドとは、何もかもが違った。
「蓮くん、来たね」
榊原コーチが歩み寄ってくる。
「今日のテーマは“体験”だ。
無理はしなくていい。
ただ、ここがどんな場所か見てほしい」
「はい」
深呼吸して答える。
(逃げない。
今日だけは、自分の現在地を知るんだ)
「おい、新入りか?」「今日の体験のやつ?」
ユースの選手たちが集まってくる。
全員が中学生とは思えない体格、
鋭い目をしていた。
「蓮くん、挨拶を」
「蓮です。今日はよろしくお願いします」
すると一人の選手が前に出た。
髪を短く刈り、引き締まった体つき。
見るからに“強者”だった。
「俺は桐生。一応、このユースのエースだ」
淡々としているが、
隠しきれない“自信”がにじんでいた。
「君が噂の……中学で無双したFWか。
一応言っとくけど――ここは遊びじゃないぞ」
周囲にも笑いが走る。
「桐生に挑むのか?」「初日に潰されるかもな」
「まあ、頑張れよ。ユースは甘くねぇ」
俺は微笑んで言った。
「本気、見せてもらいます」
桐生の目がわずかに細くなった。
(この人……本物の怪物だ)
練習が始まった。
最初は基礎ドリル。
だが――
(速い……!)
パススピード。
トラップの質。
判断の速さ。
何を取っても、中学レベルじゃなかった。
「蓮! 次! 判断遅いとボール失うぞ!」
「受けたら縦だろ! なんで横に逃げる!」
「加速のタイミング合わせろ!」
ユース特有の“圧”が四方八方から飛んでくる。
(ここでは“普通”が通用しない)
でも――
なぜかワクワクしていた。
(強い……
だけど、このレベルならやり合える)
未来で見てきた、
“本当に強い選手”たちの動きと重なる部分があった。
「よし、実戦だ。
桐生、お前と蓮をマッチアップさせる」
榊原コーチの言葉に、
空気が一気に緊張した。
「おいおい、いきなりかよ」
「蓮くん死ぬぞ……?」
桐生がニヤリと笑う。
「遠慮はしないぞ?」
「僕もです」
ホイッスルが鳴る。
桐生がドリブルで迫ってくる。
スピード、キレ、重心の低さ――全てが洗練されていた。
(速い……でも読める)
未来で死ぬほど対戦したタイプだ。
桐生の重心がわずかに左へ寄った瞬間、
俺は一歩だけ右へ踏み込む。
「……っ!?」
桐生の目が驚いた。
次の瞬間、
俺はボールを奪い取って逆方向へ走り出していた。
「蓮抜いたぞ!?」「桐生から!?」「嘘だろ……!」
練習場がざわつく。
(まだまだ……本気出すのはこれからだ)
俺はそのまま加速。
桐生も追ってくる。
「調子乗んなよ……っ!」
背後から迫る気配に合わせて、
俺はふっとスピードを落とす。
桐生が前のめりになる。
「っ……!!」
(0.3秒の“空白”)
そこを突き、再加速でゴールへ向かう。
シュート。
ネットが揺れる。
「決まった……」
「桐生相手に……中学のFWが……?」
「マジで天才じゃん……」
ざわめきが広がる。
桐生は悔しそうに拳を握り――
しかし、すぐに笑った。
「……本当にすげぇな、お前」
汗だくの顔に、確かな敬意が滲んでいた。
「でも次は止めてみせる。
俺のプライドのためにもな」
「楽しみにしてます」
その会話すら楽しかった。
(このレベル……
間違いなく“未来のプロ候補”だ)
だが同時に――
(俺も……ここでならもっと強くなれる)
そんな確信もあった。
練習が終わり、
榊原コーチが俺に近づいてくる。
「蓮くん。
正直、ここまでとは思わなかったよ」
「ありがとうございます」
「今日だけで分かった。
君は“こっち側の人間”だ」
胸が締め付けられる。
(もっとやりたい……
このレベルで練習したい……)
でも――
仲間たちとの夏合宿が頭をよぎる。
「蓮君。
結論を急がなくていい。
でもひとつだけ伝えておく」
榊原コーチの目が鋭くなる。
「君がここに来れば、確実に全国に行ける。
いや、それ以上の景色も見える」
喉が渇くほどの言葉だった。
「よく考えてくれ。
この道を選ぶ資格は、間違いなく君にある」
足がふらつきそうになる。
(どうすれば……
俺はどっちに行けばいい?)
練習場の夕陽が、
まるで選択を迫るように赤く染まっていた
______________________________
▶ 次回予告
第14話『揺れる心──仲間の想いと蓮の答え』
ユースで“別次元の刺激”を受けた蓮。
しかし学校に戻った彼を待っていたのは、
仲間たちの想いと、圭太の“ある決意”だった
プロで挫折した俺、逆行したら中学最強ストライカーになっていた 兎龍月夜 @choko12
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