第2話 平穏を望んで転生。だけど……
瞬間的に目を逸らした自分自身を褒めたい。
いや、だって、目線だけモザイクだし……黒塗りじゃないからセーフとか言われても信じられないし、俺からしてみればどっちも不審者だし。
とにかく、他人のフリをしながら様子を探ったほうがいいだろう。
そうして周囲を見渡せば、ここがどこかおかしい事に気づく。
「夢?」
ただ、夢にしては少しおかしい。
周囲全部がインクが滲んだようになっていて、それでいて色が全体的に暗かった。黒や青、赤が混ざり合っていて混沌としているのは、夢にしては縁起が悪い。
それに全体的にドス黒い感じなのに、この空間自体は明るいのも異常に思える。
「夢ではありませんよ」
不審者が喋った。
やっぱり危ない人なのだろう。なら、刺激をしないようゆっくり離れた方がいいかもしれない。
「こちらを向いてくれますか?」
ゆっくり……ゆっくり……。
「ええっと」
ゆっくり……ゆっくり……ゆっくり……。
「ちょっと聞いてます? ねぇ! おーい!」
ゆっくり……ゆっくり……ゆっくり…………。
……今だ!
「話を聞けよこの野郎!」
「ぶっ」
顔面に衝撃。
その勢いまま吹き飛ばされて、俺はグルグルと転がった。
ただ、痛くは……ない。
思わず顔を上げて、女性の方を見てしまう。
「ようやく話を聞く気になりましたか?」
「ええっと……」
「聞く気になりましたよね? なったと言いなさい? ほら!」
ズイッと、ドアップになる女性の顔。
顔立ちは整っているはずだし、着ている白いドレスも綺麗だ。
なのに、せっかくの目がモザイクで隠れてしまっているため目の保養にならないし、少し怖い。
「聞く気になったと思って話します。まず、貴方は死にました。それを理解して下さい」
「はあ」
「なんですかその反応は? 普通は取り乱したりするものです。そうした時の制圧方法も考えていたのに!」
なんでこの人は何かと物騒なんだろう?
制圧なんて穏やかじゃない。とりあえずその不審者丸出しのモザイクを消してくれれば――
「ああ、これは貴方の魂を消滅させないためです。これでも神様なので」
「あ、はい」
理由があったらしい。
ひとまずは話を聞くべきだろうか? と少し悩んでいると、彼女はいつの間に取り出したのか、ペラペラと本をめくっていて。
「あら、二十八にもなって恋人の一人も出来なかったと。なるほど、地味な人生でしたねぇ」
ずいぶん嫌味な神様だ。
そう思った瞬間ギロリと睨まれて、彼女は本を閉じた。
「まあ、貴方の人生なんてどうでもいいんです。今回貴方を呼んだのは、貴方の地味ぃな魂に用があったからです」
「なら、その本は読まなくていいんじゃ……」
「貴方のような魂は、世界を安定させる作用があるんですよ。ですので貴方には転生者として別の世界で生きて貰います。差し当たっては、こちら側の都合ですので貴方に選択肢を与えるというわけです」
俺の意見を無視して言い切った自称神様は、ビシリと本を俺に向けて言い切った。
「どのような存在に生まれ変わりたいですか? ゲームのように勇者や魔王というのは無理ですが、平凡な魂に見合った存在には生まれ変わらせてあげますよ!」
ええっと……。
いきなり転生とか言われても困るんですけど……。
仮に彼女の言うことが本当だとしても、正直生まれ変わりたいかと聞かれれば首を傾げてしまうわけで。
確かに後悔は沢山あるけれど、未練があるわけではないのだ。
実際、生まれ変わったとしても俺の地味な人生の延長でしかないと断言されてるんだから、希望もない。
かといって、転生とやらは決定事項のようだし……。
……ああ、そうだ。
昔名前でイジられていた事があった。もうそれでいいや……。
「それじゃあ、壁の染みにでもして下さい」
「……は?」
「天井の染みでもいいです。誰にも干渉されないで、ただ静かに生きていければいいんで」
地味な俺は、そんな余生を過ごせればいいんです。
だから、そんな可哀想なモノを見る目で見ないでくれるとありがたいんですけど……。
なんとも言えない空気の中待っていると、自称神様がため息をこぼした。
「まあ、貴方の人生ですからね。分かりました。ただ、あ後から嫌だったと言われても聞き入れないのであしからず」
「大丈夫です」
「では、貴方の来世に幸多からんことを」
そう彼女が言うと、俺の体がどんどん薄くなっていった。
それはまるでこの世界に溶け込んでいっているようで、意識も朧気になっていく。
「――これで安定してくれると良いですけど」
そんな呟きを最後に、俺の意識は沈みきった。
意識が戻る。
ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとしてきて、自分の状況がなんとなく分かるようになってきた。
……確かに、壁の染みになっているらしい。
染みの色が真っ赤なのは気になるけど、時間が経てば慣れるだろう。
ただ、まだ実感が湧ききらないのか、どこかフワフワとした感覚もあった。ただそれも時間が解決してくれるだろう。
そう決めつけ、とりあえず周囲に意識を向けてみると――
「死ねぇ!」
「そうはいかない! 俺にはこの国の未来がかかってるんだぁ!」
炎の竜巻が巻き起こり、雷が四方八方に跋扈していた。
そんな嵐の中には鎧をまとった少年が神々しい剣を振るい、浅黒い肌の大男が光の槍で受け止めている。
……俺の静かなセカンドライフは?
……ここは地獄?
動けないし、喋れもしない。
まあ、壁の染みになったんだから当たり前なのかもしれない。でもそういえば、なんで景色は見えてるんだろう?
あ、いや、これは見えてるわけでは無さそうだ。感覚的なものだけれど、見えてるというより感じているというのが正確なのかもしれない。
当然動けないのだから逃げれもしないわけで……。
「これで、終わりだぁぁぁ!」
「舐めるなぁぁぁぁ!」
若干現実逃避のために自分の状態を確認していると、二人の気迫の籠もった声が聞こえてきた。
「がふっ!」
「ぐふっ!」
お互いがお互いを貫いていた。
剣は大男の喉に刺さり、光の槍は少年の心臓付近に刺さっている。
やがてもたれるように二人は俺の方に倒れてきた。血が流れ、俺の足元(足無いけど)に血溜まりがぁぁぁっ!?
なにこれ?
熱い!
全身が焼けるみたいだ! 体ないけど!
血液が沸騰して全身に駆け巡っているような感覚。
ドクンドクン! という音がどんどんと大きくなって、それ以外の音は聞こえない。
――プツン!
そんな音が聞こえた気がして、俺は意識を失った。
――それからどのくらい気を失っていたのだろう。
「何故壁から魔王様の魔力を感じるのだ!」
「勇者の力も感じるぞ!」
「魔王様のご遺体から力を感じない。これでは復活が……」
「いや、御力は感じるのだ。まずはこの壁を調べるのが最優先だろう」
ぞろぞろ、わらわらと。
色々な肌色をした人? が俺をみていた。
魔王と言っていたのだから魔族とかいうやつだろうか? 時間が無くて見たことはなかったけど、そんなアニメの話を聞いた事がある。
角が生えてたりもして、明らかに人間ではないのが分かるので暫定魔族でいいだろう。
まあ、とにかくだ……。
どうしよう、これ?
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