大器晩成だった俺の強くてリスタート ~人生2周目は名門校に入学したら男女比がおかしいし、なぜか才女たちに懐かれるんだが……!?~
ムロトキ
第1話 点滅
俺の名前は
でも最初からエリートだったわけじゃない。この地位になるまでにも険しい道を歩んだ。
なにしろ昔の俺は、あらゆる才能が無かった。どれだけ努力しても、平均以上の人間になれず、周囲からは馬鹿にされていた。
それが、大学で色んな才能が開花してから一変した。
インカレの学生トライアスリート全国大会では準優勝し、学会では表彰され、スタイリストのアルバイトをしていたら女優の担当になって、ちょっとSNSで有名になったりもした。
優秀な俺は奨学生にも選ばれ、そのまま九重グループへと就職した。
その後も、俺は社内政治に巻き込まれ道のりは長かったが、生き残ったのは俺だ。
結果として、成功者へと至ったのだ。
「成功者の見る景色が……これか」
都心で最も高いビルの最上階から見下ろす。
今ここに立っているのは、俺一人だけ。この一室も貸し切りだった。
若かりし頃であればこの立場に優越感を抱いただろうけど、俺の心情に残されたのは一抹の寂しさだった。
「そうか……今日はクリスマス・イブ……聖夜だったな」
視力の良い俺の目が、複数人のカップルの姿を捉える。
街のXRイルミネーションを眺める彼らの表情までは見えないが、幸せそうな雰囲気はわかる。
対して、俺は一人ぼっちだった。
「まるで俺の生き様のようだ」
優秀だった俺が、この年まで執行役員の地位へ出世できなかった理由の一つがそれだ。
大手グループ企業の幹部クラスが、結婚もしていないなんて、印象が悪かった。
もちろんモテなかったわけじゃない。
むしろ才能が開花してからは、本当にモテた。
有名なアイドルやモデル、九重グループのご令嬢までもが、俺を口説いてきた。
でも、俺は誰とも付き合うことすらなかった。
『――あたしの……最初で最後の友達になってくれませんか?』
高校時代、偶然にも出会った不思議な少女のことが忘れられない。
まるで、すぐにでも風に吹かれて消えてしまいそうな、神秘的な少女。
たった一度出会っただけ、たった一度会話しただけ。
ただ知っているのは「
帝門学園は、未来のエリートを輩出する。
だから……いつか出世したら、彼女と再会できる日が来るかもしれない……そう信じて、必死だった。
だけど、再会の日はついに訪れなかった。
上流階級の繋がりを通して探しても、彼女が何者だったのか知る人はおらず、俺は30年以上も初恋を引きずったわけだ。
死ぬまで、この虚しさは拭えないだろう。
いつからか覚醒した高い記憶力が、鮮明に脳へ記録した思い出だから。
完治したはずの神経病が再発するかのように、手が震える。
この初恋が実ることは無いのだと、もうわかっていた。
「今さら、
更紗とは、俺に言い寄ってきた九重グループの令嬢の名前だ。
初恋が叶わないなら、別の誰かに寄り添ってみるのも、いいかもしれない。
「それも、ありだな。遅すぎるかもしれないが」
今から子供を作るのは難しいかもしれないが、残りの余生と共に過ごすくらいできると思った。それも、こんなクズをまだ想ってくれている場合に限るが。
「…………」
何もかもが遅いことに力が抜けて、虚ろな目で光景を眺めた。
XRイルミネーションが放つ赤い光が、点滅しながら膨張する。
聖夜のために用意されたライトショーだろう。
高台から見下ろすそれは、まるで地上絵で描く花火のようだった。
――ツーンッ!!
そんな時、視界が真っ暗になった。
消えたのは部屋の電気だけじゃない。見下ろしていたはずの都市も、星空も、何も見えない。
空っぽだった心に、恐怖が注がれてすぐ、世界は明かりを取り戻した。
……はずだった。
「…………え?」
光を取り戻したら、目の前は横断歩道だった。
赤信号がちょうど青信号に切り替わる光景が、目の間にあった。。
「おわっ……ったたた……は……?」
本能的に歩こうとして、俺はその場に倒れる。身体が思うように動かなかったのだ。
転んだ痛みを感じながら立ち上がろうとして、自分の足が短いことや、体重が軽いことに気付く。
夢ではなく、それが現実の感覚であることに、驚愕した。
空は雲ひとつない青空。
どうやら俺は
――青春の時代に。
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