第7話 戦士の休息

10連勝という前例のない快進撃を遂げたオーシャンアローズ。

だが後半戦への準備期間として与えられたのは、わずか 5日間の短い休息 だった。


選手たちは本能的に感じていた。

「ここで心身を整えるかどうかが、後半戦の鍵になる」と。


◆1日目:リラックスするようで、どこか落ち着かない休日

美波は久しぶりに地元の海へと足を運んでいた。

潮風を受けながら砂浜に座り、深く息を吸う。


「10連勝…できちゃったなぁ」


口にすると少しだけ実感が湧く。

しかし同時に、気が抜けそうになる自分が怖かった。


ポケットのスマホが震える。

画面には、スカーレットからの短いメッセージ。


『散歩してる?海の匂いが恋しい。』


笑ってしまう。彼女は相変わらず、美波の行動をよく分かっている。


◆チームは個々の過ごし方でリフレッシュ

・松井梨花(キャプテン)

 家で戦術ノートを開きながら、寝落ちするまで研究。

 「後半はもっと対策される…こっちも進化しないとね」

・上野彩佳

 美容院に行って髪を整えながら、

 「テレビで自分のチームの特集が流れる日が来るとか…夢みたい」と照れ笑い。

・佐藤愛美

 地元の子どもクラブでバスケ指導。

 子どもに囲まれ、いつも以上に声が明るい。

・吉田理子

 ガチで山登り。帰還後は全身筋肉痛だが満足そう。

・中野芽衣

 カフェ巡り。SNSに写真を雑に上げてフォロワーにツッコまれる。

・前田美里

 ひたすら読書。ミステリー小説の犯人を当てられず悔しがる。

・大澤紗英

 シューティング練習を軽くやり、あとは家でゲーム三昧。

・坂田佳乃

 料理の研究。チーム全員を太らせる危険性がある。


◆スカーレットと美波、海での会話

休養2日目、スカーレットが美波に会いに来た。

白いワンピースで現れるその姿に、美波は思わず口を開ける。


「そんな服着るんだ…」

「オフの日くらい、ね。あなたもリラックスしなさい」


2人は並んで防波堤を歩く。

「美波、後半戦はもっときつくなるよ。相手はあなたたちの戦術を全部見てる」

「うん…分かってる。でも、大丈夫だよ。だって、あなたがいるもの」


照れた様子のスカーレットが、そっぽを向きながら言う。

「……あなたの方がずっとすごい。私はあなたを守るだけ。」

「え、守る?私の方が背、低いのに」

「関係ない。」


短い沈黙。

海の音だけが2人の間に流れる。


やがて美波が笑って言う。


「じゃあさ、後半戦も一緒に頑張ろ。私、負けるの嫌いだから!」

スカーレットは小さく頷いた。

「Of course. I fight with you.(もちろん。あなたと戦う)」

その言葉が、美波の胸の奥に静かに火を灯す。


◆休養最終日:古川コーチのミーティング

最終日、チームは集合して短いミーティングを行う。

古川コーチの表情は穏やかだが、目だけが鋭く光っていた。

「10連勝、よくやった。でも――“ここからが本番”だよ。」

ホワイトボードには太い文字で書かれていた。


『後半戦は全チームが本気で対策してくる』

「後半戦を勝ち続けるのは難しい。“勝ち続けてしまったチーム”ほど研究される。

 だからこそ、一人ひとりが新しい武器を増やしなさい」


梨花が手を挙げる。

「私たちならできるよね?」

美波が応じる。

「うん。だって――まだ誰も限界まで出してないし」

控え組も頷き、スカーレットは静かに拳を握った。

古川コーチは満足そうに微笑む。


「よし。じゃあ明日から、後半戦へ向けて再始動するよ。」


◆そして――後半戦へ

休養は終わった。

選手たちはそれぞれ少しだけ強く、少しだけ逞しくなり再び体育館へ戻って来た。


オーシャンアローズはまだ無敗。プレッシャーは一気に高まる。

だがチームは――確かに一枚の円になっていた。


美波は最初の練習の前に深呼吸し、心の中でつぶやく。

「後半戦…全部勝つつもりで行こう。」


その目はもう、前だけを向いていた。

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