#30

 貸し宿は朝からとても美味しそうな匂いで充満していた。


「お、ハヤト! 気合入ってるね」

「今日は大事な日だからね。ほら、リク君も食べて」

「じゃあお先にいただきます」


 食卓では既にマユが朝ご飯を食べていた。

 恐らく他のメンバーはまだ寝ているのだろう。


「なあマユ」

「な、なんですか……?」

「今日は恐らく厳しい戦いになる」

「それは分かってます」

「だから攻撃魔術は俺に任せてくれ。マユは回復に集中して欲しい」

「確かに、必要な時に魔力が枯れてしまっていたら危険だね」

「俺から伝えたいことは以上だな」


 そう言って俺はハヤトの作ってくれた美味しい朝ご飯を味わいながら食べた。

 嗚呼、本当にハヤトの作ってくれた飯は美味いな。


「あの、リク君!」

「なんだ?」


 俺が食べ終り、中庭に向かおうとするとマユに呼び止められた。

 始めてマユから話しかけられたので俺は少しだけ不思議に思う。


「その無理はしないでくださいね。リク君はリンちゃんをかなり大切に思っていたようなので……」


 なんだそう言う事か。

 ふむふむ、他人から見たら俺はそう見られていたのか。


「大丈夫だよ。死なない程度に、無理するだけだからさ」


 マユはまだ何か言いたげな表情をしていた。

 だけどマユはもう俺に何か言うのを諦めたようだった。

 さて、切り替えて俺は朝の準備運動を始めようか。


 ▽▽▽▽


 グランザ平原の中央部に近づくのは初めてだった。

 中央部には多くのホブゴブリンが生息していて、魔脈に近づこうとすると問答無用で襲われる。

 そしてその魔脈に例の悪魔が生息していた。


「僕達はこのホブゴブリンの集団を抜けないといけない」


 平原にある廃墟。

 普段は休憩所として使う場所で俺達は作戦会議をしていた。

 議題はどうやって魔脈まで到達するかと言う内容だ。


「確認した限りホブゴブリンは北側に多そうだ」

「リクの言ってることが正しいと仮定するなら南側から回り込みたいね。だけどゴブリンもバカじゃない、僕達の存在に気付かれたら南に数が増える可能性もある」


 そう、そこが厄介なのだ。

 ゴブリンはそこら辺の魔獣と違ってそれなりの知識と知恵がある。

 だから長く生きているホブゴブリンは明らかな賢さが見受けられる。


「ならいっその事最短距離で突っ込みませんか?」


 シオリがそう言った。

 確かにこそこそ動いて見つかるよりは最短距離で魔脈に入り、即平原の悪魔と戦闘ってのも悪くはないのかもしれない。


「それは却下よ。魔脈に大量のゴブリンがやってきて前後を悪魔とゴブリンに塞がれる危険があるわ」

「えへへ、ダメですか」


 シオリの案はアイザに却下された。

 確かに前後を塞がれると逃げるのも難しくなるし、後衛が危険に晒されてしまう・


「となるとやはりある程度ゴブリンを片付けてから挑む必要があるか」

「魔術で大きな音を立ててゴブリンをそこに誘導するってのはどうだ?」


 ゴブリンは目が悪い代わりに耳がいい。

 だから爆発音か何かでゴブリンの気を引けると思ったのだ。


「それは……結構アリかもしれないわね」

「うん僕もナイスアイディアだと思う」


 シュンは地図のある地点を指差して、言葉を続けた。


「ここに遠くから魔術を当てれば音が反響して平原中に響くと思う。ゴブリンが集まったのを確認したら僕達は魔脈に向かって直行だ。そして平原の悪魔と短期決戦するってのが理想かな。みんなどう思う?」


 シュンの作戦に反対する人はいなかった。

 早速俺達は行動を開始する。

 パーティの中は緊張感が支配していた。

 地図と現在地を合わせながら目標ポイントまで移動した俺達は平原の東側にある大きな岩に向かって魔術を放った。

 使った魔術はアイザの使う経典魔術だ。

 派手さ、そして威力の両方がこの作戦に合っているので採用した。


「沢山のゴブリンが岩に向かって進んでる!」


 双眼鏡越しに俺はゴブリンの多くが移動を始めたのを確認した。


「よし、じゃあ作戦開始だよ。平原の悪魔との戦闘は事前に打ち合わせた通りに進めよう」

「「「「「うん」」」」」


 そうして俺達はゴブリンとの戦闘を極力回避して魔脈までやってきた。

 魔脈は近くで見れば見るほど不気味な光り方をしていて自然と恐怖心が湧いてくる。

 でも、そんな恐怖心俺には要らない。

 あるのは復讐に燃える心。

 あの時のどうしようも無い気持ちを今、燃やすんだ。


「ここが踏ん張りどころだ。みんなやるぞ!」


 シュンの言葉と同時に俺達は魔脈と言う名の洞窟に走り込んでいった。

 中は紫色に光る水晶が壁全体で光っていて松明が無くても充分な明るさだった。

 俺達は事前に用意していた松明の明かりを消して奥へと進んで行った。


 ポチャと水の滴る音が洞窟全体に響いているだけで魔物の類が一切いない。

 俺達はその不自然さに警戒度を高めていく。

 進めば進むほど道は狭くなり、道の横には落とし穴のような深い穴が開いていた。


「聞いていた通りだね。魔脈の地下には地底湖があると言う話は本当みたいだ」


 どうやらこの穴は地底湖に繋がっているらしい。

 落ちないように気を付けないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る