第一章 1-episode5.君の為でなく俺の為の復讐

#29

 スタンピードも過ぎ去り、季節は秋。

 四季豊かなグランザは森が紅く染まっていた。

 グランザ平原もあんなに生い茂っていたはずの背の高い草が見えなくなり、かなり見通しが良くなっている。


「あれが魔脈か」


 見通しが良くなる事で遠くからも、魔脈とやらを見る事ができた。

 平原の中央に不気味に光る洞窟、それが魔脈だった。

 一見ただ洞窟が存在しているだけに見えるけど、よく周囲を観察すれば多くの魔物が徘徊していた。


「平原の悪魔を探しているのかい?」

「いいや、まだ俺達があいつに挑むのは早い」

「それは同感だね」


 正直言って記憶の中にある平原の悪魔に勝てるビジョンは思い浮かばなかった。

 強いて言えば瀕死の状態で『桜花一閃』がしっかりと決まれば殺せるのかなと言った感じだ。

 まずはホブゴブリンを沢山殺して、そして実力を上げる。

 復讐なんて急いでもいい事はないんだから。


 ――――しかし現実はそう上手く進まない物だ。


『新星』ニュービー……?」


 そう、この平原においてあまり見ない、と言うか見るはずの無いパーティがいた。

 『新星』ニュービーは確か専らダンジョンに籠っているって聞いてたんだが……。


「スメラギ、なんでここにいるのかしら?」

「あ゛? なんだあの時の女か。俺達はな、平原の悪魔とやらを討伐する為に来たんだ。女はとっとと失せな」


 その瞬間、俺達のパーティに激震が走った。

 平原の悪魔とやらを討伐する……?

 やめてくれ、それは俺達の仇なんだ。


「平原の悪魔は私達のパーティの仇なの、だからやめてくれないかしら」

「なんだ? そんなの俺達には関係ないな」

「もう一度言うわ、あの悪魔は私達の仇なの」

「ひゅー、怖い怖い」


 アイザは一人でスメラギに詰め寄った。

 俺達は周りの空気に気圧されて動けずにいた。


「あんまり聞き分けが悪いようだと、『これ』が出るわよ」


 そう言ってアイザは脇に抱えていた経典を開いた。

 それはつまり神官のアイザに取って戦闘態勢に入った事を意味する。剣士なら鞘から剣を抜いた状態と同じだ。

 それを見て『新星』ニュービーのメンツも表情が変わりまさに事態は一触即発と言った感じだった。


「はあ、仕方ねえ。俺達もそんなにワルじゃないからな。一週間。一週間だけ待ってやる。それ以上待って平原の悪魔がまだ討伐されてないようだったら、俺達の獲物だからな」


 そう言ってスメラギと『新星』ニュービーのメンツはダンジョンの方向に消えていった。

 危機を乗り越え、俺は安堵の溜息を吐いた。

 でもまだ問題は残っていた、それはスメラギが提示した条件。


「一週間、か」


 シュンは重い表情でそう言った。

 一週間。その数字は今の俺達にとってとてもじゃないけど短いものだった。

 正直一週間後の俺達が平原の悪魔に挑むことは自殺行為と言われても仕方なかった。


「諦めるしかないのか?」

「いいえ、私達なら絶対に勝てるわ。今の私達は少し自分達の実力を低く見積もりすぎよ」

「あ、アイザ……」

「いい? 私達はもう駆け出しじゃない。私達のパーティは銅級でもやっていける程度よ。元銅級のパーティの私が言うんだからね」


 アイザは誇らしげにそう言った。


「一週間あれば、低級の悪魔程度絶対にやれる。私はそう信じてる」

「じゃあ僕は賛成かな。無理だった時は逃げればいい。まずは一週間で平原に悪魔に挑んでみよう」


 シュンのその一言で俺達の運命が決まった。

 一週間後、俺達はリンの仇を討つ為に平原の悪魔に挑む。

 これは決してリンの為の戦いじゃない、俺達の為の戦いだった。

 だって平原の悪魔を殺した所でリンは帰ってこないのだから。


 ▽▽▽▽


 一週間なんてものは一瞬で過ぎ去る。

 俺達は一週間それぞれ出来る限りの事をしてきた。

 ギルドで技を覚え、協会から悪魔に関する資料を引っ張り出して勉強会もした。

 貯金を切り崩して装備もしっかり整えた。

 やれることは全部やった。

 最初は本当にあれに勝てるか不安だったけど、今ならやれる気がしてきた。


 まだ出発までには時間がある。

 街を少し散歩する事にした。

 陽が昇り始め、丁度朝焼けが見えた。

 その朝焼けに照らされた街を俺は進んで行く。


 セリーナ川を渡り、飲食店街へと足を運ぶ。

 その途中で俺は魚釣りをしている老人を見かけた。


 ――――毎日ここでお魚さんあげてるんやで。


 ふとリンの言葉が蘇った。

 だから俺は行き先を少しばかり変更する。


「すみません。魚、一匹分けてくれませんか?」


 記憶と同じ場所に野良猫はいた。

 俺は分けて貰った川魚を丸々一匹野良猫に渡す。

 すると野良猫は「にゃあ」と嬉しそうな声で鳴いてから魚を食べ始めた。


「こら、ゆっくり食べるんだぞ」


 野良猫が食べる終わるのを見終えた俺は次に服屋の前を通りかかった。

 あの時、俺は服を買う為にこの服屋に来ていた。偶然にもリンも下着を買いに来てて鉢合わせたんだっけか?

 パンツについての感想を求められて少し困った記憶がある。


 それから俺は満腹亭の前に来た。

 服屋で偶然鉢合わせたリンと俺はそのままここでご飯を食べた。

 久しぶりに食べるコメ料理に二人で感動したのもいい思い出だ。

 今でも俺はたまに一人でこの店に足を運んでいた。


「一人でもここの料理は旨いからな」


 それから俺はもっと街の中の方に進んで行った。

 グランザの中でも一際デカい建物である劇場。

 この劇場のデカさと拡声魔術のお蔭で俺達みたいな貧乏冒険者でもオペラを見る事ができた。

 と言ってもあのオペラは地球にある魔笛の丸パクリだったので作曲者を見つけ次第問いただそうと思う。


 誰もいない劇場を通り過ぎた俺は次にモンスターサーキットの競技場に来ていた。

 ここもリンと一緒に来たことのある思い出の場所だ。

 あの時はリンが見事に予想を的中させててお小遣いをかなり増やしてた記憶がある。

 ぐぬぬぬ、羨ましい。


 思い出が残っている場所を一通り回り終えた俺は最期に墓地に向かった。


「今日、俺達は平原の悪魔を倒しに行く」


 ――――ずっと見とったから分かっとるよ。


 返事が聞こえてきた。

 俺の視界にはにこにこと笑っているリンが確かに映っている。

 ああ、リンはそこにいるんだな。

 だから俺はリンに向かって返事をした。


「見ててくれよ、俺の事を」


 ――――当たり前やろ。


 他人から見たら虚空に向かって話しかけているように見えるのかもしれない。

 だけど俺は確かにリンと言う存在を感じ取ってリンと話していた。


「ああ、そうだ。これ、今日は借りてくぞ」


 そう言って俺はリンの冒険者プレートを首にかけた。

 代わりと言ってはなんだけどリンの墓石にリンが元々使っていた槍を立てかけておいた。

 それからリンに手を振って――――と思ったけど既にリンの姿は幻だったかのように消えていた。

 いや、この場合は正真正銘の幻なのか?


「まあ、そんな事今は気にしてる場合じゃないか」


 そう呟いた俺は少し軽い足取りで貸し宿へと戻った。

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