010:決闘開始任務

 決闘の舞台である廃村――と言いつつ、前世の地方都市レベルには栄えていた場所にたどり着いた。しかし地面は凍てつき、家々には雪が積もっている。おそらくはここを支えていたジェネレーターが破損してしまったために、廃棄された村なのだろうと思われた。


「よし、俺は周辺から狙撃する。レイルは適当に動いて奴らを引っ張り出してくれ」

『了解~~、気をつけてね!』


 レイルが廃村を先行していく。

 俺は少し高い建物の上に陣取り、迷彩用マントを羽織ってレールガンを構えた。

 デュアルの狙撃能力は――空き缶ロボとそう変わんないな、うん。


 レイルが素早くブースターを吹かし、廃村をうろついていると……。

 おっと、出てきたな。青い機体が。なんだあれ?


 デュアルと同じオニダルマのカスタム機に見えるが――。

 向こうの装備は日本刀のような太刀が二本。それを構えている。


 対レイルを想定した超近接特化ってところか……!?


『やぁ、死に損ない。また会えると思わなかったよ』

『どけ、駄犬。私が興味あるのはあの男だけだ』

『――――――へぇ、なら死んでもどいてやれないね』


 睨み合う二機。次の瞬間、太刀とパルスソードが打ち合っていた。

 エネルギーであるパルスソードと打ち合う……!?

 あの太刀、なんか光ってるしおかしいぞ……!!


 狙撃したいところだが、アンドーのやつが出てこない。

 おそらくは俺を探しているな。確実に当てられる隙が出るまで撃つことは出来ないぞ。


『ははは!! 私のお下がりか!? それじゃあ心許ないんじゃないかね!?』


 一旦、離れたかと思ったら左手の太刀を投げてきた。

 レイルはそれを俊敏に回避し、回収。今度はレイルが二刀流だ。


『おや、武器を投げ渡しても良かったのかい』

『ああ、今宵の私は紳士的なのでね』


 そう言って、両手でしっかりと太刀を構えるライズのオニブルー(仮)。

 対するレイルには――剣の扱いなど教えてはいない。


 だが二刀、パイルバンカーも入れれば三刀流だ。

 次の瞬間、オニブルーが一気に加速した。


『っ!?』


 レイルが予知レベルの直感で旋回し、背後に回ったオニブルーの斬撃を防ぐ。

 しかしそうこうしている内にオニブルーはさらに加速した。


 まるで斬撃の竜巻。その中心にレイルを置かれたのだ。

 その斬撃を予見して、一回一回なんとか防ぐレイル。

 あの野郎――動きがまるで別人だ!!


『ハハはハッ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺切る斬るkillッ!!!』

『おおよそ正気じゃないね!!』


 おそらく、ポゼッションデバイスを発動している……!

 AIによる超過駆動……!! あんなことになるのか!!


 しばらく斬撃の嵐を耐えていたが、終いにはレイルの持っていた太刀が吹き飛ばされた。

 その機を狙い、仕掛けてくるライズ。動きは突き。レイルに対応できるか――!?


 だがレイルはレッドキャップの機体を反らしつつ――。

 カウンター気味にパイルバンカーを相手の胴体に叩き込んだ。

 上手い!!


『ガぁ……!?』

『そんな機械的な動きじゃ、ボクには勝てない。ヤマトを追い詰めたときのほうが強かったんじゃないかい?』

『貴様ッ貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様ッこのアバズレがッ……!!』

『ボクほど貞淑な淑女はいないと思うけれど……』


 帯電し、よろめくオニブルー。

 しかし次の瞬間、空からフクロウのような機体が舞い降りた。


『なっ!?』


 フクロウをモチーフにした仮面に、機械の翼。胴体はむしろバックパックに近い。

 あいつ……アンドーか!?

 

 まるで乗っ取られたように覆いかぶさられるオニブルー。

 いわゆる合体。第二形態ってところか?


 だが、今だ……!!

 俺は構えていたレールガンから狙撃した。

 しかしそれは奴のバックパックから生えてきた触手によって弾かれてしまう。

 レイルもさっきからパイルバンカーを撃ち出しているが、結果は同じだった。


『うわっ!? こいつ……!! あの時のクラゲと一緒だ!!』

「レイル、急いで距離を取れ!!」


 数本の触手、巨大な爪と化した二本の翼。

 あの形――キノコというかイソギンチャクというか。


『第二ラウンドと行きましょか! ライズはんも完全に意識乗っ取られてしもたしねぇ!!』

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!』


 ライズの咆哮。すぐさま巨大な爪がレイルに襲いかかる。

 それだけじゃない。数本の触手も一緒だ。


 しかしそれを、レイルは縦横無尽にブースターを吹かして回避する。

 ついでに落ちていた太刀を回収。触手の一本を断ち切ることに成功した。


 ――が、それまで。もう一本の触手に右足をやられる。

 挙動が不安定になったところで爪に押し潰された。


 と言っても、あの爪に機体を完全に潰すほどの膂力はないからか、機体そのものは無事だ。

 身動きできなくなったが……。


『くっ……!』

『ヤマトはん! さっきからちまちまと狙撃してないで出てこいや!! せやないと、このままこの子潰すでッッ!!』

「チッ……」


 仕方ない。デュアルの性能、試してみるか。

 俺は躊躇なく、ポゼッションデバイスの発動ボタンを押す。


 すると、両肩のビットが展開。

 空中を浮遊。そのままイソギンチャクへと飛んでいく。


 そして――頭の中に声が聞こえてきた。


『オーダーは仲間の救助。承認。当機はユーザーの行為を肯定する』

「あ!?」


 こいつ……AIか!?

 なんだかキンキンうるせぇけど、とっととやれ!!

 そう念じると、デュアルが勝手にブースターを吹かし、飛んだ。


 そのままイソギンチャクへと近づいてく。

 既にビットはイソギンチャクへと到着しており、全方位からパルスレーザーを放っていた。

 それらを一つ一つ触手が防いでおり、どうやら拮抗しているようだった。


 そこにうちのデュアルが飛んでいく。

 地面に突き刺さっていた太刀を回収し、レイルを押しつぶしていた巨大な爪を切り裂く。


『ああ!? こいつ本当にヤマトはんか!? 動きがエース級やんけ!!』


 次の瞬間、危険を感知したのかすべての触手がこちらに向かってくる。

 パルスレーザーが機体にぶつかるものの――。

 ビットだからか即死させるには出力が足りてない!


 だが、見えるぞ!! 触手の動きが!!

 まるで予知するかのように!!


 俺はそのとおりに機体を操縦し、太刀で向かってくる触手を斬り伏せていく。

 ここで避けるわけにはいかない。地面にはレイルがいるからな。


 なんとかレイルがブースターを吹かして、その場から撤退する。


『ふざけんなよッ……! ワイは、ワイはまだ死ぬわけにはいかんのや!!』

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――ッ!!!』


 迫ってくるイソギンチャク。

 爪をこちらに向けて振り落としてきたが、それも切り捨てる。


『ユーザー、対象の斬殺を』


 視界に現れる切り取り線。もう相手に武装はない。

 勝負は決まったも同然だ。殺す必要はない。


 ――なんて一瞬考えたのは情か、倫理観か。

 だが、俺の太刀が止まっても、周辺のビットがイソギンチャクを焼き殺した。


『オーダー、実行完了』

「――――――っ」


 頭痛がする。ポゼッション・デバイスの限界が来たようだ。

 急いでスイッチをオフに切り替える。ひとまず、これで任務達成――だよな。


「レイル、無事か?」

『――――――――――――ザザ――――――――――』

「レイルッ!!」


 俺は急いで機体から飛び降り、半壊したレッドキャップの元へ向かう。

 少しばかり機体がひしゃげているがコックピットは大丈夫そうだ。

 扉を手動で開けて、中を確認する。


「なんとか勝てたね、ヤマト……」


 そこには頭から流血しているものの、意識はしっかりとあるレイル。

 俺はレイルに手を差し伸べ、引っ張り出そうとした。


「ああ、よくやった。任務達成だ」

「………………いや、ちょっと慌てすぎたみたいだよ」


 足音。背後を見ると、銀色の血を吹き出し、帯電しながらこちらへと歩いてくる男が一人。

 仮面は割れ、かつての整った顔は面影もなく焼き爛れている。


 俺が放置した機体を奪えばそれで勝てるのに、もうそんな思考も残っていないみたいだった。


「――――――――決着を、つけよう――――――――」

「引導を渡してやる、ライズ!!」


 互いに拳を構えた。


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