009:新型入手任務
そんなわけでMAPが指し示す先に向かう俺達。
一応、罠であることも考えて遠方からドローンを飛ばしてみたが、フワリィ嬢が可愛らしく手を振っていた。本人が来ているなんて聞いてないぞ……。
仕方ないので、レッドキャップに乗せてもらって目的地に向かう。
そこは倉庫になっており、その前にフワリィ嬢がいた。
一応、何人かは警備がいるが明らかにやる気がない。
俺達が敵でないと認識しているようだな。
「フワリィ嬢、オニダルマをくれるなんてどういう風の吹き回しだ?」
「新型のテストとプロモーションを兼ねて……というのと、貴方と改めて話したかったんです」
周りを見て、敵がいないのか一応確認するフワリィ嬢。
そのあと、普段のにこにこした表情とは違う真面目な顔になった。
「ヤマト様は暗号キーが何につながるか知っておいでですか?」
「…………いや、知らないな。教えてくれ」
嘘をついた。もっとも、ただのモブである俺がそれを知るはずがないのだから仕方ない。
前世知識としては知っているけれど。
「この惑星に我々が居着く前に、古代人が作り出した遺物――まぁ、早い話が万能の願望機です」
「願望機――!?」
うん、知っている。もっとも万能かと言われれば、代価が伴うのだが。
要するにこの惑星中のシードルをリソースとした願望機。リソース以上の願いは叶わない。
しかし……条件さえ揃っていれば、死者の蘇生すら可能とするおぞましいものだ。
そんなものが悪人の手に渡ってしまったら?
いや善なる願いだとしても、惑星中のシードルを使い果たせば、この星は凍てついてしまうだろう。そうなれば人類はもう生存することが出来ない。シードルによって暖をとっているからだ。
素朴な願いの一つや二つ叶える程度なら、どうとでもなるが――。
そのためだけに発掘するには、オーバースペックすぎるのだ。
「そんなものを見つけて、どうする気なんだ?」
「わたくしの願いはこの惑星を救うことです」
「――――というと?」
「この惑星、寒すぎませんか?」
ああ、元々太陽の役割を成す恒星との距離が遠い、というのもあるが……。
大気中のシードルが日光を遮っているのが原因だ。
そしてシードルは今日も今日とて燃焼し、大気へと蔓延していく。
百年後か二百年後か知らないが、シードルはやがて尽き、結局人類は滅ぶだろう。
で、あればどうすればいいか。
「願望機によって、この惑星を温める。大気中のシードルを一掃するだけでも効果はあるはずです。それに――そうすれば、人類は再び大気圏上へ出られます」
「そうすれば……」
「ええ、我ら人類の故郷たる地球に帰れるのですよ!!」
パン、と手を叩くフワリィ嬢。
たしかに時間さえあれば、それは可能なことかもしれない。
「だけど、地球の座標を握っているのは壊れたAIのはずだぜ?」
「そもそもそれがおかしいと思いませんか?」
この惑星近隣にやってきた途端のAIの敵性化。
それはもちろん理由がある。言われなくても知っている。
俺は原作を三周はしたからな。
「古代人が作り出した遺物の仕業だと?」
「そうです。AIの
「というと?」
「敵対意識を持ちながら、彼らの
だから近隣に現れた異星人をこちらに誘導した。
…………いや、そもそも俺達がこの惑星に来たのは、彼らが地球宛に発信したシグナルの仕業かもしれない。原作にはない設定だから、予想することしか出来ないけどな。
しかし妙だな……。
「なぜ、アンタがそこまで知っている?」
「七大企業には人類がここまでたどり着き、生活してきたログデータがあります。わたくしはそれをお祖父様から受け継いだ。もっとも……ただの神話だと信じていない人のほうが多いですけど」
それを聞いて、俺は溜息をついた。
この段階でそこまで俺に語るということは――。
「その話をして、俺をどうするつもりだ?」
「わたくしと同盟を組みましょう。共に世界を救済するのです」
そう言って、フワリィ嬢は手を差し伸べて来た。
まいったな。俺の目的――つまりモブとして穏やかに暮らすって話とは一致しない。
そういうのは師匠がやってくれると信じて、暗号キーを渡したんだけどな。
……しかし、世界は一向に暖かくならない。
きっと、師匠は失敗したのだろう。
俺が寿命で死んでも百年――いや二百年は大丈夫だと思う。
つまり人類の生存なんて、モブの俺には関係ないのだけれども。
俺は、その手を掴んだ。
「同盟、組んでくれますか」
「ああ、出来る限りのことはしてやるよ」
人類のことなんて心底どうでもいいんだけど……。
明日の天気が暖かくなると思えば、彼女と組むのも悪くない。
裏切られたら――その時はその時だ。
「ではオニダルマを提供いたしますね」
フワリィ嬢の背後にあったガレージが開く。
そこには赤、白、青とトリコロールカラーに塗られたオニダルマがあった。
一頭身じゃなけりゃあ、まるでロボアニメのエース機のようだ。
しかしこんなの、俺が乗るよりレイルが乗ったほうが良いんじゃないか?
『あ、ボクはレッドキャップでいいよ。ヤマトが乗りなよ』
「いいのか……?」
『今度の決闘で死にそうなの、ボクよりヤマトでしょ?』
それは……そうだ。
仕方ない、俺が受け取るとしよう。
名前はなんてつけるかな……。
「フワリィ嬢、こいつの名前は?」
「オーガスフィア・デュアルカスタム」
可愛くないなと思ったのか、う~~ん、と顎に指を当てて考え込むフワリィ嬢。
やがてポンと手を叩いた。
「そうですね……デュアルとでもお呼びください」
「デュアルカスタム?」
「二つの新機能を実装しているんです。一つはシードルのG軽減効果を利用した武装浮遊機構――フロートデバイス。もう一つは短期間ながらパイロットとAIを同調して稼働させる……」
フワリィ嬢はそう言って、にこりと笑った。
本当に機械が大好き、というようなうっとりとした表情だ。
「ポゼッションデバイス。ただ使用には十分お気をつけください。AIに体が乗っ取られます」
「まさしく実験機だな……」
両肩にもなんか二つずつ三角コーンみたいな大きめのドローンビットがくっついてるし。
なんか飛び回って撃てそうだな。まさしく主人公の実験機って感じだ。
…………いいのかよ、モブの俺なんかが乗って。
だが危険性を説明された以上、レイルを乗せるわけにはいかないな。
好意に免じて、乗せてもらおう。
「……てか、この試合中止したりは出来ないの?」
「ふふ、駄目ですね。ライズさんの要望なこともありますし……ギャングをどうこうしなければ、民衆にも申し訳が立たないでしょう? 大丈夫、貴方が勝つって信じてますから」
「戦場を用意した人間の言うことではない」
デュアルに搭乗し、倉庫から出発する。
そろそろ決闘の時間だ。このまま向かわせてもらうとしよう。
フワリィ嬢が倉庫の横からにこやかに手を振っている。
まったく……まるで悪魔のような女だな。
「見せてもらおうか、企業の新型――その性能とやらを」
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