違う凛川 【再編版】
第10話 仲良くなる
凛川と小澤さんは、同じ路線の電車に乗っていた
私は凛川が小澤さんのことを嫌っていると思い込んでいたけど、そんなことはなかった
どうやら凛川は感情を表に出しにくい性格なのかもしれない
二人の関係がこじれなければ、それでいいんだ——私はそう思った
今日の凛川は、どこかほんのり元気があった
昨日のように「山崎さん」と呼んでくれるかと思っていたけど、そうじゃなかった
むしろ、少しためらいながらも「花梨ちゃん」と、名前にちゃん付けで呼んでくれたのだ
重たく押さえつけられていた心が一瞬解き放たれ、肩の力がふっと抜けた
「凛川…ちゃん」
ただの名前で呼んでくれたら、もっと嬉しいのに
「ちゃん」なんて、いらないのに…
そう思いながら、私はひっそりとつぶやいた
「どうしたの?」
机の整理をしていた凛川が振り返ってきた
「ねえ、凛川の名前、直接呼んでもいい?」
「あなた、もうそうしてるじゃない?」
凛川が眉をかすめた
「いえ、『ちゃん』をつけないで…ただ、凛川って呼ぶの…いい?」
私は凛川の目をじっと見つめた
「…いや」
凛川はためらいもなく拒否した
「どうして?」
私は追いかけて聞く
「どうしてもない」
凛川は理由を一切話そうとしなかった
「理由を聞きたいの…いい?」
担任の先生が出席を確認している最中、私はささやくように問いかけた
「理由はない」
凛川はやはり、ためらいもなく答えた
「…わかった。でも、私のこと、直接『花梨』って呼んでいいよ。『ちゃん』はいらない」
ため息をつき、追いかけて聞くのをやめた
「…いいの?」
左から、ほとんど聞こえないほど小さな声が届いた
私はうなずいた
その瞬間、授業のチャイムがきっちりと鳴り響いた
丸々とした中年の男の先生が講台に立ち、にっこり笑って言った
「先週はみんな慣れてきたでしょう? 今週の道徳は、友達とどうやってより仲良くなるか、みんなで話し合おう」
「じゃあ、グループを作ってください。人数は自由だよ。討論した後で、結果をシェアしましょう」
教室にはすぐに、ざわざわと討論の声が響き始めた
友達とどうやってより仲良くなるか…
心の中で繰り返し思っていると、つい凛川の方向を見てしまった
すると、彼女もちょうどこっちを見ていた
「グループ討論、一緒にしよう? 山崎さん、白村さんも」
目が合った瞬間、右から小澤さんの明るい声が入り込んできた
振り返ると、小澤さんがにっこり笑っていた
「いいよ」
凛川の小さな声が聞こえた
少し意外に振り返ると、彼女はさらに続けた
「花梨もいいでしょ」
退路なんてすっかり塞がれちゃったけど、全然嫌じゃない
むしろ、凛川のこの毅然とした様子が、ちょっと好きになってきちゃう
「じゃあ、思ったことを紙に書いて、お互いに交換しよう?」
小澤さんがさっそく提案した
私はもちろん問題なかった
凛川もうなずいた
「じゃあこうしよう。わたしのは白村さんに、白村さんのは山崎さんに、山崎さんのはわたしに渡そう」
小澤さんが続けて決めた
いいのかな?
凛川を見ると、彼女はすでにペンを走らせて何かを書いていた
私の視線に気づくと、慌てて紙を手で覆い、じっと私を見つめた
ほっと肩の力を抜き、小澤さんを見ると、彼女もうなずきながら紙に何かを書いていた
「よし、討論はここまで。では、誰か結果を発表してください」
紙を交換した後、先生の声が討論を遮った
先生を見ると、彼はにっこりと私の方を見ていた
「じゃあ、山崎さん、お願いします」
ため息をつき、立ち上がって凛川の紙を取り出した
「はい、わたしの答えは…一緒に本屋で好きな本を選ぶ?」
ついうっかり凛川を見ると、彼女はすぐに窓の方を向き、耳がほんのり赤くなっていた
教室が一瞬ざわめいたが、すぐに先生に静められた
「好きな本を選ぶのね…うん、いい方法だね。山崎さん、どうぞ座ってください。では、また誰か発表してください」
先生も少し意外そうだったが、何も深く問うことなく授業を続けた
「はい」
うなずいて座った
授業が終わると、凛川はトイレに行くと言い残し、耳を赤らめたまま逃げるように教室を出ていった
「白村さんの答えは意外だったけど、山崎さんの方がより意外だったよ」
小澤さんが笑いながら言った
私は凛川とまったく同じことを書いていたのだ
紙を見た瞬間、交換し忘れたのかと思った
けれど、自分とは違う凛川の筆跡を見て、胸のモヤモヤがようやく晴れた
2時間目のチャイムが鳴る少し前に、凛川はやっと教室に戻ってきた
「ちょっと長かったね」
耳がまだほんのり赤い彼女に、私は声をかけた
凛川は何も答えなかった
「…花梨の答え、教えて」
私が振り返ろうとしたとき、小さな声が聞こえた
「え?」
思わず口にした
彼女がこんなことを気にしているなんて、全然思わなかった
「道徳の答え、教えて」
凛川は私の目をじっと見つめた
「だめ。本当に知りたいなら、小澤さんに聞けばいいのに」
私は答えた
彼女に答えを知られたくなかったから、わざと絶対にしない選択肢を提示したのだ
「…それじゃ」
凛川はそのまま、小澤さんに聞くこともなかった
私はほっと、ため息をついた
「では、午前の授業はここまで。布置した宿題をしっかり完成させてください」
チャイムが鳴り響き、午前の授業が終わった
「山崎さん、白村さん、一緒にランチしよう!」
授業が終わるとすぐ、隣から小澤さんの声が聞こえた
凛川を見ると、彼女の目に一瞬の抵抗がよぎったのが見えた
「今度ね、私と凛川は用事があるの」
「ね?」と凛川に確かめると、彼女はうなずいた
小澤さんに謝った後、私は弁当を持って、周りの人の驚きの視線を顧みず、凛川の手を取って教室を出た
凛川の手をそっと握り、指を軽く絡めた
不思議なことに、彼女は何も抵抗しなかった
明日はもしかしたら、世界が終わるような日になるかもしれない
今日の凛川は、ひどくおとなしかった
微風が頬をなでても、心だけがぽかぽかと暖かかった
「……また屋上に?」
凛川の小さな声が、私の胸のときめきを遮った
「凛川、どこかいいとこある?」
期待してなかったけど、つい聞いちゃった
「ない…」
思った通りの答えだった
「あ、ついてきて」
私が何か言おうとしたその時、凛川が先に言った
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