〇ゴースト

「死んでしまっている…?」

「はい…順を追ってお話します」

 そういうと彼女は語り始めた。

「今、私は結婚しています。でも以前…過ちを犯してしまったんです。不倫をしていました。相手はネットで知り合った男性です。とあるゲームのオフ会で知り合い意気投合したんです。バカなことをしたと今でも反省しています。その関係が数年続いたんです。そんな中、彼がガンであることが判明しました。発見が遅く、既に末期状態だったそうです。それを機に…私は彼から距離を置くようになったんです。身勝手すぎる言い分なのはわかっていますが、人の死に触れたくないといういのと…この関係を終わらせるいい機会だと考えてしまいました。最低な人間なのは重々承知しています」

「…状況は把握できました。つかぬことをお聞きしますが、生前の彼は、加藤さんが距離を置くという決断をされたことに対して何と?」

「…嫌だ、自分の最期まで一緒に居てほしいと言われました。けれど…私は彼の元を離れたんです」

「なるほど…しかし、既に亡くなられている人が付きまとい行為は出来ません。事の経過からするに…たしかのその彼があなたに対してそのような行為を働く可能性が高いとは思いますが…」

「それだけじゃないんです…先ほどお伝えしたSNSのアカウントの件。私に返信してくるアカウントは私ともう一人だけフォローしてるって言ったと思うんですが、そのもう一人というのが、亡くなった彼…湯川猛のアカウントなんです」

「それは…例えば彼の親類縁者や友人がその事情を知って、彼の復讐、あるいはあなたに嫌がらせをしているという可能性もあるのではないでしょうか」

「私も最初はそう思いました。でも…知りすぎているんです。二人の会話の内容、どこで何をしたか…性行為の内容まで…そんなこと、当事者以外誰も知らないはずなんです…!」

 なんともオカルトじみた話になってきた。しかし、彼女の話を全て信用するのなら、警察に相談しても大した対策はしてくれないだろう。せいぜい見回りを強化するという通り一遍な回答が返ってくるだけだ。しかしだからと言って自分に何が出来る?『死んだ不倫相手に付きまとわれている』などという相談にどう対処すればいい?

「とりあえず、彼のアカウントを見せてもらえますか?」

「はい…」

彼女が差し出したスマホにはその人物のプロフィールが映し出されていた。

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