バリバリ暴爆ブラッドベイビー
ブラックスワン佐々木
第0話 プロローグ
この物語はフィクションです。
登場する人物や地名、団体などはすべて架空のものです。
献血はボランティアであり、競い合うものではございません。
時間をかけて安心安全に謙虚な気持ちで「責任ある献血」を行ってください。
また、交通違反を促す発言や言葉を使用しますが、車だけでなく歩行者や自転車なども交通ルールを必ず守りましょう。
「ねぇねぇ、おじいさん」
「何だい?ダンガン点P?」
「どうして献血レーサーはみんな手をニギニギニしているの?」
「それはね、血流を速くするためじゃよ。車で言うアクセルみたいなものじゃ」
「ねぇねぇ、おじいさん」
「何だい?ダンガン点P?」
「どうして献血レーサーは足を交互にクロスしているの?」
「それはね、レッグクロス運動と言って、全身の血流を最適化して副作用を防ぐためじゃよ。車で言うギアチェンジみたいなものじゃ」
「ねぇねぇ、おじいさん」
「何だい?ダンガン点P?」
「どうして献血レーサーについているようなドナーネームで僕のことを呼ぶの?」
「それはね……」
「お前を…………」
「献血レーサーにするためだよ!!!!」
「やだ」
「え?」
「僕はおじいさんの仕事を継ぐよ!」
「おぉ!それは本当か?そうかそうか!継いでくれるのか孫よ!」
「うん!おじいさん大好き!」
「かわいい子だ、食べちゃいたいくらいかわいいぞ!」
「えへへ!」
「ではいただきま~す」
「ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
子供が上げた悲鳴が飲み込まれて消えていくほど、盛り上がりが絶えない1万人を超える観客の大歓声が、ホールの中いっぱいに広がっていた。
さらに、テレビやネットを通じて生中継されており、国内で注目を集めていた。
大衆の目の先にあるのは、献血時間を競い合っている、男女6人の献血レーサーと呼ばれる選手達である。
献血チェアに深く座り、背もたれを軽く倒し、レッグレストを上げて腕を伸ばしている。
血で赤く染まったチューブが腕から伸びて、中で献血バッグが踊っている機械へと繋がっている。
6人はみんなモニターを食い入るように見ながら献血を行っていた。
血液が流れる速度は時速260km説や秒速50cm説などが出回っているが、車の速度感覚と同等レベルになるようにレース向けの時速が設定され、モニターに表示されている速度メーターは200km/hを簡単に超えていた。
その隣に表示されているプログレスバーには6人分の矢印アイコンが左から右へ移動しており、3/4の地点の手前で密集していた。
血圧、脈拍も共に良好、握りこぶしに力を入れたり緩めたりを繰り返して血流を加速させる。
さらに速く安定した血液を送るために、交差させた足も同じように力を入れたり緩めたりを繰り返した後、足を組み替える。
全献血を指しているレッドレースは一番速く400mlに達した者が優勝。
成分献血のイエローレースのような長距離走とは違って持久力よりも瞬発力を優先とした短距離走である。
先頭を走っているのは近畿地方代表、献血アイドルグループである
「まだまだニギニギしちゃうよ~!」
針を刺していない方の腕を真上に上げてニギニギさせると、ファンは喜んでペンライトをタコメーターに見立てて、上半身を右側に傾けて早く小刻みに振り回した。
これは、ファン側ではレッドゾーンを表しているが、ニギニギネキ側では左側で針が揺れているように見えるので「まだ序の口」を表しており、より加速を促している公式パフォーマンスである。
その後ろで2位争いをしている中国・四国地方代表、イケメン集団であるブラッドパワーデリバリーズの「インフィニットパワー」と関東地方代表、東京爆血倶LOVEの「轟快ブースト」通称眉なし金髪ハリネズミだった。
インフィニットパワーは応援している女性ファンに向かって、針が刺さっていない方の腕で投げキッスをして手を振ると、黄色い歓声が一気に増した。
「わぁ!みんな僕のことを応援してくれている……。あれ?轟ちゃんのファンって今日全員風邪でお休み?」
轟快ブーストは舌打ちをして睨みつけると、その苛立ちの矛先をレッグレストに向けて、思い切り叩きつけるように足を組み替える。
「あらら、怒っちゃった」
そして、その2人の背後にピッタリとくっついて走っているのは九州・沖縄地方代表、No Red Zoneの「グーテンターボ」である。
「行ける、行ける!大丈夫!みんなと逸れないように……!」
4人は300mlの地点に達し、残り100mlを切る。
やがて、残りの2人も12秒遅れて300mlに到達すると、そのうちの1人である北海道・東北地方代表、0オームベッセルズ「ブラッドインフェルノ」が突然スピードを出して華麗に3人をごぼう抜きする。
「お先に失礼!」
「ふ~ん、速いじゃん?」
「噓でしょ?」
「……チッ」
ブラッドインフェルノは爽やかな笑顔を3人に見せた後、針が刺さってない左腕を動かし、手のひらを上にしてニギニギネキの方に向かって、顔を斜めに上げて見下すように言った。
「レースは最後の最後まで分からないよ?僕から逃げられると思う?」
「ぐぬぬぬぬ……!」
ニギニギネキの手を握る速度が大きく速くなり、速度は240km/hまで上がった。
表情も険しくなり、余裕がなくなる。
するとファンは直立に戻り、一斉に右手でペンライトやうちわをふんわりと下から上へ何度も繰り返しながら左手をまっすぐ上げてニギニギさせる。
彼女を応援する最大級のパフォーマンスである。
つまりラストスパートを意味しているのだ。
ジリジリとニギニギネキとの距離を縮めるブラッドインフェルノと、その後ろでピッタリとついていくグーテンターボもレッグクロスのサイクルを早くしながらついて行く。
ついにブラッドインフェルノとグーテンターボは250km/hまで出してニギニギネキを追い越した。
すると、ニギニギネキは260km/hを出した。
今度は、ブラッドインフェルノとグーテンターボは265km/hを出した。
さらにニギニギネキは270km/hを出した。
完全にいたちごっこのような加速、もう誰にも止められない。
3人のレッグクロスはまるで、足で作業しているかのように慌ただしく交互に動かして、レッグレストを足で叩きつけるほど激しさを増す。
やがて金属の音まで聞こえ、悲鳴を上げているようだった。
しかし、3人の顔は次第に青白くなり、自身の血圧の低下がモニターに映し出されると、ほぼ同時に180km/hまで一気に減速させ、悲鳴はピタリと止んだ。
安全を考慮した判断だった。
リタイアするよりマシだ。
その隙にインフィニットパワーと豪快ブーストは3人を追い越そうとしたその時だった。
現在350ml地点、残り50mlのところで、1人の献血レーサーが一瞬で5人をまとめて追い越した。
「な、なんだ今の……」
「何が起こったんだ?」
「おいおい、ラグってんじゃねえのか?」
「こんな時に壊れるなよ、ポンコツが!」
いや、機械は正常に動いている。何も問題はない。
その証拠に追い越したレーサーのモニターを見てほしい。
「瞬間最高速度……さ、320km/h?!」
「300越えとかバケモンだろ!」
「どうなってんだあいつ!?」
他のレーサーも観客も、スピードと理解に追いつけなかった。
機械の不具合のせいにしたかっただろうが、通信品質最高レベルだった。
そう、驚異的な瞬間最高速度を叩き出したのは、競り合いもせずただ目立つことなく最下位で走って、そこから一気にトップへ躍り出た、中部地方代表、オービスデストロイヤーのまだ入団して1ヶ月も経っていない新人だった。
レースも終盤戦に入ると、6人とも余裕が無くなって表情も険しくなっていくが、その新人だけ別の意味で険しくなっていた。
新人は1万人以上の観客と数台のカメラの視線に性格上耐え切れず、声は隣のレーサーに届くが、何を喋っているか分からない程の声量でブツブツと真顔になりながら早口で呟いていた。
「これが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰るこれが終わったらすぐに帰る」
この物語はそんな新人から始まった。
つづく
次回
第1話 献血バスをバスジャックする奴
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