第4話 出会い

 休日の午後、テレビを見ながら寛いでいると呼び鈴が鳴った。

部屋を紹介してくれた不動産屋の女性が、ドアの前に立っていた。

「いたのね。様子を見に来たんだけど、元気そうね」

相変わらず口が悪いな――そう思いながら、

「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。

それにしても何なのだろう?――疑問が渦巻く。

「何か変わったことはない?」

彼女は僕の肩越しに部屋を覗いた。

「特には……」質問の意図が分からない。

「フーン」今度は僕の身体を舐めるように見回す。

「本当に何もないの?」

「ええ」つられて、自分の身体を見る。

「入ってもいい?」

そう言いながら、僕を押し退けて部屋に入ってきた。

内見の時は全然入ってこなかったのに……、そう思いながら彼女の後を追った。

 彼女は奥の和室に入ると部屋を見回した。

「何もないですよ」

「そうね」気のない返事が返ってくる。

「ガタン!」突然、押入れが鳴った。

彼女の顔は、一瞬にして青ざめた。

何だろう?――そう思って、引手に指をかける。

「やめて!」と彼女が甲高い声で叫んだ。

「ドン、ドン」と今度は窓を叩く音がしはじめた。

彼女は身体を硬直させて窓を睨んでいたが、ふいに窓を指さし、一歩二歩と後退さった。

「お、おんな……」そう言われて窓を見た。

窓を見てもだれもいない――そう思って彼女に顔を向けた。

彼女はもつれる脚に靴も履かず、外に飛び出していった。

「く、くつ!」

僕は慌てて追いかけた。

ガタガタッという物音とともに、裂けるような悲鳴が、ドアの外から鳴り響いた。

その音に、靴も履かずに外に出る。

――彼女の姿が見えない。

急いで階段まで駆寄り、下を見下ろした。

階段の下で、血を流して倒れている彼女が見えた。

 僕はすぐさま救急車を呼び、付き添って病院に行った。

身元も何も分からず、仕方がないので不動産屋に連絡を入れた。

「分かりました。後はこちらで対応します」電話口の男性はそう言った。


 部屋に帰ると、部屋のあちらこちらを見て回ったが、特に変わった様子はない。

しばらくの間、息をひそめて耳をそばだてた。

だが、何も起こらなかった。

何もない、何もない。――何度も自分にそう言い聞かせた。

今まで何もなかっただろ、そうだよね。――そんな風に。

――でもなんで?

そんな疑問も抱えながら、いつしか眠っていた。

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