第3話 カオスの定義

 そぉ~。じぃ~。

「怖い怖い怖―――い。誰もいない処を見て、一生懸命お話ししてるぅーーー」

 そぉ~。じぃ~。

「手をぶんぶん振って何してるのかなぁ~、絶対何かいてる。お狐さんかなぁ~」


「もう帰るっ。いて来ないでっ」たたた。

「我が半身の脳みそは、いったいどんなお花が咲いているのだ。三歩歩くと忘れてしまうのか。お~、チキンだったか。いや、待て、振られるとわかっている相手にこれから熱烈告白するだ、鋼鉄のハートだな。シャイな我には到底とうていできん」

 むかっ。「うっさいっ」ぺちっ。「いたぁ~い」「何なのだ、我が半身わ」がらがら。


「あっ」「あ、あ~大丈夫、かなぁ~って」

「あ、はい。もう大丈夫です。有難う御座います。もう帰ります」

「そぉう。あ~、タクシー呼ぶ」「いえ、歩いて帰れます」「なら良いけど」


 どさっ。「事務員さんっ、後ろ後ろっ。2階から人が落ちましたっ」

「えっ、ひぃ~~~。…あなた帰るのちょっと待って、救急車と警察呼ぶから」


 ぇ~~~私、関係ないじゃん。

「やはり起きたか。宇宙創世そうせい時から決まっていた事だ」

「知ってたんなら言いなさいよ」

「聞かれなかった。それに時が来れば事象は必ず起きる」



 おばさんに電話をして、事情を話して帰りが遅くなるって言ったら、おばさんも残業地獄から抜けだせないから、おばさんは食事を外で済ませる事に。

 私も何か買って食べる様に言われた。

 冷蔵庫、ビールとおつまみしかないからって。


「通信相手の同性は、今宵は異性とセ」

「うっさいっ、うっさいっ、黙れぇーーー」ざわざわざわ。


「すいませんすいません。気が動転どうてんして」

「大丈夫、仕方ないわよ。人が落ちるのを見たんだから。刺されてたし」

「おまえが泊まりに来ているから、新たに付き合い始めた異性を呼べずに困っていたところへ、っていたこの騒ぎ」


「事務員さんも大変ですね」「殺人未遂事件が起こるなんて、普通思ってないから」

「これ幸いと異性の部屋でお泊りデー」「黙ってっ」

「あ~御免ごめんなさい」


「違います違うんです」「…何か見えたり聞こえたりしてる」

「…いえ」「そう。あの場所ね、昔からいろいろ噂があるし」

「我と言う事象が起こる前兆だ。今後は起きない。我の姿も声も、半身であるおまえにしか認識できない。あんぽんたんの一部だからな」


「そっ、そうなんですか。もう起きないんじゃ、ないかなぁ~」

「分かるのっ」「なんとなくそう思っただけですぅ~」

「そう。刑事さんが話しを聞きたがってたから、見た事を話して」

「何も」「被害者の人、命に別状はないみたいだけど、意識がまだ戻らないみたいで」


「受け付けの隣の天井にある防犯カメラ、犯人映ってないんですか」

「あ~、あのカメラ、入口を出入りする人をってるだけなの望遠で」

「じゃぁ、この和室入口から奥の天井のは、2階も写ってそうだけど」

「あ~、あっちはこの1階の展示ホールを広角でってるの。人の流れを見る為に」

「じゃっ、じゃぁ~2階に防犯カメラは」

「あそこは貸し出しの会議室しかないの。資料や試作品を写さない様に、気を回し過ぎたのね、設置してないの」


 えええぇぇぇ~~~。

「既に決まっている事だが、我が半身」「もぉ~黙って」

「あ~御免ごめんね、五月蠅うるさくして」

「ちっ、違うんですっ。…すみません」

「直ぐに慣れる。もう決まっている事だ。音波として発声せずとも、おまえが思考と言う事象を起こせば、我にはわかる」


 つまり、こうして私が考える事はだだれって事。

端的たんてきにはそうだ。発情はつじょうすれ」


「うっさいっ」「ひぃーーー」「すいませんすいません、何でもないです」

 何なのよ、もぉ~ぅ。「我の話を途中で打ち切るからだ」


 じゃぁ~何よぉ~。「我に問え、あの者が重力に引かれて落下した事象をさかのぼり、未到達のアカシックレコードを更新出来るかと」

 でも。「これは宿命だ。目撃者になれ、我が半身」

 ん~~~。「早くここから立ち去りたくないのか」


 分った、どうすればいいの。

「周りを見渡し情報を集める事に傾注けいちゅうするのだ」

 これでいい。「気体分子、液体、個体の配置、エネルギーの流入、放出」


 それ何。「眼球からの情報入力を一旦停止しろ」目を閉じろって事。

「そうだ。あの場所で、あの時の一瞬の宇宙の全てをしるした、短距離秩序が混沌こんとんの中に現れた。これはおまえと我と言うカオスが現れたから」


 ちょっと待って。「何故なぜだ」

 だって可笑おかしいもん。

「お嬢様の貧弱な脳みそでも理解できる様に申し上げ」


 そう言うのいいから。カオスって混沌こんとんの事でしょう。

嗚呼ああ、何んとおろかしい。悪魔で執事しつじのわたくしに、混沌こんとんをおし」


 やめて。

「お嬢様、カオスが混沌こんとんと定義される前、その解釈にはいくつか候補が御座いました。その中でも有力であったのが」


いいってばぁ~。

「現在一般に広く受け入れられているものと、もう一つ、カオスは混沌こんとん、無秩序に秩序を与えるもの、で御座います。お嬢様とわたくしは、後者なのです」


 なんかよくわかんない。「はぁ~これが我が半身とわ」

 じゃぁ~どっか行って。「無理だ。パソコンは知っているか」まぁ、それなりに。

「例えば、異なるパソコンのアプリケーションは動作しない」


 動いてるよ、ちゃんと。「動く様にしているからだ」

 ふぅ~~~ん。「はぁ~、この動く様にしている部分が、言わばカオス」

 何で。「いらっ。この部分がなければ、無秩序に並んだビット列だからだ」

 へぇ~~~。「どうしてこの様な者が我の半身なのだ」

 ぱしぱしぱし。「痛いっ痛いっ痛いっ、叩く事ないでしょう」

「ひえええぇぇぇ~~~」

「すいませんすいません。何でもないです。気にしないで下さい」

「あ~、無理ですっ」

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