第2話 誰?

 ぅ~~~ん。頭が、くらくらする。

「まっ、大丈夫でしょう。頭も打ってないし呼吸も脈拍も問題ない。このまま帰しても良いと思うよ」


 何時いつ、寝たんだっけ。

「しかしあそこ、よく人が倒れるね。滑るの」

「いいえ、予算も限られてるので、最小限の手入れしか」


 え~~~、私転んだの。

「まっ、気を付けてね」「有難う御座います。先生」


 家、じゃ、ないよね。ここ、何処どこ

「目が覚めたら、経口補水液けいこうほすいえき、飲ませて。お大事に」

度々たびたび図書館までお越し頂いて有難う御座います。請求はいつも通り事務所の方へお願いします」


 図書館、奇妙なうわさがある。

「はいはい」がらがら。


「あの」「あ~起きた、良かった。これ飲んで」

「有難う御座います」ごくごく。ぷはぁ~。「ここは」

「あ~、図書館に併設されてる教育文化センターの和室、日本庭園、よく見えるでしょう」


「えっと私」

「廊下で倒れたみたいで、図書館にいた人が見つけて、あそこね、時折ときおり人が気を失うの」

「何か、原因が」「ん~何もない、かな」


【宇宙創世そうせい時より定まっていた事だ】

「宇宙創世そうせいって」「えっ、宇宙」

「今、男の人の声が」事務員さん、どうして部屋を見回すの。

「あ~、私しかいないと思う。けど」「そっ、そうですよねぇ~」


【我は、宇宙創世そうせいの時、素粒子の配置、そこへ流入するエネルギー、又そこより放出されるエネルギーの方向と量が定まった。そこからこの時、膨張する宇宙のこの場所で発生する運命にあった事象である】

「えっえっえっ、素粒子。エネルギー、運命、事象、何の事」

いてる、何か憑いてる、憑いてるよぉ~」そそくさ。

「じゃっ、じゃぁ~帰る時は、受け付けに声かけてねぇ~」がらがら。


「えっ、ちょっ」きょろきょろ。「誰もいない。私だけ」【そう、我はお前の一部だ】

「えっ、誰、何処どこ」【それは我に、我の所在しょざいを尋ねているのか】


「こっ、怖いから、いるなら姿を見せなさい」

【しばし待て】「ぅ~~~、くらくらするぅ~」さらさら、きらきら。

「見えるか」うなっ、いっ、…イケメン執事しつじ格好かっこういい。


「はいっ、いますっ」

「お嬢様の脳は、ばかで御座いま」「全部言っちゃだめっ」

何故なぜだ、この姿もお前に合わせてやったのだが」


「えと、その、だから、私に何の用で、どうして話しかけるんですか、誰ですか」

「私は悪魔で執事しつじで御座いま」「全部言っちゃだめっ」

何故なぜだ、問いかけたのはおまえだ」

「じゃぁ~本当に悪魔」「いや違う。我はおまえだ。正確にはその一部だ」


「どう言う、事」

「我は宇宙創世そうせい時に定まり、この時、この場所で発生する運命にあった。おまえの脳内に新たに発生したニューロンネットワークと言う事象だ」

「えっ、がん」「いや、生命維持に全く支障はない。まず所在しょざいは答えた」


「私の一部。りついたんですか」

「我は事象と言ったはずだ。お前もそうだ。宇宙創世そうせい時に、何時いつ何処どこでどの様な事象、自然現象が起きるのか、全ては定まっている。この宇宙に思考をし、選択を行い、行動するものは存在しない」


「私は考えてる。この後、ちゃんと受験勉強するしぃ~」

「おまえが考えと言っているのも、我がそれに呼応こおうしているのも、決まっていた事だ。そこに意思はない。ただの事象だ。お嬢様の凡庸ぼんよう以下の脳みそでは理解できないのも」


「それ以上言ったら、叩くから」「やってみるといい」ぺちっ。「痛いっ」

「人間とは、何とおろかしい生き物。嗚呼ああ、もっと喰らいがいの」

「言うなぁー」ぺちっ「痛いぃ~、何でぇ~」

「我はおまえの一部。おまえの脳は、あっ、叩かれた。これは痛いに決まっている。痛い痛いと処理をしている。実態は空を切っているだけなのだがな。これも決まっていた事だ。べろべろべぇ~~~」


 むきぃーーー、何だこいつ、全くイケメンじゃない。

「おまえの一部だからな。当たり前だ」

「もぉ~、話しかけないで」「詮無せんない事を言う」


「私に何の用」「特にない」「何もないなら、どっか行ってよぉ~」

「それも今は無理だ。この事象の消滅は、お前と言う泡の消滅と共にある。そうだな、既に定まっている事だが、えて問われれば、おまえは我を一部とした事で、受験勉強は必要なくなった。我に問え」


「私の一部のあなたに聞いても同じでしょう」

「定まっていた事だ。こたえよう。おまえは我に問えば、宇宙の始まりから終わりまでを演算によって知る事が出来る」


「ぇ~~~嘘っぽい」「理論上は可能だ」

「じゃぁ、実際は違う訳」「お嬢様はトリケラトプスのお仲間なのではないしょうか」


「あー私、恐竜好きぃー、ていい意味じゃない気がする」

「『私、…ばかなのかなぁ~』、正しい認識だ」


「うっさい」ぺち。「痛ぃ~」

「学ばないこの脳で可能な範囲は、そうだな、精々せいぜいおまえが発生した時から消えるまでだ。従って我はみかんのラプラスデーモン」


「そんなみかんあったかなぁ~」

「やはりばかだな、文脈も読めんのか。未完だ、完全ではないと言う意味だ」


 ぐぞぉ~~~、知ってるわいっ。

「負け惜しみか。今脳の短期記憶に入ったぞ。我が半身がここまで低水準とは、なげ かわしい」


「うっさいっ、黙れっ」「はぁ~、ボキャブラリーにもとぼしいのか」

 むきぃーーー、腹立つーーー。

「それに話しはする。我はその様な事象だからな。我とお前の五感を素にもたらされる結果は、未到達のアカシックレコード。既に決まっている事だが、おまえは我に問い、受験は合格が決まっている。揺らぎの中でもこれはもう変わらない」


「えっ、未来が分る様になったの」

「そうだ。過去の事象の延長線上に起こる事は、おまえが消滅するまでの事柄を、その都度知る事が出来る。ただし、我が半身は低能であるがゆえに、現時点から過去へさかのぼるのも、未来をのぞるのも、距離が遠くなればなるほど、時間を要する上に燃費が悪く、大量の食物を必要とする」


「考え事をするとお腹がすくのぉ~」

「お~、あの異性の事なら案ずる事はない」「えっ、本当っ」

「うむ、宇宙創世そうせい時に定まっていた事だ。意を決して思いを告げ」


「ちょっと待って待って待ってぇーーー」

「全く相手にされず、けんもほろろに無様ぶざま醜態しゅうたいを友人達にさら


「言うなぁーーー」

「既に決まっている事だ。それに悲観ひかんする事はない。先々で別の異性と生殖せいしょく 行動こうどうをす」

「言う、なぁーーー」ばっちん。

「…いたぁ~~~い」「学ばんやつだ」

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