第2話 托卵されてた父親

「お疲れさまでした。橋の上からの転落死です」


 女神の声は、淡々としていた。


「直前の検索履歴には、『DNA鑑定 本当の父じゃなかった』『托卵 意味』などがあります」


「……やめてください。そこ、読み上げないでください」


「事実ですから」


 女神は手元のファイルを閉じた。


「十年間、子どもを育てていましたね。

 オムツ交換、夜泣きの相手、運動会、誕生日」


「……」


「そして昨日、『血のつながりはなかった』と知って、家を飛び出した」


「全部、嘘だったんですよ。俺の“父親”って、なんだったんですか」


 女神は少しだけ首を傾げ、言葉を選ぶように口を開いた。


「“父親”という役割のうち、どこまでを“血”に任せていたか――という話かもしれませんね」


「哲学とかいいんで。答えがほしかったんですよ」


「だから飛び込んだのですね」


「……はい」


 短い沈黙のあと、女神はお馴染みのパネルを展開した。



Aプラン:独身貴族コース

•最初から家族を持たない人生

•気楽な一人暮らし

•誰の手も引かないまま、気楽に過ごす



Bプラン:理想的な“血のつながった”家庭コース

•配偶者も子どもも、最初から血縁保証付き

•裏切りのフラグなし

•あなたが努力しなくても家族は“いる”



Cプラン:異世界で里親コース

•戦災孤児のいる国で、子どもを一人迎える

•血のつながりはない

•“父親になる”かどうかは、あなたの行動次第



「……Cで」


 声は震えていたが、はっきりしていた。


「血縁がないことを、もう一度選びますか?」


「“親になる”って、血じゃなくて、たぶん……」


 言いかけて、うまく言葉が続かない。


「一緒にいる時間とか、やったこととか、そういうので決まるんだと思うんです。

 それを途中で放り出したの、たぶん俺のほうだから」


「ならば、今度は放り出さないと?」


「……できるなら、そうしたいです」


 女神は静かに頷いた。


「では、Cプランを。

 そこには、『最初から血のつながりがない』ことを知っている子どもがいます」


「知ってるんですか」


「はい。その上で、“それでも父親でいてくれる?”と聞いてくるでしょう」


 喉の奥が、きゅっと詰まる。


「答えを、決めてから行きますか?」


「もう決めてます」


 女神は、少しだけ優しく微笑んだ。


「それでは、行ってらっしゃいませ。

 今度こそ――」


 言葉に、ほんの少しだけ力を込める。


「“家族を選ぶ勇気”を持ってくださいね」


 その一言は、真っ暗だった川面に、ようやく灯った街灯のように思えた。

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