第二話_お母さん、膝を折る
女王はビオラを見送ったあと涙を拭い、ハァと息を吐いて巣に戻り玉座に座ると近くの働き蜂に顔を向ける。
「場所は予定通りね?」
「はい、予定通り南東の砂漠に放置するよう指示しています」
女王は頷く。
「可哀想だけど…… でもあの子のため。 さすがにそんな過酷な環境に捨てられたら嫌でも緑を探して移動するでしょう」
妖精蜂は自然を愛する種族である。本能的に緑豊かな土地を求めるだろう。ビオラが放置される砂漠はほんの数日間移動するだけで緑のある地に辿り着ける場所である。女王はビオラを追放すると決めてから追放場所には吟味に吟味を重ねてきたのだった。
「あの子には自ら探索し恵多き土地を見つけたときの感動を、子を産み育て、少しずつ巣が大きくなっていく、そんな達成感を感じて欲しいものだわ」
女王は何もビオラを嫌って追放したわけではない。怠け者とはいえ、可愛い我が子である。一人前に成長し、幸せになってほしいと願っての厳しい処置であった。
さて、ビオラが木箱に括りつけられて数日。木箱は砂漠のど真ん中に降ろされる。
「じゃあ頑張ってね、ビオラ」
そう言って笑顔で手を振るリナムをビオラは叫んで呼び止める。
「待って、リナムお姉ちゃん! せめてロープ切ってよ! このままじゃ干からびるって!」
「あ、ごめんごめん」
忘れてたよと反省しながら頭をポリポリかきながら戻ってきたリナムが、ナイフを取り出してビオラを縛っていたロープをぷちっと切る。
ビオラはロープ痕が残ってしまった肌をスリスリと擦りながら涙を溜めて上目遣いでリナムを見て言う。
「お姉ちゃんたち、本当に帰るの? お願いだから誰か残って――」
「「ビオラ、頑張って! じゃっ!!」」
ビオラの言葉を切るように姉たちは別れの挨拶を済ませると全力でその場を飛び去って行った。
「お姉ちゃーーーーーーんっ!!」
ビオラは叫ぶが、姉たちが振り返ることはなかった。
「うぅ…… 酷いよぉ、お姉ちゃんたち」
ビオラは肩を落とす。しかしこうなっては仕方がない。何とか生き延びねばと周囲の状況をキョロキョロと見渡して確認する。
「う~ん、砂漠」
しかし一面の砂地というわけでもなく、ビオラが立つ場所から遠く北側と、東にすぐ近く岩場があった。
「とりあえず荷物を岩場に移すか」
まだ浮力が残っている綿毛を見てそう言ったビオラは木箱を押して岩場まで移動した。
「あっちぃ~、喉乾いたぁ。 荷物の中に水ってあるのかな? さすがにあるよね?」
そう言いつつ荷物を漁るビオラ。そして「え? ないの?」と信じられないと声を出す。
「おっ! 魔法植物の苗がある。 よしよし」
独り言を言いながらビオラは一つの花の苗を取り出した。
「ウォーター芭蕉! あとは水脈があるかどうか……」
自分の身長ほどもある苗を抱えたままビオラは岩場の周りを飛ぶ。やがてウォーター芭蕉がピクッと反応したのを確認すると「ここだぁっ!!」と叫びながら苗を地面に植えた。
しばらくするとウォーター芭蕉の花弁の中にジワッと水が染みだしてくる。花弁に水が溜まるのを待ってビオラは手で水を汲むと美味しそうに飲んだ。
「ぷはぁっ! よかったぁ、水脈あって。 いきなり死ぬかと思ったよ」
魔法植物、ウォーター芭蕉は植えると水脈まで根っこを伸ばし、魔力を消費して水を汲み上げる植物である。また、周囲に火があったりすると危険を感じてスプリンクラーのように水を放出したりする。
「わたし一人分くらいの水だったら、わたしが魔力籠めるくらいで足りるかな? 大量に使うとなると心もとない…… う~ん、肥料とかあったっけ?」
ブーンっ、と飛び立ったビオラは木箱まで戻ってくると再び中を漁る。
「おっ、あったあった肥料。 あとは、ミニ世界樹の苗が一つに、ショット大豆の苗が四つか」
魔力がたっぷり籠った肥料を発見して安心し、小腹の空いたビオラは食料である花粉団子を手に取ってガブっと齧りモシャモシャと咀嚼する。
ビオラが見つけたミニ世界樹は、ビオラの背丈の四倍くらいの木の苗である。育てばゆっくりではあるが大きく成長していく。光合成の際に副産物として魔力を生み出すことができ、その魔力を使ってミニ世界樹自身が生育しやすいように周囲の土壌を改善していく性質がある。
そしてショット大豆は実に生った豆を魔力を使い、敵に向かって高速で撃ちだすことできる魔法植物である。非力な妖精蜂たちはこうした魔法植物に頼って外敵に対しているのである。
「よし、早速だけど植えてみよう…… 待って、砂漠に植えて大丈夫か?? でもウォーター芭蕉は大丈夫だったし…… 大丈夫?」
若干の不安があったがミニ世界樹を岩場近くの砂地に植えると、その周囲にショット大豆も植える。
「よしっ! 大丈夫そうね」
何となくだが魔力の流れが分かる妖精蜂のビオラは、ミニ世界樹が魔力を生成し始めたのを感じた。
「次は巣か……」
呟きながら周囲を見渡したビオラは岩場の高い位置に大きく張り出した岩があるのを見る。
「あそこに部屋をぶら下げるか。 巣が大きく重くなったら岩場にへばりつけて支えればいいしね」
ビオラは巣の建築を始めようと動き出す。その様子を、帰ると見せかけて実は戻って来ていたリナムが砂丘の影から見ていた。彼女は唖然とする。
「一向に動かないと思ったら…… 嘘でしょ、あの子! マジでここで巣作りするつもり!?」
過酷な環境に放置することで自主的に移動し、苦労した末にやがて新天地を発見するという感動のシナリオを描いていた女王やリナムの思惑の斜め上を行き、迷いなく砂漠のど真ん中で巣の建築を始めたビオラにリナムは頭を抱える。
「……いや、こうしてる場合じゃない。 とにかく報告しないと」
数日後、戻ったリナムからの報告を受けた女王は呆然としてガクリと膝を折った。
「マジで…… えっ? マジなん??」
女王の威厳などゴミ箱へポイしたように素になってリナムに問い返したのだった。
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