浮気したって!「ばれなきゃ平気!本稿版
志乃原七海
第1話【本編 第1話:積まれた嘘】
---
# 任務記録:トロイの木馬と祝砲 【Case.1:積まれた欺瞞】
**担当官:** 管理者(妻)
**対象:** 敵性存在(夫)
**ミッション:** 敵性反応の解析およびカウンター準備
## フェーズ1:【日常/巡回】——ノイズの混入
管理区域(リビング)に西日が差し込んでいる。平和な光景に見えるが、これはカモフラージュだ。私は補給物資(アイスコーヒー)を摂取しながら、眼前の「敵性存在(ターゲット)」を観察していた。
「ねえ、俺の誕生日、もうすぐだよね?」
ターゲット——夫が、能天気な顔で通信(会話)を試みてきた。その表情は平和ボケしたNPCそのものだが、私のセンサーは微細な異常値を検知していた。
「……記録にある。10月20日だ」
私は感情というリソースを割かずに応答する。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「うーん、お前が選んでくれたものなら、なんでも」
ターゲットは笑う。だが、その指先はテーブル上の携帯端末(スマホ)を不自然に弄んでいる。画面は常に裏返し。ここ数週間、彼は端末を「機密保持モード」で運用している。管理区域内での不透明な通信は、セキュリティ規約違反だ。
私の胃の腑に、鉛のような重量感が生じる。これは直感ではない。長年の戦闘経験が弾き出した「敵襲警報」だ。
## フェーズ2:【遭遇/警報】——セキュリティホール
違和感は、システムログの小さなエラーから始まった。
一ヶ月前より、ターゲットは入浴(機体洗浄)の際にも端末を脱衣所に持ち込むようになった。問いただせば「業務連絡」とシラを切るが、その時間帯は明らかに就業規則外だ。
そして昨晩、共有カレンダー(作戦スケジュール)を確認した際、不可解な空白領域を発見した。
火曜の1500時、金曜の1700時。
ターゲットの行動ログにおいて、この時間帯だけが「不明なデータ」として塗りつぶされている。
「お母さん(HQ)からの連絡だ」
彼はそう弁明したが、HQ(義実家)への定時連絡にしては頻度が高すぎる。
結論は明白。
**外部からの不正アクセス(浮気)。**
あるいは、ターゲット自身が外部サーバーへ接続を試みる「トロイの木馬」と化している可能性が高い。
## フェーズ3:【交戦/分析】——暗号傍受
決定的証拠(コア・データ)を入手したのは、深夜0100時だった。
私はスリープモード(就寝)を偽装し、聴覚センサーの感度を最大まで引き上げていた。
管理区域のドアの隙間から、ターゲットの潜めた声が漏れ聞こえてくる。
『うん……だから大丈夫だって(笑)。バレてないよ……ああ見えて、鈍いし』
脳内の処理回路が一瞬、過熱しかける。
「鈍い」?
私の高度な防衛システムを、たかだか旧世代機(夫)ごときが侮ったのか。
『え? プレゼント? もちろん、用意するよ。ふふ、**罪滅ぼし**、かな』
——解析完了。
「罪滅ぼし」。そのキーワードが入力された瞬間、ターゲットのステータスは「要監視対象」から「排除すべき脅威」へと更新された。
彼は、私が長年維持してきた「家庭」というセクターの信頼性を、バックドアから侵入した何者かと共に破壊しようとしている。
私はベッドの中で、冷徹に演算を開始した。
怒りはない。あるのは、損害賠償請求額(ダメージソース)の計算式だけだ。
## フェーズ4:【鎮圧/準備】——誘導ミサイルのロックオン
翌日、カフェ(補給ポイント)にて。
「拓也(ターゲット)。プレゼントのことだが」
私は平静を装い、トラップを仕掛ける。
「お前が選んでくれたものなら、なんでも嬉しいな。サプライズ、期待してるね?」
ターゲットは無防備な笑顔を見せる。その顔面に張り付いた「嘘」のレイヤー構造が、私には手に取るように見えた。
「……ああ。任せておけ。お前の想像を絶する『最高のプレゼント』を用意する」
「楽しみ!」
私は口角を2ミリだけ上げるプログラムを実行した。
愚かなターゲット。私が用意するのは、装飾品ではない。
それは**「法的制裁」という名の戦略核兵器**だ。
その夜、私は指令室(書斎)のPC端末を起動した。
検索窓に入力するコマンドは以下の通り。
* `Command: 興信所 成功報酬型`
* `Command: 弁護士 離婚慰謝料 徹底抗戦`
* `Command: 不貞行為 証拠保全プロトコル`
そして、部屋の隅にはAmazon(補給処)から届いたばかりの**ネイビーの包装紙**。
その横には、ターゲットへの本当のプレゼントとなる**「GPSロガー(追跡ビーコン)」**が鎮座している。
「スマートウォッチをお揃いで買おう。健康管理に役立つ」
そう提案すれば、彼は喜んでその首輪をつけるだろう。
火曜の1500時、彼の心拍数がどの「座標」で上昇するか。そのログこそが、私の勝利条件だ。
## フェーズ5:【戦況報告】——次なるフェーズへ
私は静かに、作戦開始ボタンを押すイメージを浮かべる。
「ハッピーバースデー、ディア、エネミー。システム初期化の準備はいいか?」
ターゲットが積み上げた嘘の山は、間もなく法的文書という重機によって更地にされる。
これはプレゼントではない。
**「契約不履行に伴う、強制執行の予告」**である。
---
**【次回予告:Case.2 追跡と爆撃】**
装着されたGPSロガーが示す座標は、予想通りの「ホテル街(非戦闘地域)」。
管理者は冷徹に証拠写真を撮影し、慰謝料という名のミサイル発射シークエンスへ移行する。
ターゲットが「最高のプレゼント(内容証明郵便)」を開封する時、本当の地獄が幕を開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます