第2話
本棚の中には受験の時に使った申し訳程度の参考書。
子供の頃好きで集めていた漫画。一時期流行っていた音楽のソフト。
様々な物が綺麗に並べられているがイサムの視線が向かったのはその中で一番場所を占めている区画である。
多種多様なVRゲームのソフトが買った順に並べられている。
人気作からマイナーな作品までジャンルも様々だが、共通点はある。
どのゲームも異世界に行く前のイサムがどハマりし、熱中したソフトばかりだった。
しかし、そのソフトたちを見ても今のイサムの心は躍らない。
「あの世界を体験した後じゃな……」
心の中でそう呟いて、イサムは目を閉じる。
瞼の裏に浮かんだのは異世界での輝かしい冒険の日々だった。
目にする物、肌で感じる恐怖、匂い。
全てが本物で全てに心が躍った。
自分は特別なんだと信じ続け、頭の中で妄想し続けた日々があそこにはあった。
しかし、魔王を倒した今あの世界に戻る術はない。
フルダイブ技術でゲームの中に入り込めるとはいえ、造られた世界に今更熱中できるとは思えなかった。
「暇だ」
唸るようにイサムはもう一度呟いた。
その言葉に返事が返ってくることはなかったが、代わりにスマホの通知音が鳴る。
目を開けて、枕元に置いたスマホを見る。
表示名を一瞬だけ確認して、またすぐに目を伏せる。
再び通知音が鳴る。
それを無視すると、また再び。
何度も何度も、イサムが既読をつけるまで通知は鳴り止まなかった。
「ああ、クソ……しつこい」
ついには根負けする形でイサムはスマホを開いた。
思った通り通知は同じ人間から連続で送られてくるメッセージによるものだ。
「おーい」
「何してるー?」
「気付いてるでしょ」
「早く見ろよー」
惰性的に続いていたメッセージはイサムがスマホを開いたことで一度止まる。
既読がついたことに気付いたらしい。
「やっぱ見てた。早く返事してよ」
新たに届いたメッセージに目を通し、慣れた手つきでイサムはスマホの文字を打つ。
「悪い。考え事してた。何か用か?」
返信する。
イサムが打ち込むのよりもさらに早く、新たにメッセージが届く。
「前に言ったゲームもうダウンロードした? 今日なら時間あるから一緒にやろうよ」
やっぱり……。
メッセージを見てため息をつく。
内容が想像と寸分違わなかったからだ。
「前も言ったじゃん。今はゲームをする気にはなれないって」
「えー? 前はあんなにやってたじゃん。ねぇ、お願い。新作のゲームだから上手い人が一緒にいた方が都合がいいんだよね」
断りを入れたが、相手も引き下がるつもりはないらしい。
イサムは先週発売されたばかりのVRゲームに誘われていた。
リアルなファンタジー体験を売りにしたゲームらしいが本物の異世界を体験したイサムには物足りないに決まっている。
どうにも気乗りがしなかった。
それでも諦めずに何度も誘ってくるメッセージにどう返信しようかと悩んでいると
「過去問」
と短く新たなメッセージが届いた。
「汚ねぇ」
メッセージではなく口に出して悪態を吐く。
相手は幼馴染みであり、同じ学校でもある。
イサムが異世界に魔王を倒しに行っていた約二年、真面目に学校に通っていた奴だ。
魔法のおかげで失踪を碌に追及されず、いなかった二年間は無かったものとして高校一年生から始めることになったイサムにとっては年齢が同じ元同級生という扱いになる。
高一からスタートというのは都合が良かったが、二年間まともに勉強してこなかったブランクは大きい。
そこで、成績の担保として幼馴染みに一年生の頃からのテストの過去問を恵んでもらう約束をしていた。
先ほどのメッセージは「ゲームをしてくれないから過去問は渡さない」という脅しである。
イサムは大きくため息を吐くと、スマホを持つ指を動かした。
「わかった」
短くそれだけ返信すると散々鳴り続けていた通知音はようやく静かになってくれた。
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